エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第二章 未知の世界への移住

あだ名は原型が大事説

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「は? あんたはジェームズでしょ?」
「あー、そうなんだけど……僕の本名はスタニック・オリヴィエなんだよね」
「すたに……何だって?」


 まさかのここにきて、ジェームズの名前はジェームズじゃないと言い出した。
 というか、待てよ? オリヴィエってどっかで聞いたような……?


「じゃあ、ジェームズって何なの? ミドルネームとか?」
「いや、それも違くて……」
「デルタが付けたあだ名なんだよ」


 ゾーイの質問に答えたのはジェームズ本人ではなく、シンだった。


「デルタが?」
「そうよ。だって、スタニックなんて名前じゃ、呼びにくいんだもの」
「えへへ……」


 デルタが悪びれもなく答えるその隣では、ジェームズがだらしない顔でデレデレと鼻の下を伸ばしている。
 ジェームズ……いや、スタニック? 本当にそれでいいの?


「呆れた。まあ、呼びにくいってのには激しく同意だけど。それならいっそのこと、Jとかの呼び方にしたら?」
「そ、そんな……!? 誰のことだか、余計にわからなくなるよ!」
「元々、ジェームズってあだ名の時点で影も形もないじゃないの」


 ゾーイが、これまた身も蓋もないことを言い出した。
 さすがにアルファベット一文字はね?
 というか、そんなことよりやっぱりオリヴィエって……


「オリヴィエって、空島全体で五本の指に入るって言われてる、あのオリヴィエ財閥!?」
「え? うん、そうだよ?」


 橘さんの言葉で、ようやく俺は自分の中のモヤモヤを晴らすことができた。
 というか、全員がジェームズ……スタニックを見て目を見開いている。
 オリヴィエ財閥は、地上時代から続く貴族の生き残りの由緒正しいお家柄で、空島全体やナサニエルにも莫大な寄付金を出していると聞く。


「ようやく、これでスッキリしたわ!」
「あ、そうなの?」


 さすがのゾーイもオリヴィエ財閥のことは知っているらしく、隣でジェームズはどこか誇らしそうにしていた。


「つまり、親のコネでエリート集団の仲間入りを果たしたってわけね?」


 言葉も出ないとは、悪い意味ではこの状況のことを言うんだろうな……
 ゾーイの辞書には、気を遣うやオブラートという単語は存在しないようだ。


「ゾーイ!?!? そんな……あの……何を、何てことを、え?」
「ジェームズ? いや、スタニック? どっちでもいいな!? とにかく、今のは聞き間違いだ!」


 クレアは言葉になってないし、常に冷静なサトルでさえパニックだ。
 あとは俺も含めて苦笑いしたり、その場から顔を逸らすのが精一杯だった。


「あ、うん。そこまではっきり言われると否定する気も起きないや……僕って、昔から名前負けしてるんだよね……」


 当の本人のジェームズは怒る気もなくしたというような、どこか諦めたように曖昧に笑う。
 少し胸の奥が切なくなったのは、気のせいなんかじゃないだろう。
 大財閥の御曹司なんて、俺達が想像できないような苦労が、数えきれないほどあるんだろうな……


「否定しなくていいでしょ? あんたの一部なんだから」
「え?」
「運も実力のうちよ。まあ、入り口がコネだとしても退学者も多いナサニエルで生き残ってんじゃん。それもジェームズの実力でしょ? 名前負け? それを言った奴はどんだけ名前に勝ってんのか、説明してもらった?」
「そ、それは……」
「まず第一によ? 自分で負けてるって思い込んでるから、どんどん自信をなくしていくのよ? 堂々と自分はあの大財閥の人間だって胸張っとけっての! 自動車の運転なんて、あんたには簡単なことのはずよ?」


 冗談交じりにいつもの調子で、ゾーイはそう言った。
 さっきまでは、今すぐ泣きたいのに泣けないというような顔をしていたジェームズだったけど、今は少し泣いている。
 そして、それは悲しいから泣いているわけなんかではない。
 本当にゾーイって、その場の空気を支配できる能力を持っている気がする。


「ゾーイ……!! じゃあ、ゾーイは僕の運転する自動車に乗ってくれるんだね!?」
「は? そんなこと言ってないけど? 普通に嫌だから。あたし、無駄死にしたくないもん」
「話の流れは!? あれ!?」


 ほら、やっぱり、ゾーイはその場の空気を支配するのが上手いよ。
 一瞬でいい言葉が台無しだよ……
 最終的に、俺、サトル、望、ゾーイがハロルドの運転で赤の自動車に、真由、橘さん、ローレンさんがクレアの運転で黄色の自動車に、チーム・ロジャーとジェームズがモーリスの運転で黒の自動車に乗って、目的地の森に向かうことになった。


「出発進行! 一気に飛ばしてけー!!」
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