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仮の婚約者
しおりを挟む「ねえ、じゃあどうして僕と婚約できないの?」
僕のこと好きだよね?と、ジッと見つめてくるウィリアム王子のカッコ良さに堪らず悶える。
お兄様に軽く頭をポンと叩かれハッと我に返った私は改めてしっかりとお断りしなければと、意を決して口を開いた。
「私はこの先、結婚や婚約をする気も……ましてや恋人を作る気なんて全くないのです」
「え?なんで?この先って、死ぬまでずっとってこと?」
「はい」
目を丸くして聞き返してくる王子に、深く、大きく頷く。
これには、ウィリアム王子だけではなくお兄様も驚いたみたいで。
私を見て固まってしまっている。
「なんで?」
「……それはウィリアム王子もご存知でしょう?最近の私は体が弱くなり急に何度も倒れてしまっていますし……」
ーー体が弱くなったとか嘘吐いちゃったけど、他に説明しようが無いから、いいよね。ちょっとの嘘くらいは許してほしい。
「僕がイレーネの病気を治すよ!国だけじゃなくて外国にだって名医がいるんだし、いたらどこに居たって探し出して診てもらうんだ。絶対に治すから……」
「無理なんです」
「え……」
「な、何を言っているんだイレーネ!!無理なんて、そんな事あるわけ無いだろう?!そりゃあ、何で急に倒れてしまうのかはまだ分かっていないけれど、必ず原因をみつけて治すから!!」
ーーーーごめんなさい。お兄様、ウィリアム王子。病気じゃないから治らないんです。
私の為に必死になってくれて、ありがとうございます。
でも、もう決まっちゃってる事なんです。
ーーーーだから、ごめんなさい。
私の肩を抱いて必死に言い募るお兄様と一生懸命に私を説得してくれているウィリアム王子。
そんな2人に、心の中で深々と頭を下げて謝る。
「……ごめんなさい」
「「…………っ」」
真っ直ぐに2人を見つめてそう言えば、お兄様もウィリアム王子もまだ何か言いたそうだったけれど、結局それ以上は何も言わないでいてくれた。
「……イレーネがなんでそんなに頑ななのかは正直なところまだ全然納得出来てないけど…………分かった。だから正式な婚約者にっていうのは取り敢えず諦めるよ。でも、僕を助けると思って仮の婚約者になってくれないかな?」
「仮の……婚約者?」
眉尻をヘニョリと下げながら言うウィリアム王子は、思ってもみなかった提案に困惑している私の両手を取って辛そうに笑んだ。
「うん、さっきも言った通り、僕はイレーネが好きで、イレーネを好きなまま他の令嬢と婚約なんて有り得ないし……できれば暫く僕の婚約者のフリをしていて欲しいんだ」
「婚約者のフリ……ですか?」
「ちょっとウィリアム王子……またおかしな事を……」
お兄様がペシンとウィリアム王子の手を叩き落とし(王子様なのにいいのかな?)、険しい顔をする。
そんなお兄様にウィリアム王子はコテンと首を傾げてニッコリと微笑んだ。
「おかしな事じゃないと思いますよ?このままではイレーネがどんなに婚約しないと言っていてもヴァリアントワ侯爵家には釣書がバンバン届くだろうし、僕は好きでもない令嬢と婚約させられてしまいます」
「う……まあ、確かに釣書はこれから嫌というほど届いて面倒くさいでしょうが、ウィリアム王子が他のご令嬢と婚約しようとウチは別に……」
「そこで、この提案なのです。僕とイレーネが婚約した事にしておけば、当分の間お互いに煩わしい事から免れることができるでしょ?どうです?良い案だと思いませんか?」
お兄様が話しているところへウィリアム王子がグイグイ食い気味に仮の婚約話を持ちかけてくるから、なんだかそれが一番良いような気がしてきた。
私の表情でちょっとした気持ちの変化を見抜いたウィリアム王子はここで更に畳みかけてきた。
「ね?イレーネ。仮の婚約者になるだけで、僕とイレーネはお互いの友達と恋人っていう両方の立場になれてとってもお得だと思うんだ。そう思わない?そう思うでしょ?」
「そ、そうですか?」
「うん、そうだよ、絶対!」
「そうですね……はい、そう言われればそんな気が……」
「じゃあ、いいよね?僕たち"婚約者"ってことで!」
「は、はいっ?!よろしくお願いします……?」
「やったー!!」
「イレーネ!!!」
ウィリアム王子の勢いに押されて頷くと、ウィリアム王子は満面の笑みでガッツポーズを、お兄様は顔面蒼白で頭を抱えるという対照的な様子で叫んでいた。
な、なんか断ったつもりが、仮の婚約者とか変な方向へ話が進んでいってしまったけど、いいのかな?…………まあ、仮の婚約者ってことだし、ねぇ……?
「ウィリアム王子……」
「フフッ、イレーネ本人から直接OKの返事をもらったんです。邪魔しないでください、ね?アレクシス兄上?」
「ぐっ……ウィリアム王子が僕の予想以上に腹黒だった……」
「え~、腹黒だなんて酷いなぁ」
「クソッ……」
…………あれ?お兄様とウィリアム王子の間に不穏な空気が流れてる気がするんだけど、私の気のせい……だよね?
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