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第2章
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しおりを挟む「【魔王】は、異世界人とこちらの魔力の高い者。その両者の愛ある行為で産まれた者しか・・・・なれないんだ」
ヴォルフの言葉に、心が冷えていくのを感じる。
それじゃあなに?
ルドルフさんが親切だったのも、ヴォルフが私に構っていたのも、セシル君が私を好きだと言ったのも……
全部そのため?
旅の途中であった事は、すべて私が好意を持つように仕組まれた事で、感じた温もりも優しさも好意も
「全部……嘘」
私は、魔王を産む【器】で、その為に呼び出された【道具】で……イケメンさえ周りに付けて逆ハーレムを築けば、そのうちの誰かと恋をして子を成す。そう思われてたって事?
「酷い」
酷すぎる。この世界に呼び出され、憤りもあった。元の世界に未練のない私は、ヴォルフやセシル君、ルドルフさんと関わる事でこの世界を好きになってきていた。
それが、そうなる事が計画されていた事だなんて。
「酷いよな。俺も糞みたいなこの世界……滅んでしまえばいいと思うよ」
「無理矢理攫って、逃げられないように囲って、騙して、孕ます。異世界の人間だからってやっていい事じゃねーよ」
ふるふると震える私の身体。節くれだった大きな手で、ヴォルフは額に触れる。
やだ。
やめてよ。
そんな風に触れないで。
まるで、大切なモノに触れるように。
優しく、私に触れないで……。
「騙されたまま、子を孕んで……真実を知ったあんたが、壊れるのを見たくない」
「だからせめて、真実を知った上で選ばせてやりたい」
眉を顰め、苦しげに告げるヴォルフ。
「あんたが望むなら、俺が此処から逃してやる」
だから、選べ。ヴォルフはそう呟いた。
「逃げるって……何処に……」
私は、この世界の人間じゃない。真実を知って逃げ出しても、追われるだけだ。逃げ出しても、どう生きていけばいいのかわからない。
「元の世界には……」
「……戻る為には、魔王の力が必要だ」
首を振り答えるヴォルフ。それは、私が産んだ魔王の力が必要……そういう事なのだろう。
「愛し合い、望んで授かっても……真実を知れば、全てを信じられなくなり、子を憎むようになる。愛なんていつか消える。情なんてすぐに憎悪に変わるんだ」
まるで自分の事のように語るその様子に、胸がギュッと締め付けられる。
ー何をそんなに、苦しんでいるの?
「……ヴォルフ」
「あーでも、どーしてもお嬢さんが俺やセシルとやりたいって言うなら俺はそれでもいーけど? 俺はお嬢さんの事、気に入ってるし、セシルは本気であんたを想ってるようだからな」
問い掛けようとした途端、いつものふざけた顔を作り笑うヴォルフ。
「どっちか選べないなら、どっちもってのもおっけーだけど?その方が妊娠の可能性あがるし」
「なっ!? 」
眼前でくつくつと喉を鳴らす軽薄男に、カッと血が登る。思わず睨みつけると、金色の瞳とかち合う。それは、ゆらゆらと悲しげに揺れていて
「情でもなんでもいいんだよ。そこにほんの少しでも愛があれば。だから、こんな回りくどい事をして、異世界の女を嵌めるんだ」
「あんたは、俺やセシル、ルドルフの旦那に情が湧いてしまってる。それはお互いにだ。だから、このままだと無理矢理にでも子作りをさせられる。お嬢さんや俺達が望む望まないに限らず」
そう告げたところで、深くため息を吐く。
「逃げたいなら今だ。俺やセシルから逃げて、魔力の少ない普通の男と……幸せになれ」
呆然とする私を横に、ヴォルフはその身を起こす。そうして困ったような顔を浮かべながら、悲しげに笑った。
そうしてどうか、産まれた子どもを愛してやって欲しい。
ボソりと呟かれた言葉。
それが、耳に残り胸の奥に沈んでいく。
私はただ、受け止めきれない感情に困惑し、黙って彼を見つめる事しかできなかった。
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