エリート希望者の地球再生記

第一章 物語は落下して始まった

着陸体制に入りましょう

「それいいんじゃないかな！」
「確かに、海なら広いしな……」
「やっとか……決まったなら、さっさと着水させようぜ」


　サトル、アラン、望が続々と着水することに賛成し、他のみんなも頷く。
　マジか……けど、やっぱり海は……


「ストップ！」


　本当に情けないことに、俺がグズグズしている時、さあすぐに着水しようとなっていた空気を、ゾーイは何の躊躇もなくぶった切った。
　そして、まっすぐ俺の目を見る。


「昴、何か意見あるんでしょ？」
「は？　こんな奴の意見なんて……!!」
「望くんはお黙り。昴、言って」


　前しか見てないようで、本当に君は振り向くことを忘れないんだね……


「着水はやめた方がいい！　空島が水に浮いていられる構造になっているとはとても思えないし、もし着水できても波が来たらひっくり返るかもしれない！」
「昴って、学科どこだっけ？」
「あ、環境学科だけど……」
「オッケー！　そこのサブ、ちょうど一席空いているから座って」
「え？」
「環境のことには、とりあえずあたし達より詳しいでしょ？　着陸できるようなとこモニターで探して。急ぎだから」
「わ、わかった！」


　ゾーイに流されるまま、俺はサブパイロットの席に座った。
　隣のサトルには何か笑われたから、とりあえず小突いておく。
　辺りを十分ほど飛び回り、ようやく広くて周りに何もない場所を見つけた。


「スリー、トゥー、ワンのカウントでオートパイロットを解除します」


　全員の顔に緊張が現れ、モーリスの言葉でそれは最高潮になる。


「解除なら、とっくにしてるけど？」
「は？」


　しかし、ゾーイの一言でその場の空気は一変したばかりか、一気にナサニエルは急降下した。


「やっぱり、死ぬのかもおおおおおおおおおおおおおお！！！！」
「神様、存在してるなら助けて～!!」
「人生はこれからだってば～!!」
「これから真面目に生きるから！　本当に約束するから！」


　後ろからはジェームズ、ソニア、デルタ、シンが叫ぶ声が聞こえる。


「あわわ……落ちてる！　ナサニエルが落ちていくぞおおおおお!!」
「ハロルド、それはわかってるわ！」


　向こうでは、ハロルドがほぼほぼパニックに陥り、クレアが半分泣きながら必死に宥めている。
　ついでにアランはゾーイをすごい顔で睨んでいる、ずっと。


「お前、マジでぶっ殺す！！！！」
「吠えてる暇あるなら、操縦桿を握ってくれた方が嬉しいんだけど」


　望は完全にブチ切れていたが、やっぱりゾーイは他人事だ。


「とにかく、全員操縦桿を引いて！」
「右に旋回しましょう！　このままでは確実にぶつかります！」


　サトルとモーリスの言葉に、全員すぐさま操縦桿を引くが、バラバラで空島はさらにバランスを崩していく。


「ありゃま、全員一回操縦桿を離そう」
「頭でも打ったのか!?」
「そうじゃなくて、全員この非常事態に何だかんだで行動して、さらに今多くの人間を救おうとしてる。運命の巡り合わせとか言うつもりはないけど、神様ってのはその試練を背負える奴にしか背負わせないぐらいには性格いいと思うよ」


　ゾーイの突拍子のない言葉に望が腹を立てるのは、すっかり見慣れた。
　けど、ゾーイのその場の全員の気持ちを一瞬で掌握する空気には慣れない。
　あんなに震えていた俺の手は、もう震えが止まっていた。


「ほら、操縦桿握って。あたしがカウントするから一気に引いてね？　後ろも全員その場で踏ん張ってね？　それじゃスリー、トゥー、ワン！」


　ゾーイのカウントでサブパイロットの面々は操縦桿を一斉に引き、ゆっくりとナサニエルは下りて行く。
　そして、ガタッとナサニエルの下部が何かにぶつかったように大きく揺れる。


「多分、いや、絶対地上についたぞ！」


　俺は思わず叫び、ゾーイを見る。
　目が合うとゾーイはニヤリと、まるで悪戯が成功した子どものように笑う。


「ブレーキを踏むんだあああ！！！！」
「止まれ止まれ止まれ止まれ止まれええええええええええええ！！！！」


　ハロルドとゾーイの叫びに合わせて、俺達は一斉にブレーキを踏み、力の限り操縦桿を引いた。