侯爵令嬢の婚約の行方~妖精の様だと言われる可愛い妹と素直になれない私~(旧、やって出来ないこともある)

木嶋うめ香

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お母様の教え6

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「その話の前に、これは誰にも話したことはないのだけれどね」
「はい」

 お母様がさも重大なことのような声色で口を開きましたが、『似過ぎているから贔屓していた』の発言が衝撃過ぎてつい身構えてしまいます。似過ぎているから贔屓していた、だけで十分衝撃的だというのに、誰にも話したことがないというはどんな話なのか怖かったのです。

「謙遜でもなんでもなく、私は自分の顔を美しいとは思っていないの。勿論、皆が褒めてくれる通り綺麗ではあるのでしょうけれどね、私はそうは思っていないの」
「美しいです、妖精姫というのは誇張でもお世辞でもない心からの賛辞です」

 どんな話をされるのかと身構えて聞かされたのは、私への遠回しな慰めのようなものでした。
 私が幼い頃から自分の姿に劣等感を抱いていたのを知った故の慰めでしょうが、私はなんだかこんな嘘まで吐いて慰められたくないと捻くれて考えてしまいました。

「ほら、そういう反応になるから誰にも言えないのよ」

 私の、そういう反応は予想がついていたのか、お母様はクスクスと笑った後で「本心なのに」と呟きました。
 本心、こんなに綺麗な人が自分を美しいとは思っていないなんて、例えそれがお母様でも信じられません。

「けれどね、私は自分の顔よりも旦那様の顔が好きだし、ジョーシーの顔が好きなのよ。体つきだって私がジョーシーのようだったら良かったと今でも思っているほどよ」
「私、ですか? お母様、あの……」

 そこまでの慰めはいらない。と言いかけて私を見るお母様の目が真剣だと気が付きました。
 今の話はまさか、私への慰めではなくお母様の本心のなのでしょうか。

「旦那様とジョーシーの綺麗な金色の髪も芽吹いたばかりの若葉のような緑色の瞳も、とても美しいと思うわ。凛々しく知的な顔立ちはとても素敵よ」
「そうでしょうか」
「ええ、そうよ。私の様な頼りない見た目より百倍も千倍も素敵。私はね、旦那様と初めて会った時に見惚れたの」

 見惚れるって、どんな状況だったのでしょう。
 お父様も私もこの国の貴族には多い金髪と緑色の瞳です。お父様はとても背が高く、剣術より魔法を得意とする人ですが鍛えていると一見して分かる体つきをしています。

「あら、納得できないと言う顔ね」
「お父様を見惚れるという状況が想像できません、そもそも私もお父様もこの国の貴族の中で目立つような秀でた容姿をしているわけではありませんし」
「この国の中ではそうでもね、私の母国では違うのよ。ジョーシーは一度もあなたの祖父母にも伯父伯母たちにも会ったことはないから想像出来ないかもしれないけれどね、私のこの顔、姿は母国では当たり前に存在するの。少し桃色にも見える様な金髪と紫の瞳を両方持つのは聖女の力を持つ王家の女性だけですけれどね、どちらか片方であれば王族の殆どがそうですし、貴族の中にも平民にもいますし」

 髪色もそうですが、何よりお母様とカレンの紫色の瞳は神秘的で宝石の様で、いくらでも見ていられる美しさなのですが、この色を持つ人が多いというのは驚きです。
 王族だけでなく平民にもいるというのは、信じられません。

「平民もですか」
「ええ、そうよ。貴重でも何でもないの。私の髪色と瞳の色、両方を持つ者は聖女の力を持つから、そういう意味では貴重なのかもしれないけれど、でもそれだけ」

 それだけ、とお母様は言い切りますが、私には上手く想像できません。
 この国では、お母様とカレンだけがこの髪色と瞳の色を持っているのですから。

「皆は私やカレンの顔立ちを褒め、体つきが華奢だと褒めるけれどね、これも母国では普通なの。国民皆似たような顔立ちで似たような体つきをしているの」
「え、えええっ。そんなこと」
「まあ、似たようなと言っても、背が高い低い、痩せすぎている太っているというのはあるわよ。すべて型にはめたように同じということではないわ」

 それはそうでしょう、私達は作り物ではないのですから個人差はあって当たり前です。
 でも、お母様の母国の方々が皆似たような顔立ちと体形というのは、驚き以外の何物でもありません。

「驚いているわね。でもあなたや旦那様だってこの国の人だと一見して分かる顔つきをしているでしょう?」
「はい、それはそうですね。私とお父様はこの国の人間だとすぐに分かると思います」

 私は霧が晴れたような気持ちで頷きました。
 先ほどのお母様の告白は、私への慰めでもなんでもなく本心からのものだったのだと理解したのです。

「お母様にとって、お母様の見た目はお母様とカレンだけの特別ではなく良く知ったものなのですね」

 お母様やカレンの様な容姿をした人ばかりいる国というのは、上手く想像できません。
 ですが、生まれた時から自分に似た人ばかりを見て育ったのであれば、自分が特別に秀でた見た目をしているとは思わないものなのかもしれません。

「そういうことよ、私にはありふれた色でありどこにでもいる容姿だというのに、暮らす国が変わっただけで妖精の様だ儚げで美しいと言われるようになってとても戸惑ったわ。妖精の様に美しいと言われても、姉妹も母も祖母も同じ顔ですけれどとしか思えないし、私には旦那様がこの世で一番素敵な方だし、ジョーシーもそう。あなたは自分の顔が好きではないのかもしれないけれど、綺麗で凛々しくてどこに出しても恥ずかしくない私の自慢の娘ですよ」

 自慢の娘、そう言われて私は思わず顔を両手で覆ってしまいました。
 私は捻くれていて、劣等感の塊で、とてもそんな風に言ってもらえる人間ではないのです。
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