エリート希望者の地球再生記

第二章 未知の世界への移住

安全運転をしませんか

「気を取り直して、行こうか！」


　ゾーイがそう発言したと同時に、自動車はハロルドの運転の時の何倍ものスピードで一気に加速し始めた。
　当然だけど、何の準備もできていなかった俺達は全員が後頭部を強打することになった。
　ハロルドに至っては、助手席でひっくり返っている。


「ゴー！　ゴー！　ゴー！」
「待って……待って、ゾーイ、あの……運転できるの!?」
「今してるでしょ～？」
「スピード出しすぎじゃないか!?」
「これぐらい出さないと、チーターだっけか？　振り切れないでしょうよ」


　ノリノリなゾーイに対して、サトルと俺はいっぱいいっぱいで叫びながら指摘をするけど、効果はなし。
　どうにかメーターを覗き込むと、もうメーターを振り切ってしまっていた。
　本当に待て、今何キロ出てるんだ!?
　重力で体が後ろに引っ張られて自由に動かすこともできず、どこかに捕まって身を守ることに徹底するしかない。


「こ、これは過酷……あ！　ゾーイ、待ってくれ！」
「ハロルド、どうしたの？」
「チーターは見事に振り切った！」
「そりゃよかった！　じゃあ、このままあの森まで……」
「それは待ってくれ！　クレア達にチーターの標的が変わっているんだ！」
「あ、マジで？」


　突然の急ブレーキに、今度は俺達全員揃っておでこを強打する。
　止まるなら止まるって言ってくれ……


「うわ、完全にターゲット変更のロックオンってやつだね」
「そ、そうなのだよ……イタタ……!!」
「しょうがないわね？　それでは、バックしまーす！」
「え？　バックって……うおっ!?」


　ゾーイはそのまま、バックをしているとは思えない速度で下がり始める。
　左右に大きく揺れ、時々大きな何かが車体にぶつかる音がしている。
　絶対に聞こえているはずなのに、ゾーイは構わずそのまま下がり続けている。
　けど、そうだと思ってたら……


「ここで一回転でございまーす！」


　ゾーイの言葉通りに大きくハンドルを切られた自動車は、まるで急なカーブを曲がるのかとでもいうような強引な方向転換をする。
　結果的に、車体はクレア達の方に向き直る形になったが……
　ゾーイの運転は、大げさでも何でもなく、体が引きちぎられそうになる。
　隣のサトルも望も真っ青でひどい顔だし、ハロルドはまた助手席でひっくり返っている。


「さて、ここから飛ばして行くわよ」
「ゾーイ！　頼むから、少しだけ！　少しだけ安全運転にしてくれ！」
「え？　誰も死んでないじゃん。十分安全運転でしょ？」
「は……ええ！？！？」
「発車しまーす！　ゴー！　ゴー！」


　ゾーイの判断基準って、そこ！？！？
　次の言葉を俺が続けるより早く、ゾーイは自動車を発車させてしまった。
　慌てて体制を整えていると、サトルとバッチリ目が合う。
　サトルはスっと親指を立てる。
　その仕草が俺には、無事でいてくれ健闘を祈るというメッセージに思えた。
　とりあえず、俺も親指を立てておく。
　そんなことをしてる間にも、自動車はどんどん加速する。


「念のために、どっか捕まってて～？」


　そうゾーイが言った次の瞬間、この自動車はチーターに突っ込んでいた。
　その衝撃は、一瞬首が取れたのかと思わせるほどだった。
　おまけにその衝撃で、サトルと望は俺の方にドミノのように倒れ込んでくる。
　おかげで、俺は顔が窓に押し潰される事態だ。


「まずは、一匹ね！　次よ次！」


　そんな衝撃波を喰らうみたいなことが六回も続いた。
　叫ぶ暇もないほどに、次々と。


「このボケカス……俺達を殺す気か!?」
「あ、大丈夫！　今の状況であんたらのこととか、頭の片隅にもないから」
「何が大丈夫なのだ、ゾーイ!?」
「お願いだから……事前に説明を……」


　望の文句はあっさり流され、ハロルドと俺は悲痛な声を上げるしかなかった。
　てか、目の前のチーター達、さっきより怒ってない？


「余計に神経逆撫でしちゃったか。この作戦失敗だわ」
「ふざけんじゃねえぞおおおおお!!」


　あっけらかんとしたゾーイの態度と言動に怒る気力があるのは、きっともう望しかいないと思う。
　祈りはついに届かなかったかと、俺が天を仰いだその時だった。


「みんな、待って！　というか、あれを見て！　ほら！」


　サトルがチーターの群れの後ろを指差して、興奮気味に叫ぶ。
　目を凝らしてよく見てみると……
　

「象だ」