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第1章
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夜の戸張がおり、辺りは静けさに包まれている。開け放たれた窓からは、風が入り込み 所在なくカーテンが揺れ動く。
遠くの方で、ホーホーと木菟の鳴く声がする。
ーギシ
簡易なベッドと燭台。小さなテーブルと一客の椅子に鏡面が置かれただけの、小さな部屋。そのベッドの上で 2つの影が身動ぎした。
「…ヴォルフ?」
私は、両の腕を力強く大きな手でベッドに縫い止められていた。
私の問いかけに、ヴォルフは応えない。
暗がりの中、懸命にヴォルフの表情を伺う。
いつの間にか、窓辺から月の光が差し込み。僅かにその姿を写しだしていた。
アッシュグレーの髪が、さわさわと風に撫でらている。金と銀の瞳は、爛々と熱を帯び獲物を捕らえ、欲情的な色を灯す。獣の耳をピンと立て、銀色の美しい毛並みを湛える尻尾は、感情の高鳴りと共鳴し揺れている。
「…なぁ。なんで…此処にきた…」
苦しみと熱を帯びた声に…ぞくりと何かが走る。
「なぁ。わかってんの?…こんな夜中に…男の部屋なんか…きて。」
「…それはっ!」
わからないような歳ではないけど…ただ、何となく…ヴォルフとそんな事にならない…そんな風に思っていた…。
「俺なら、こんな事しないとでも…思った?」
私の瞳を覗き込みながら、くつくつとヴォルフは喉を鳴らす。
「ねぇ?なんで聞かないの?俺のこの姿。おかしいと思わないのか?」
「俺…獣人なんだよね。それも凶暴な狼の。あーあ。折角隠してたのに…お嬢さんったら。俺のテリトリーに入ってきちゃうんだもんなー。」
「騙してて悪ぃね。バレちまったら、もう…優しくなんてしてあげれねーけど?」
お嬢さんが悪いんだから。仕方ねーよな。
そう呟くと、ヴォルフは私の首元に顔を埋めてきた。
「ヤバいな…あんたの匂い…ほんとヤバい。」
「理性が飛びそう。」
「あんたが欲しい。」
「ーんんっ!?」
ヴォルフの熱い舌が、私の首筋をなぞった。
ぞくりと甘い痺れが、脳に伝わる。
「あー。神子様って奴は甘いんだな。…他の女と違う。」
耳元でそう呟き、かぷりと甘く噛みしだく。
「魔王城になんて、連れて行かず。このまま俺が浚っちまおうか。」
「なぁ。異世界の神子様。」
「魔王城なんか行くの止めて。このまま俺の女になりなよ。その方があんたも幸せだって。」
「ほんとは…行きたくないんだろ?」
艶を滲ませた声色で、ゆっくり囁き、視線を絡ませてくる。そうしてそのまま顔を寄せ、唇が重なりかける…。
「ーねぇ。ヴォルフ…。」
「ん。止めてっていうの?その言葉…逆効果だって知ってる?」
軽薄な笑いを浮かべ、ヴォルフが私を見つめる。
それは、自分自身に向けているようで…胸が締め付けられた。
ー悲しい。
「ーっ…なんで…そんな眼で見るんだ…。」
それは、ヴォルフが苦しそうな目をしてるからだよ…。そんな気持ちが胸に宿る。
「ー帰れ。」
縫い止めていた手を緩め、ヴォルフが私から身を離した。
「早く自分の部屋に帰れ。ー俺の気が…変わらないうちに。」
苦々しく告げられる言葉に、拒絶の色を感じる。
「ヴォルフ…貴方、何を隠しているの?」
「あ?言っただろ。狼の獣人だって。俺は悪ーい狼なんだよ。ぼんやりしてると、お嬢さんなんて、頭から爪先まで…俺に食べられちゃうよ?」
だから、早く帰った帰った。っと背中を押される。
「そういう事じゃなくて…」
ヴォルフ…隠してるよね?もっと他の事。他のたくさんの事を。
「私…知りたいの。ヴォルフの事…知りたくて来たの。」
顔をあげ、じっと見つめる。
「知りたいなら…教えてくれるって…そう言ったよね?ヴォルフ。」
貴方が知りたい。貴方の事が知りたいのよ。
ベタベタと絡んで、軽薄な態度で飄々と人を手玉にとるくせに…肝心な所で距離を置いてくる。本音を隠し、拒絶してくる癖に…熱を帯びた視線で求めてくる。
わからない。
わからないよ。
ヴォルフ。
貴方が何を抱えてるのか。
貴方が私に何を求めているのか。
「私…ヴォルフの事が知りたい。だから、ここに来たの。だめだった?」
こんな気持ち初めてなの。
「ねぇ。教えてよ。」
縋るように、言葉を零した。
「お嬢さん…あんた…そんなんだから…」
気付けば、ヴォルフの腕の中にいた。
「あんた…そんなんだから…俺みたいな…悪い狼に狙われるんだよ…。」
「あーあ。まいったな…。本当に…。」
「全部は…まだ言えない。…きっとあんたは…俺を軽蔑し拒絶する。」
「それでも…聞きたいか?」
