エリート希望者の地球再生記

第二章 未知の世界への移住

無免許運転を許してくれ

「お、終わった……俺、よくやった！」
「こんなガラクタ、動くようにすることぐらい簡単だ」


　あれから約二時間ほどして、アランとシンは本当に約千年前の自動車を元通り動くようにした。
　俺達の目の前に並ぶ、錆びで色は結構変わってしまっているけど、赤、黒、黄色の三台の自動車は、今もエンジン音が鳴り響いている。
　うわあ、昔の映画と同じだ！
　シンは達成感からかその場に大の字に寝そべり、アランは無表情だけど、ある特定の人物に向けてどこか得意げな表情を向けている気がする。
　そのある特定の人物っていうのは……


「すごいじゃん！　正直、冗談と本気の割合ハーフハーフって感じだったけど、さすがエリート機械工学科！」


　ゾーイは素直にすごいと、二人に拍手を送っている。
　というか、みんなこの場の空気に流されて気にしていないみたいだけど、冗談半分であんな煽ってたの、ゾーイ……
　とりあえず、その場はよかったという空気が流れていたのだけど……


「すみません。水を差すようで申し訳ありませんが、この自動車は一体どなたが運転するのですか？」


　モーリスの言葉で、その場はまたもや凍りついた。
　言われてみればそうなんだ。
　空島にも、自動車に似たような完全太陽電池で動くソーラーカーはある。
　地上に人類がいた頃からソーラーカーはそこそこ普及していたようだけど、空島ではほぼ移動手段はソーラーカーだ。
　まさに一家に一台という具合で。
　けど、ソーラーカーの免許取得試験を受ける資格だって、成人してからだ。
　ましてや、この中に約千年前の自動車を運転したことがある人間なんているわけもないけど……


「何言ってんの？　空島を操縦することに比べたら、自動車を運転するなんて寝ててもできるでしょ？」


　ゾーイの判断基準って、絶対に人とズレてると思う。
　そう言ったゾーイはアーデルの、クレア、ハロルド、モーリス、ジェームズを見て当然だというように言い放つ。
　さっきまでシンに向けていた同情の眼差しを、今度はその四人に向ける番だ。


「待て待て待て待て、本当に頼むから待ってくれ！！！！」
「待ってるでしょ。別にどこにも行こうとしてないけど？」
「そうじゃないのでああああああああああああるううううう！！！！」
「お願いだから……僕にできることは可能な限り、何でもするから……」
「あ、そう？　じゃあ、運転して？」
「誰か、ゾーイに会話を教えて……本当切実に……今すぐに……!!」


　ハロルドは元から濃い顔が、さらにパワーアップするほど深刻な顔でゾーイに詰め寄り、ジェームズは号泣しながら土下座までして、ゾーイに懇願する。
　そんな二人に挟まれるゾーイとの温度差は、こっちの頭が痛くなるほどだ。


「嫌な予感はしてたのよね……」
「本当に無茶苦茶ですね、あなたは」


　クレアは両手で顔を覆って、モーリスは深いため息をつく。


「生きるか死ぬかなんだから、なりふり構っていられないわよ」


　そう言ってゾーイは、俺達の方に無表情で振り向いた。
　凛とした佇まいに、俺は息を呑む。
　ゾーイの透き通るような青い瞳は深く心の底まで見透かしていそうな、そんな気がした。
　どうして？　なぜ、そんなに君は……


「……わかったわ」
「え？　クレア？」
「スタニックは、私と乗りましょう」


　どうやら、ゾーイの言葉にクレアとモーリスは覚悟を決めたようだった。
　二人の目は迷っていなかった。
　突然の展開にハロルドとジェームズは乗り遅れたらしく、目の前の二人は、これでもかとあわあわしている。
　けど、待って、その前に……


「ごめん、スタニックって誰？」


　うん、ゾーイの言う通り、モーリスが呼んだスタニックって誰？


「ええ!?　こんなに一緒にいるのに、僕の名前も知らなかったの!?」


　そう叫んだのは、さっきまでそこで号泣していたジェームズだった。