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キム先生の試し3 (ルーシー視点)
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「そんなこと、おかしくありませんか」
グレタが反論する。
「何がおかしいのです?」
「だって、盗みがいけないっていうのは誰だって知っていることで……」
キム先生の灰色の目が真っ直ぐにグレタを見て、グレタは途中で口を噤む。
「子爵夫人だって、最低限の悪いことと良いことの区別くらいあったでしょう。魔法の師として呼ばれた私が魔法誓約をしているのですから、彼女も同じくしていた筈。もしも彼女は特別だからと魔法誓約をしていなかったのならそれこそ侯爵の怠慢ですけれどね」
「子爵夫人が特別? 奥様が信頼していたからですか?」
確かに私達と同じ魔法誓約をしていたのなら、子爵夫人がミルフィーヌお嬢様を虐待出来たのはおかしな話だ。
侯爵家の令嬢を虐待していたのに、魔法誓約の不利益をもたらすに該当しないなんて。
まって、不利益?
「子爵夫人はそう思っていなかったから出来た? そうなんですか?」
自分で言っておきながら、そんな筈はないと心の中で否定する。
否定したのに、キム先生はそれが答えだとばかりに頷いた。
「ええ、多分。誓約をしていたのか、していたとしたらどんな内容だったのか、私にはそれすら分かりませんが、仮にあなた達と同じく、侯爵家に不利益になる行いをしないと誓約していたとして、侯爵から話を聞いただけの憶測にすぎませんが、彼女は自分がやっていた事は正しいと思い込み罪を犯していた。それでは魔法誓約に反していないことになるから、罰は下らなかった」
キム先生の説明は筋が通っている様に思うけれど、実際にそんなことがあり得るのだろうか。
魔法誓約は、誓約をした者とさせた者両方が承諾した上で神殿で解除して貰わない限り死ぬまで続くものだと言われたのに、その誓約が意味を成していなかったなんて。
「それはつまり、誓約の内容が大雑把過ぎるからですか?」
キム先生は、条件が緩いと言った。
それはつまり、誓約に穴があると言っている?
「そうです。魔法誓約だって万能ではありません。神の御業で誓約を交わすとはいえ、何が不利益になるかの判断を出来るのは誓約した本人だけなのです」
「そんなのっ、じゃあ意味が無いってそんなの」
グレタが叫ぶ、それを私は止めなかった。
悪意を持った人間から、侯爵家を守るために行っている誓約に意味がなかったなんて、そんなこと信じられない。
「頭がおかしくなりそう。罰を受けるようなことしないと思っていても、誓約をした日は恐ろしくて眠れなかったというのに、それなのに意味が無い?」
「ふっ。あなたの場合、菓子一つ盗んだだけで罰が下るでしょうね」
動揺するグレタに、キム先生は小さく笑いながら告げる。
「私はそんな絶対に真似しません! 誓約に背く様な、罰を受ける様なこと絶対に!」
「落ち着きなさい。罰を受けることをしているなんて私は言っていない。心からこの家に仕えようと思うあなた達二人なら、菓子一つ盗んだだけでもそれが悪いことをしていると自覚するだろう。そう言っているのです」
そうだ、私なら仮に盗みを働いたらそれが悪いことだと絶対に思うし、後ろめたさを感じるし後悔もすると思う。
でも子爵夫人には罰が下らなかった。それはあの人が自分の行いを悪いと思っていなかったから?
「魔法誓約で定めた条件による罰は、誓約に背いた本人の自覚で罰が下る場合と、誓約させた者が誓約に背いた相手に、誓約に基づき罰を与える。この二つがあります。罰が下る絶対条件として前者は本人の誓約に背いた行いをしたという自覚、後者は相手が誓約に背いた行いをしたと知るというのがあります」
「誓約に背いた行いをしたと言う自覚」
悪い事をしそれが悪い事だと自覚しないなんて、そんなことあるのだろうか。
「どんな悪人でも自分の行いが悪だと自覚するものだと、そういう前提で大抵の者は魔法誓約で『〇〇に不利益になる行いをしない。不利益を及ぼさない』という条件を入れます。あまり細かく決めると相手の行動を縛り過ぎることがある為にそうするのです。そして大抵の人はこれで十分だとも考えます」
それは当然だろう。
仕える家に不利益になる様な行いをしないと誓約に書かれていたら、盗みや暴力や嘘はそれに該当すると考える。
「それでも、自分がそうしていると自覚していなければ、盗めてしまう?」
「論理的にはそうですね。でも、考えてみてください。どんな些細なものを盗んだとしても、その行いに後ろめたさを感じずにいられますか? 誰かに見つかったらどうしようと恐ろしくなりませんか?」
「なると思います」
そうか、だから奥様は今もパティを疑っていないのか。そして、侍女頭様が子爵夫人の悪事を報告しても信じて貰えなかった。
誓約魔法は絶対だと信じられていたから。
グレタが反論する。
「何がおかしいのです?」
「だって、盗みがいけないっていうのは誰だって知っていることで……」
キム先生の灰色の目が真っ直ぐにグレタを見て、グレタは途中で口を噤む。
「子爵夫人だって、最低限の悪いことと良いことの区別くらいあったでしょう。魔法の師として呼ばれた私が魔法誓約をしているのですから、彼女も同じくしていた筈。もしも彼女は特別だからと魔法誓約をしていなかったのならそれこそ侯爵の怠慢ですけれどね」
「子爵夫人が特別? 奥様が信頼していたからですか?」
確かに私達と同じ魔法誓約をしていたのなら、子爵夫人がミルフィーヌお嬢様を虐待出来たのはおかしな話だ。
侯爵家の令嬢を虐待していたのに、魔法誓約の不利益をもたらすに該当しないなんて。
まって、不利益?
