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番外編

主人公な筈だった3(木村春視点)

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「みやピーは、僕の名前を呼ばないっていうから、だから大切にしてるものを壊してやりたかっただけ」

 誰も好きじゃない。
 誰も好きになってくれない。

 ゲームは終わってしまった。
 主人公なのに、誰とも結ばれない結末なんて。
 そんなの、僕はもう幸せになれないの?

「淋しい人ですね、愛することも愛されることもせず、欲望だけしかなかったなんて。連れていきなさい」

 ずるずると引き摺られ、拘束されたままヘリコプターに乗せられた。
 眼下に見えるのは、知らない世界。
 この島は国の中心部に近いはずなのに、東京タワーすらない景色に、僕は本当に違う世界に生きていたんだと実感した。

「ここが、これから死ぬまでの住まいだ。良かったな、相手は一人だ、正気じゃないが仲良くやりな」
「信ちゃん」

 拘束を解かれ連れてこられた場所は、ドアが鉄格子になっている部屋だった。
 ベッドがあるだけの部屋、奥にある扉は開いていてその作りからトイレなんだと分かった。

「俺は悪くない、悪くない、悪くない」

 ぶつぶつと言いながら、信ちゃんは大きなぬいぐるみの首を絞めていた。

「食事は一日に一度だからそいつに奪われない様に食えよ」
「え?」
「じゃあな」

 呆然とした僕は、信ちゃんがいる部屋に押し込められて鉄格子のドアを閉められてしまった。

「春君?」
「信ちゃ……ん」

 ドアが閉まる音で、信ちゃんは僕に気がついたみたいだ。
 でも、ずっと僕に見せていた優しい顔じゃ無い。
 僕は腕輪を取り上げられていた。
 腕輪の魅了の効果は、どうなってるんだろう。僕の不安はすぐに痛みとなって答えが出たんだ。

「ひっ」

 殴られて蹴られて、僕は痛みに涙を流す。
 どうして、どうして。
 混乱する頭に、僕の下僕だった筈の信ちゃんは狂った表情で、僕を罵り始めた。

「お前だ、お前のせいで俺はっ!! 悪くない、俺は悪くないっ!!」

 殴られて蹴られて、傷だらけの体をオモチャにされて、それでも僕は逃げ出せず部屋の隅で体を丸めて眠る。

「お腹空いた」

 一日一食のご飯は、一人分しか入れて貰えない。
 ガツガツとそのご飯を食べる信ちゃんは、僕に分け与えるなんて考えは無いみたいだ。

「お腹空いた。僕は、なんでここにいるの。僕は主人公なのに」

 空腹で朦朧とする頭はまともな考えが出来ない。
 僕は主人公なのに、この世界は主人公の僕のための世界の筈なのにどうして幸せになれないんだろう。

「愛して、誰か僕を」

 空腹よりも、体の痛みよりも、誰にも必要とされない現実が辛かった。
 愛されたい。愛したい。

 誰か、誰か。

 一日一食の食事を終えて、信ちゃんが僕を思い出すまであと僅か。
 また一日、僕は打たれて殴られてオモチャにされる。
 僕が悪い、お前がいるから悪いと僕の存在を否定されながら、暴力を振るわれ続ける。

 悪夢を見ているのだと、信じたかった。
 目が覚めたら僕は前世に戻っているんだ。
 夢で良かったとホッとして、誠実に生きようと誓うんだ。
 
 もしも前世に戻れたら、僕はそう生きるのに。

 眠って起きても世界は変わらずに、僕は信ちゃんのおもちゃになり続ける。
 これはゲームのバッドエンドなんだろうか。
 誰も愛せず、愛されなかった僕の、バッドエンド。

 ああ、モブのあいつの笑顔が浮かぶ。
 僕もあんな風に愛されたかった。

 
 ゆっくり僕に近付いてくる信ちゃんに脅えながら、僕はあの子みたいに愛されたかったのだと今更ながら気がついたのだった。
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