侯爵令嬢の婚約の行方~妖精の様だと言われる可愛い妹と素直になれない私~(旧、やって出来ないこともある)

木嶋うめ香

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疲労困憊

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「つ、疲れました~っ」

 だらしなくソファーの背もたれに寄り掛かるカレンに苦笑いしながら、私はすました顔で紅茶を頂いていました。

「カレンきちんと座りなさい」
「お姉様はお疲れではないのですか? 私はもう無理ですぅ」

 狩りに行くことも多い私と違って、カレンは治療院で殆ど座りっぱなしで治療を続けている毎日ですから、基礎体力が違うのでしょう。
 その分私の二の腕は筋肉質ですし体型も細身ですがしっかりしていますが、カレンは全体的に華奢です。
 カレンは体力は無いものの、魔法を使う精神力は誰より強いのですから、治癒魔法師としては十分なのですが、これからは第三王子殿下の婚約者になるのですから、これだけでは足りないでしょう。

「仕立て屋との交流も慣れないと疲れるのよ。でも今日は注文しただけでしょう? 後日仮縫いがあるのよ、そちらはもっと大変よ」

 何せ仮縫いは注文したドレス全てを着てみなくてはなりません。
 仕立ての腕は確かですから寸法が合わない等は殆どありませんが、着てみると想像していた物と違うということは多々あり飾りを足したり減らしたり、色を変えたりと考えるときりがないのです。
 それは楽しみでもあり苦しみでもあります。
 何せドレスはなかなかの重さがありますから、着替えるだけでも一苦労ですし、昼夜それぞれドレスに合う髪型も異なりますから、髪を結い直したり化粧を変えたりという手間も掛ります。
 
「今日以上大変だなんて、倒れてしまいますわ」
「何を言っているの。あなたはまだまだドレスを作るし、宝飾品だってドレスに合わせて作るのよ。これ位で倒れていたらお母様に叱られてしまうわよ」

 普通の令嬢は魔物討伐も怪我人の治療も行いませんが、その代わりにドレスや宝飾品や髪型の流行を覚え、流行りのお菓子や芝居を熟知し、絵や音楽等の芸術的な知識を蓄え社交に生かし、家の為の情報収集を行います。
 ダンスを美しく踊るための練習を欠かさず、些細な立ち居振る舞いにも気を抜かず生きるのですから、数着のドレスの注文で疲れたと言ってソファーでぐったりしているカレンにはまだまだ課題が多く残っているのです。

「貴族令嬢って大変なのですね」
「あなたは、生まれた時から高位貴族の令嬢なのですけれどねぇ」

 どこか他人事なカレンにとって、大量のドレスの注文ですら未知の世界なのでしょう。
 両親も私もカレンが王族どころか上位貴族すら嫁ぐなど考えていなかったのですから、そういう教育をカレンにして来なかったツケがこんなところに来ているのです。

「私、自分には縁遠い世界だと諦めていましたから、勉強が足りませんね」
「これから覚えていけばいいのよ」

 励ますように言いながら、内心は不安で一杯です。
 慣れてきたとはいえ、私ですら夜会やお茶会での会話には苦労しているというのに、全く慣れていないカレンが上手くできるのでしょうか。

「社交は兎に角慣れですからね。経験を積んでいくしかないわ。大丈夫、私もお母様もいるのだから」

 大丈夫と言いながら、私こそが不安です。

 ただの侯爵令嬢と、王子の婚約者の令嬢では敵になる人達の規模が違いすぎます。
 こうなると分かっていたのなら、カレンを甘やかさずにせめてお茶会に連れて行くべきだったと後悔しても遅いのです。

「慣れるしかないわ」
「はい」

 これからの事を考えると憂鬱でしかありませんが、私とお母様がカレンを補助していくしかないのだと、自分に言い聞かせたのです。
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