「子爵夫人はそう思っていなかったから出来た? そうなんですか?」
自分で言っておきながら、そんな筈はないと心の中で否定する。
否定したのに、キム先生はそれが答えだとばかりに頷いた。
「ええ、多分。誓約をしていたのか、していたとしたらどんな内容だったのか、私にはそれすら分かりませんが、仮にあなた達と同じく、侯爵家に不利益になる行いをしないと誓約していたとして、侯爵から話を聞いただけの憶測にすぎませんが、彼女は自分がやっていた事は正しいと思い込み罪を犯していた。それでは魔法誓約に反していないことになるから、罰は下らなかった」
キム先生の説明は筋が通っている様に思うけれど、実際にそんなことがあり得るのだろうか。
魔法誓約は、誓約をした者とさせた者両方が承諾した上で神殿で解除して貰わない限り死ぬまで続くものだと言われたのに、その誓約が意味を成していなかったなんて。
「それはつまり、誓約の内容が大雑把過ぎるからですか?」
キム先生は、条件が緩いと言った。
それはつまり、誓約に穴があると言っている?
「そうです。魔法誓約だって万能ではありません。神の御業で誓約を交わすとはいえ、何が不利益になるかの判断を出来るのは誓約した本人だけなのです」
「そんなのっ、じゃあ意味が無いってそんなの」
グレタが叫ぶ、それを私は止めなかった。
悪意を持った人間から、侯爵家を守るために行っている誓約に意味がなかったなんて、そんなこと信じられない。
「頭がおかしくなりそう。罰を受けるようなことしないと思っていても、誓約をした日は恐ろしくて眠れなかったというのに、それなのに意味が無い?」
「ふっ。あなたの場合、菓子一つ盗んだだけで罰が下るでしょうね」
動揺するグレタに、キム先生は小さく笑いながら告げる。
「私はそんな絶対に真似しません! 誓約に背く様な、罰を受ける様なこと絶対に!」
「落ち着きなさい。罰を受けることをしているなんて私は言っていない。心からこの家に仕えようと思うあなた達二人なら、菓子一つ盗んだだけでもそれが悪いことをしていると自覚するだろう。そう言っているのです」
そうだ、私なら仮に盗みを働いたらそれが悪いことだと絶対に思うし、後ろめたさを感じるし後悔もすると思う。
でも子爵夫人には罰が下らなかった。それはあの人が自分の行いを悪いと思っていなかったから?
「魔法誓約で定めた条件による罰は、誓約に背いた本人の自覚で罰が下る場合と、誓約させた者が誓約に背いた相手に、誓約に基づき罰を与える。この二つがあります。罰が下る絶対条件として前者は本人の誓約に背いた行いをしたという自覚、後者は相手が誓約に背いた行いをしたと知るというのがあります」
「誓約に背いた行いをしたと言う自覚」
悪い事をしそれが悪い事だと自覚しないなんて、そんなことあるのだろうか。
「どんな悪人でも自分の行いが悪だと自覚するものだと、そういう前提で大抵の者は魔法誓約で『〇〇に不利益になる行いをしない。不利益を及ぼさない』という条件を入れます。あまり細かく決めると相手の行動を縛り過ぎることがある為にそうするのです。そして大抵の人はこれで十分だとも考えます」
それは当然だろう。
仕える家に不利益になる様な行いをしないと誓約に書かれていたら、盗みや暴力や嘘はそれに該当すると考える。
「それでも、自分がそうしていると自覚していなければ、盗めてしまう?」
「論理的にはそうですね。でも、考えてみてください。どんな些細なものを盗んだとしても、その行いに後ろめたさを感じずにいられますか? 誰かに見つかったらどうしようと恐ろしくなりませんか?」
「なると思います」
そうか、だから奥様は今もパティを疑っていないのか。そして、侍女頭様が子爵夫人の悪事を報告しても信じて貰えなかった。
誓約魔法は絶対だと信じられていたから。
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