【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香

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本編

何が起きているのかもうわからない。

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「鈴森様、申し訳ありません。僕悪気無かったんです。僕、鈴森様が心配で」

 僕の視線に気がついた木村君が、取り繕うように言い訳を始める。
 だけど何も頭に入って来なかった。
 イベント失敗、なんで君がそんな事を言うの。
 まさか、まさか。

「許して頂けないのですね。僕こんなに謝っているのに。そんな風に僕を睨むんですね」

 はらはらと大きな瞳から涙がこぼれ落ちていく。
 綺麗な涙、主人公の目は二重で大きくて愛らしい、その瞳からこぼれ落ちる涙はとても綺麗で攻略対象者を魅了するんだ。

「何が謝っているだ。ハルにこれ以上近付くな」
「雅」
「ハル、顔色が悪い。早く寮に帰ろう」

 木村君に見せつけるように、雅は僕を背後から抱きしめてくれる。

「大林、脇田。悪いがそいつを教室に連れ帰って、先生には授業をサボっていたと説明を」
「畏まりました」
「ええ、特待生が授業を抜け出すなど前代未聞ですから、先生にはしっかりと説明致します」
「そんな、僕は謝罪をしたかっただけで、授業をサボるつもりでは」
 
 特待生や奨学生は、授業態度や出席率が一般生徒よりも厳しいと聞いた事がある。
 木村君は学園の特待生(基本入学金と一部授業料及び寮費免除、一年毎に見直し)と学園の奨学生(授業料及び寮費及び生活費を学園が貸与。特待生を三年間続けられれば返済無し(学園が負担))両方になっているから更に厳しいらしい。
 体調不良が理由でも欠席も遅刻早退も問題視される。特待生なら健康管理が出来て当り前という時代錯誤な考え方なのだ。

「理由はどうあれ授業を抜け出たのですから、先生に謝罪して頂きませんと。サボっているクラスメイトを見つけた僕達には報告義務がありますから」

 両方から木村君の腕を掴み、ずるずると引き摺る様に歩いて行くのを呆然と見送りながら、僕はあることを思い出していた。

「ねえ、雅。どうして雅は保健室に入れたんだろう」
「どういう意味だ」
「保健室。確か無人になるとドア開けられない筈だよね」
「あの時、俺はドアを閉めてなかったか?」

 二人で廊下に出て、そしてドアを閉めた。
 その後電話が鳴って、雅はドアを開いて中に入った途端鍵が閉まったんだ。

「鍵はどうした」
「先生がリモコンで鍵を」

 あれ、僕あの時鍵が掛かってるって言ったっけ?

「先生はどうして鍵をすぐに開けてくれたんだろう」
「どうして?」

 二人で昇降口に向かい歩きながら、僕の頭の中はゲームの記憶を思い出そうと必死だった。
 イベント、確かに木村君はイベントって言った。
 もし、転生して前世の記憶があるのが僕だけじゃ無かったら? 木村君にも前世の記憶があってゲームの記憶もあるのだとしたら、皆のイベントがゲームより早いのも納得だ。
 でも、じゃあなぜ佐々木様と雅は攻略が進んでいない? 僕がいるから、そうなのかな。
 イベントって何だろう。前世の僕が知らないイベントがあった? 前世でクリア出来なかった? でも攻略サイトでイベントは全部把握してた筈だ、思い出せていないだけ?

 疑問がぐるぐる頭の中を駆け巡る。
 鍵はどういう事? 先生はどうしてすぐに鍵が掛かってるって気がついたの、本当なら雅は中に入れない筈なのに。それに見物客って、どういう事。

「木村君は森村様にも名前呼びを許されたけれど、三人の内の誰が好きなんだろ」
「急にどうした」
「だって、僕は雅だけだよ。舞だって佐々木様だけ、それ以外の人となんて考えられないって僕達は思ってるよ。雅だってそうだよね、僕だけだよね」

 怖い。
 木村君に前世の記憶があるとして、彼はその上で逆ハーレムを狙っているこかもしれない。
 まだ、雅の事も佐々木様の事も諦めていない。
 だから僕を悪者にして、排除しようとしていた。
 でも、それが上手くいかないから、保険医を僕に嗾けて僕を雅の側に居られないようにしようとしていた?
 ゲームの知識があるのなら、保険医が生徒に悪戯したくて常に機会を狙っている人だと知っている筈だ。
 まさか、僕が保健室に行ってすぐに計画を思いついて実行しようとした? でもそんな都合のいい話ある?

「落ち着け、ハル。どうした」
「彼は皆に愛されたいんじゃないのかな。こんな想像おかしいと思うけれど。彼は川島君も谷崎様も森村様にも愛されたい。そして、佐々木様も雅も諦めてないんじゃないかな」

 ゲームだから成り立っていた、逆ハーはこの世界ではあり得ない。
 一夫多妻なら兎も角、その逆なんてこの世界の貴族が納得するわけがない。
 だけど、それを理解していなかったら?
 ここがゲームの世界で現実ではないから、主人公優位の世界だと信じているから、そう主人公に転生した木村春が思い込んでいるとしたら、これからも雅を手に入れるため僕を排除しようとするかもしれない。

「どうしてそう思う」
「想像でしかないけれど、僕が憎いとか邪魔だという感情は雅が木村春を受け入れていないからなのかもしれないって」

 靴を履き替え外に出る。
 寒いけれど、晴れた空の下歩くのは気持ち良い。
 さっきあった気持ち悪さも吹き飛ぶくらい、雅と歩くのは気分が良かった。

「雅、手を洗いたいんだけど」

 確か近くに水道があったはずだ。
 学園から寮までの道の途中には東屋やベンチが幾つか設置してあるし、東屋の近くには水飲み場なども設置してある。

「じゃあ、そこの東屋に行こうか。顔色も良くないし休んでいこう」

 雅は優しいから、理由も聞かずに僕を東屋にエスコートしてくれたんだ。
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