異世界の神子は、逆ハーを望まない

一花八華

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第1章

21

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  夜の戸張がおり、辺りは静けさに包まれている。開け放たれた窓からは、風が入り込み 所在なくカーテンが揺れ動く。

 遠くの方で、ホーホーと木菟の鳴く声がする。

 ーギシ

 簡易なベッドと燭台。小さなテーブルと一客の椅子に鏡面が置かれただけの、小さな部屋。そのベッドの上で 2つの影が身動みじろぎした。





 「…ヴォルフ?」
 
 私は、両の腕を力強く大きな手でベッドに縫い止められていた。
私の問いかけに、ヴォルフは応えない。

暗がりの中、懸命にヴォルフの表情を伺う。


 いつの間にか、窓辺から月の光が差し込み。僅かにその姿を写しだしていた。

アッシュグレーの髪が、さわさわと風に撫でらている。金と銀の瞳は、爛々と熱を帯び獲物を捕らえ、欲情的な色を灯す。獣の耳をピンと立て、銀色の美しい毛並みを湛える尻尾は、感情の高鳴りと共鳴し揺れている。

「…なぁ。なんで…此処にきた…」

苦しみと熱を帯びた声に…ぞくりと何かが走る。

「なぁ。わかってんの?…こんな夜中に…男の部屋なんか…きて。」

「…それはっ!」

わからないような歳ではないけど…ただ、何となく…ヴォルフとそんな事にならない…そんな風に思っていた…。

「俺なら、こんな事しないとでも…思った?」

私の瞳を覗き込みながら、くつくつとヴォルフは喉を鳴らす。

「ねぇ?なんで聞かないの?俺のこの姿。おかしいと思わないのか?」


「俺…獣人なんだよね。それも凶暴な狼の。あーあ。折角隠してたのに…お嬢さんったら。俺のテリトリーに入ってきちゃうんだもんなー。」

「騙してて悪ぃね。バレちまったら、もう…優しくなんてしてあげれねーけど?」

お嬢さんが悪いんだから。仕方ねーよな。

そう呟くと、ヴォルフは私の首元に顔を埋めてきた。

「ヤバいな…あんたの匂い…ほんとヤバい。」

「理性が飛びそう。」


「あんたが欲しい。」

「ーんんっ!?」

ヴォルフの熱い舌が、私の首筋をなぞった。
 
 ぞくりと甘い痺れが、脳に伝わる。

「あー。神子様って奴は甘いんだな。…他の女と違う。」

 耳元でそう呟き、かぷりと甘く噛みしだく。

「魔王城になんて、連れて行かず。このまま俺が浚っちまおうか。」

「なぁ。異世界の神子様。」

「魔王城なんか行くの止めて。このまま俺の女になりなよ。その方があんたも幸せだって。」

「ほんとは…行きたくないんだろ?」

 艶を滲ませた声色で、ゆっくり囁き、視線を絡ませてくる。そうしてそのまま顔を寄せ、唇が重なりかける…。

「ーねぇ。ヴォルフ…。」

「ん。止めてっていうの?その言葉…逆効果だって知ってる?」

軽薄な笑いを浮かべ、ヴォルフが私を見つめる。
それは、自分自身に向けているようで…胸が締め付けられた。


ー悲しい。




「ーっ…なんで…そんな眼で見るんだ…。」


それは、ヴォルフが苦しそうな目をしてるからだよ…。そんな気持ちが胸に宿る。




「ー帰れ。」

縫い止めていた手を緩め、ヴォルフが私から身を離した。

「早く自分の部屋に帰れ。ー俺の気が…変わらないうちに。」

苦々しく告げられる言葉に、拒絶の色を感じる。


「ヴォルフ…貴方、何を隠しているの?」

「あ?言っただろ。狼の獣人だって。俺は悪ーい狼なんだよ。ぼんやりしてると、お嬢さんなんて、頭から爪先まで…俺に食べられちゃうよ?」

だから、早く帰った帰った。っと背中を押される。

「そういう事じゃなくて…」

ヴォルフ…隠してるよね?もっと他の事。他のたくさんの事を。

「私…知りたいの。ヴォルフの事…知りたくて来たの。」

顔をあげ、じっと見つめる。

「知りたいなら…教えてくれるって…そう言ったよね?ヴォルフ。」

貴方が知りたい。貴方の事が知りたいのよ。


ベタベタと絡んで、軽薄な態度で飄々と人を手玉にとるくせに…肝心な所で距離を置いてくる。本音を隠し、拒絶してくる癖に…熱を帯びた視線で求めてくる。

わからない。
わからないよ。
ヴォルフ。

貴方が何を抱えてるのか。
貴方が私に何を求めているのか。

「私…ヴォルフの事が知りたい。だから、ここに来たの。だめだった?」

こんな気持ち初めてなの。

「ねぇ。教えてよ。」

縋るように、言葉を零した。


「お嬢さん…あんた…そんなんだから…」


気付けば、ヴォルフの腕の中にいた。


「あんた…そんなんだから…俺みたいな…悪い狼に狙われるんだよ…。」

「あーあ。まいったな…。本当に…。」


「全部は…まだ言えない。…きっとあんたは…俺を軽蔑し拒絶する。」

「それでも…聞きたいか?」


抱き締められた腕から、微かな震えが伝わってきた。

私は黙ったまま…ヴォルフの胸元でコクリと頷いた。



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