後悔はなんだった?

木嶋うめ香

文字の大きさ
62 / 212

試しと後悔 2

しおりを挟む
 私の魔力を魔法発動の力として使う。細く細く魔力を放出して、弱い魔法を連続で使う。
 兄様の体はとても弱いから、強い魔法は使えないから、少しずつ少しずつ体に力を与えていく。

「弱く魔法をつかうの、それがだいじなの、くりかえしくりかえししゅるの」

 じれったくなるほど弱い力で魔法をかけ続けるのは、幼い体にはかなりキツイけれど、私は前回この魔法を数え切れない回数掛け続けた。
 魔法を使うのも魔法を掛けられるのも私自身だったから魔石を使っていたけれど、使ってみると自分の魔力を使う方が簡単に思える。

「お上手です、しっかり魔法が発動し維持できておりますぞ」

 驚くガスパール先生の声を面映ゆく感じながら、私は魔法を維持し続ける。
 前回のガスパール先生がこの方法を取らなかったのは、先生の治療方法が間違っていたわけではなくこの頃はまだ滋養魔法と強壮魔法は、大人の病後の患者に使うものとされていて、兄様の様な体の弱い子供に使うことは無かったためだ。
 私がなぜ兄様の体に良いのではと思いついたのかといえば、偶然ではなく前回の私にこの魔法を教えてくれた時に、ガスパール先生が話してくれたからだった。
 確か王族だか公爵家だったかの子供が虚弱で、でも跡取りになれる子供が一人だけだったから、ありとあらゆる治癒魔法や薬を使ったのだそうだ。
 それでも良くならず万策尽きかけた時、専属の治癒師が子供の心の支えになればと二つの魔法を日に何度も掛けたのだという。
 長い月日が掛かりはしたが、子供は食事を沢山取れる様になり長く歩けるようになった。
 熱を出さなくなり、寝込むことも無くなったのだと聞いた時、ガスパール先生は兄様にも同じ魔法を使っていたらと考え、子供を授かれる体力すらなかった当時の私の体も健康に出来るのではと考えたのだそうだ。
 多分ガスパール先生は、私を見捨てられなかったのではなく、私に親身になることで兄様を救えなかった罪滅ぼしをしようとしていたのだろう。
 そうでなければ、両親に見限られ夫と関係も良くなかった私に気遣う理由がない。

「……どう? もうひとつも?」
「いいえ、ミルフィ様十分でございます。立派に魔法を発動されておりました。魔力の操作も完璧にされておいででしたし、その量も一定、素晴らしい」
「りっぱ? じょうずにできた?」

 ガスパール先生の言う難しい言葉が分からないと首を傾げつつ、本当に出来ていたのか不安でキム先生に尋ねる。

「ええ、とても上手でしたよ。ミルフィ様お腹は空いていませんか」
「おなか? お菓子食べたい!」

 私の魔力は、まだそれ程多くないのだろう。
 少し魔法を使っただけなのに、食事して少し時間が過ぎた程度には空腹になっている。

「では焼き菓子を召し上がって下さい。何か飲み物も飲まれますか」
「果汁がいい」

 キム先生の問いに答える私の様子を、ガスパール先生は微笑ましそうに見つめている。
 その視線はとても優しくて、前回の視線とは違うと比較出来る。
 前回の先生の目は、憐れんでいた。
 暗い部屋で一人で過ごす日々、子供が欲しくて、子供が生まれたら何もかもが変わるのだと信じていた私を、先生の目はただ憐れんでいた。

「お兄ちゃまに魔法かけていい?」

 二人の返事を待っていると、キム先生が私の前に焼き菓子を盛った皿を置き、果汁を注いだカップを持たせてくれる。
 まずカップに口をつけ一息ついた後、「だめ?」と再度尋ねる。

「ミルフィ様が上手に魔法を使われた事、侯爵にお伝えしますが、判断されるのは私達ではなく」
「おとうしゃまがだめって言ったら」

 カップを持つ手が震えて、果汁が揺れる。
 一口飲んだだけで、空腹が少し満たされた感じがするから迷宮産の果物の汁なのかもしれない。
 私の知らない味だけれど、甘くねっとりとしていて美味しい。
 沢山のお菓子も果汁も、私のために用意されたものだ。見限られた子でも、両親はこんな贅沢なものを私にも用意してくれる。
 私は少しでも応えたい。
 どうしようもないと見限られた前回の私より、今の私の方が家の為になる。
 私の魔力全て使ってでも、兄様を守る。
 だからその為にも、お父様を説得しなければ。

「ミルフィお願いしゅる。魔法使わせてって」

 兄様を救えるのなら、私なんてどうなってもいいのだから、すでに今回の私も両親に見限られているのだから、私のすべてを兄様の為に使う。
 俯き決断する私は、心配そうに私を見つめる二人の視線には気がついていなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

谷 優
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

婚約破棄したその場から、ざまぁは始まっていました

ふわふわ
恋愛
王国随一の名門、アルファルド公爵家の令嬢シャウラは、 ある日、第一王子アセルスから一方的に婚約を破棄される。 理由はただ一つ―― 「平民出身の聖女と婚約するため」。 だが、その“婚約破棄したその場”で、ざまぁはすでに始まっていた。 シャウラは泣かず、怒らず、抗議もしない。 ただ静かに席を立っただけ。 それだけで―― 王国最大派閥アルファルド派は王子への支持を撤回し、 王国最大の商会は資金提供を打ち切り、 王太子候補だったアセルスは、政治と経済の両方を失っていく。 一方シャウラは、何もしていない。 復讐もしない。断罪もしない。 平穏な日常を送りながら、無自覚のまま派閥の結束を保ち続ける。 そして王国は、 “王太子を立てない”という前代未聞の選択をし、 聡明な第一王女マリーが女王として即位する――。 誰かを裁くことなく、 誰かを蹴落とすことなく、 ただ「席を立った」者だけが、最後まで穏やかでいられた。 これは、 婚約破棄から始まる―― 静かで、上品で、取り返しのつかないざまぁの物語。 「私は何もしていませんわ」 それが、最強の勝利だった。

勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。 パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。 攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。 ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。 一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。 これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。 ※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。 ※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。 ※表紙はAIイラストを使用。

【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない

春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。 願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。 そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。 ※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

処理中です...