神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです

珂里

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毎日が幸せなんです

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そよそよと穏やかな風が吹き抜ける庭の木陰で、私は先程届けられた手紙を読んでいた。

バッサリ切ってしまった髪も、今ではすっかり長くなり、サラサラと風に靡いている。


コトネオールから戻った私は、お父様、お母様からの溺愛&過保護ぶりが加速して、暫くはなかなか家から出して貰えない日々が続いた。

まあ、ラントおじ様やエリーゼおば様、お祖父様やお祖母様達が引っ切り無しに会いに来てくれていたから、どっちみち出掛けられなかったと思うけどね。


リスターも成人してからはウチに住むようになっていたし。

勿論、部屋はまだ別々だけど。
結婚するまではね!!

リスターはお父様について、領地運営とか色々勉強しているみたい。

あ、成人してから正式に騎士団にも入団したんだよ!


リスターが優秀過ぎてヤバイ。


龍斗さんは相変わらず私の護衛として側にいてくれている。

コトネオールで、ずっと私を守ってくれていた龍斗さんに対するお父様とお母様の信頼度がハンパなくて。

「アヤナを任せられるのはリュートしかいない。」

って、なんか龍斗さんに嫁に出すみたいな言い方をお父様がするものだから、リスターがちょっと……かなり嫉妬していたけどね。

龍斗さんは龍斗さんで、私の嫁入り道具だって言っていたのは本気だったみたいで、このまま独身で私の側にいるって断言していた。

「彩菜とリスターの子供が産まれたら、子守もしてやるよ。」

元気な子を産めよ~って笑っている龍斗さんを見ていると、そんな未来も幸せかもなぁって思う。

龍斗さんが思い描く幸せな未来に、私と私の家族がいる事が嬉しいから。

「いっぱい産むからよろしくね!」って言ったら、龍斗さんは嬉しそうに目を細め、いつものように私の頭をガシガシと撫でてくれた。



「手紙、なんだって?」


不意に声をかけられ、後ろを振り返る。

ストールを手にしていたリスターは、私と目が合うと柔らかく微笑み、肩にストールを掛けてくれた。

そして隣に座り、私の腰を優しく抱くと頬にチュッとキスをする。


「コトネオールでの事、悪かったって。リスターと末長くお幸せにって書いてあるよ。」


「ふん、何それ。言われなくても、ずっと幸せに決まってるし。ねえ?」

「あははっ。そうだねー。」


テックから届いた手紙。

これはコトネオールを去ってから初めての手紙だ。


こっちに戻ってきた事は、多分お父様かラントおじ様が報せてるはずだけど、あれから向こうからは何も連絡は無かった。


もうすぐ私が成人するので、リスターと結婚するとパルラに手紙を書いたのは少し前の事。

そして今日、パルラのお祝いの手紙と共に入っていたのは、テックからの手紙。


それは謝罪とお祝いの言葉だった。

何度も何度も書かれていた謝罪の言葉にテックの気持ちが込められていて、涙がこみ上げてくる。


もういいんだよ。

2度と会う事は無いかもしれない。けれど、今でもテックは私の大事な友達だから。

いつか、また手紙を書こうと思う。


しんみりしていた私の頭を、リスターがそっと撫でてくれる。

愛しそうに私を見つめて微笑むリスターに、私は飛び切りの笑顔を向けて抱きついた。

「ねえリスター。私は今、毎日がとっても幸せだよ。」

「ふふっ。僕もだよ。アヤナさえ側にいてくれれば、それだけでこれからも、ずっとずっと僕は毎日幸せだから。」


リスターは、いつも私に沢山の愛を伝えて、そして与えてくれる。

私も、リスターに沢山の愛を伝えたい。


抱き締め返してくれているリスターを、私は更にギュッと抱き締めた。


「おーい、お前らー。いつまでそこでイチャイチャしてるんだよ。フローラさんが呼んでるぞー。」

玄関の方から、龍斗さんが大きな声で私達を呼ぶ。

「やれやれ、しょうがないな。」

リスターが残念そうに肩を竦め、立ち上がった。

「アヤナ、行こう。」

「うんっ!」

リスターが差し出した手をしっかりと握り、私も立ち上がる。


手を繋ぎリスターと並んで歩き出した私の頬を、穏やかに吹く風が優しく撫でて通り過ぎていく。



『彩菜』

懐かしい声に呼ばれた気がして、私は立ち止まり空を見上げた。


「どうしたの?」

急に立ち止まった私に、リスターが不思議そうに首を傾げる。

「今、声が……。」

「声?」

「……ううん、なんでもない。」

私は空を見上げたまま、手のひらを空に伸ばした。



ーーパパ、ママ。私は幸せだよ。



心の中で、そう報告をして。



ジッと見守ってくれていたリスターと、私は再び歩き出した。






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