抱き締められた腕から、微かな震えが伝わってきた。
私は黙ったまま…ヴォルフの胸元でコクリと頷いた。
遠くの方で、ホーホーと木菟の鳴く声がする。
ーギシ
簡易なベッドと燭台。小さなテーブルと一客の椅子に鏡面が置かれただけの、小さな部屋。そのベッドの上で 2つの影が身動ぎした。
「…ヴォルフ?」
私は、両の腕を力強く大きな手でベッドに縫い止められていた。
私の問いかけに、ヴォルフは応えない。
暗がりの中、懸命にヴォルフの表情を伺う。
いつの間にか、窓辺から月の光が差し込み。僅かにその姿を写しだしていた。
アッシュグレーの髪が、さわさわと風に撫でらている。金と銀の瞳は、爛々と熱を帯び獲物を捕らえ、欲情的な色を灯す。獣の耳をピンと立て、銀色の美しい毛並みを湛える尻尾は、感情の高鳴りと共鳴し揺れている。
「…なぁ。なんで…此処にきた…」
苦しみと熱を帯びた声に…ぞくりと何かが走る。
「なぁ。わかってんの?…こんな夜中に…男の部屋なんか…きて。」
「…それはっ!」
わからないような歳ではないけど…ただ、何となく…ヴォルフとそんな事にならない…そんな風に思っていた…。
「俺なら、こんな事しないとでも…思った?」
私の瞳を覗き込みながら、くつくつとヴォルフは喉を鳴らす。
「ねぇ?なんで聞かないの?俺のこの姿。おかしいと思わないのか?」
「俺…獣人なんだよね。それも凶暴な狼の。あーあ。折角隠してたのに…お嬢さんったら。俺のテリトリーに入ってきちゃうんだもんなー。」
「騙してて悪ぃね。バレちまったら、もう…優しくなんてしてあげれねーけど?」
お嬢さんが悪いんだから。仕方ねーよな。
そう呟くと、ヴォルフは私の首元に顔を埋めてきた。
「ヤバいな…あんたの匂い…ほんとヤバい。」
「理性が飛びそう。」
「あんたが欲しい。」
「ーんんっ!?」
ヴォルフの熱い舌が、私の首筋をなぞった。
ぞくりと甘い痺れが、脳に伝わる。
「あー。神子様って奴は甘いんだな。…他の女と違う。」
耳元でそう呟き、かぷりと甘く噛みしだく。
「魔王城になんて、連れて行かず。このまま俺が浚っちまおうか。」
「なぁ。異世界の神子様。」
「魔王城なんか行くの止めて。このまま俺の女になりなよ。その方があんたも幸せだって。」
「ほんとは…行きたくないんだろ?」
艶を滲ませた声色で、ゆっくり囁き、視線を絡ませてくる。そうしてそのまま顔を寄せ、唇が重なりかける…。
「ーねぇ。ヴォルフ…。」
「ん。止めてっていうの?その言葉…逆効果だって知ってる?」
軽薄な笑いを浮かべ、ヴォルフが私を見つめる。
それは、自分自身に向けているようで…胸が締め付けられた。
ー悲しい。
「ーっ…なんで…そんな眼で見るんだ…。」
それは、ヴォルフが苦しそうな目をしてるからだよ…。そんな気持ちが胸に宿る。
「ー帰れ。」
縫い止めていた手を緩め、ヴォルフが私から身を離した。
「早く自分の部屋に帰れ。ー俺の気が…変わらないうちに。」
苦々しく告げられる言葉に、拒絶の色を感じる。
「ヴォルフ…貴方、何を隠しているの?」
「あ?言っただろ。狼の獣人だって。俺は悪ーい狼なんだよ。ぼんやりしてると、お嬢さんなんて、頭から爪先まで…俺に食べられちゃうよ?」
だから、早く帰った帰った。っと背中を押される。
「そういう事じゃなくて…」
ヴォルフ…隠してるよね?もっと他の事。他のたくさんの事を。
「私…知りたいの。ヴォルフの事…知りたくて来たの。」
顔をあげ、じっと見つめる。
「知りたいなら…教えてくれるって…そう言ったよね?ヴォルフ。」
貴方が知りたい。貴方の事が知りたいのよ。
ベタベタと絡んで、軽薄な態度で飄々と人を手玉にとるくせに…肝心な所で距離を置いてくる。本音を隠し、拒絶してくる癖に…熱を帯びた視線で求めてくる。
わからない。
わからないよ。
ヴォルフ。
貴方が何を抱えてるのか。
貴方が私に何を求めているのか。
「私…ヴォルフの事が知りたい。だから、ここに来たの。だめだった?」
こんな気持ち初めてなの。
「ねぇ。教えてよ。」
縋るように、言葉を零した。
「お嬢さん…あんた…そんなんだから…」
気付けば、ヴォルフの腕の中にいた。
「あんた…そんなんだから…俺みたいな…悪い狼に狙われるんだよ…。」
「あーあ。まいったな…。本当に…。」
「全部は…まだ言えない。…きっとあんたは…俺を軽蔑し拒絶する。」
「それでも…聞きたいか?」
抱き締められた腕から、微かな震えが伝わってきた。
私は黙ったまま…ヴォルフの胸元でコクリと頷いた。
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