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禁断の秘術
~5~
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「……」
このままでは埒が明かぬと判断した騎士は、愛馬に言葉ならぬ合図を送った。
この一瞬の間に隙ありとみた二体のゴーレムが挟撃するように同時に斧を振り下ろすが、青き馬は素早く後方へ飛びのいた。
双子の巨兵が射線上に横並びになる、この瞬間を待っていた。
死神の眼窩から地獄の業火を思わせる炎が噴き出し、二体の魔兵を吞み込んで焼き焦がす。
猛火に炙られ赤熱した骨へ、今度は騎馬が全てを凍てつかせる極寒の息を吹きかけた。
人馬の息の合った連携攻撃。
――祈りの間に、赤と白が織りなす破壊の嵐が吹き荒れた。
急激な温度変化に耐えきれず、全身を構成する骨という骨が悲鳴のごとく亀裂音を上げ、魔兵たちは脆くも崩れていく。
周囲にあった修復用の骨も不死者たちの残骸も諸共に灰と化しており、髑髏面の騎士が掃くように鎌槍を振るう。
その風に舞って灰も塵となって消え去り、祭壇の燭台の火もかき消された。
かくして、祈りの間は闇に包まれ、本来の静寂を取り戻したのである。
狩りを邪魔した者たちをようやく全て片付けた髑髏面の騎士は、眼の火を赤から青へと戻しながら、破壊された神像の残骸に帽子のつばを下げるような形で一礼を捧げる。
そして、その傍らを通り過ぎ、新たに開いた通路の先へ、逃亡者を追うべく馬を駆けさせた。
……それから、しばし。夜が明け始め、東の空が白みつつある頃。
古の集落跡から離れた丘の斜面。生い茂る草木に紛れ、ひっそりと口を開いた洞穴から、死神を乗せた騎馬が姿を現した。
だが、追っていた死霊術師は既にどこか遠くへと逃げ去っており、その姿はおろか、走り去る音さえも聞こえない。
思いのほか、足止めに時間をとられていたようだ。
「今宵はこれまでか。だが……」
この世ならざる存在である彼に、地上での活動が許される時間は既に残されてはいなかった。
帽子のつばを上げて薄れてゆく夜空を仰ぎ見る主に、咎人が放つ邪悪な魂の臭気を既に記憶していたであろう愛馬が、鼻先である方向を指し示す。
その様子に、髑髏面の騎士は静かにうなずいた。
獲物の痕跡は見つけている。
どこへと逃げようとも必ずや追い詰め、月明かりが示す冥府門の向こうへ連れていくと……
次なる邂逅を誓い、主従はまだ濃く残る丘の影へと飛び込み、闇に溶けるように消えた。
――青き馬が示したのは、南。
その先は丘陵地帯と平野の間に流れる大河の向こう側、頑丈な石レンガの壁に幾重にも囲まれた街があった。
~禁断の秘術 完~
このままでは埒が明かぬと判断した騎士は、愛馬に言葉ならぬ合図を送った。
この一瞬の間に隙ありとみた二体のゴーレムが挟撃するように同時に斧を振り下ろすが、青き馬は素早く後方へ飛びのいた。
双子の巨兵が射線上に横並びになる、この瞬間を待っていた。
死神の眼窩から地獄の業火を思わせる炎が噴き出し、二体の魔兵を吞み込んで焼き焦がす。
猛火に炙られ赤熱した骨へ、今度は騎馬が全てを凍てつかせる極寒の息を吹きかけた。
人馬の息の合った連携攻撃。
――祈りの間に、赤と白が織りなす破壊の嵐が吹き荒れた。
急激な温度変化に耐えきれず、全身を構成する骨という骨が悲鳴のごとく亀裂音を上げ、魔兵たちは脆くも崩れていく。
周囲にあった修復用の骨も不死者たちの残骸も諸共に灰と化しており、髑髏面の騎士が掃くように鎌槍を振るう。
その風に舞って灰も塵となって消え去り、祭壇の燭台の火もかき消された。
かくして、祈りの間は闇に包まれ、本来の静寂を取り戻したのである。
狩りを邪魔した者たちをようやく全て片付けた髑髏面の騎士は、眼の火を赤から青へと戻しながら、破壊された神像の残骸に帽子のつばを下げるような形で一礼を捧げる。
そして、その傍らを通り過ぎ、新たに開いた通路の先へ、逃亡者を追うべく馬を駆けさせた。
……それから、しばし。夜が明け始め、東の空が白みつつある頃。
古の集落跡から離れた丘の斜面。生い茂る草木に紛れ、ひっそりと口を開いた洞穴から、死神を乗せた騎馬が姿を現した。
だが、追っていた死霊術師は既にどこか遠くへと逃げ去っており、その姿はおろか、走り去る音さえも聞こえない。
思いのほか、足止めに時間をとられていたようだ。
「今宵はこれまでか。だが……」
この世ならざる存在である彼に、地上での活動が許される時間は既に残されてはいなかった。
帽子のつばを上げて薄れてゆく夜空を仰ぎ見る主に、咎人が放つ邪悪な魂の臭気を既に記憶していたであろう愛馬が、鼻先である方向を指し示す。
その様子に、髑髏面の騎士は静かにうなずいた。
獲物の痕跡は見つけている。
どこへと逃げようとも必ずや追い詰め、月明かりが示す冥府門の向こうへ連れていくと……
次なる邂逅を誓い、主従はまだ濃く残る丘の影へと飛び込み、闇に溶けるように消えた。
――青き馬が示したのは、南。
その先は丘陵地帯と平野の間に流れる大河の向こう側、頑丈な石レンガの壁に幾重にも囲まれた街があった。
~禁断の秘術 完~
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