エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

文字の大きさ
38 / 257
第二章 未知の世界への移住

三秒で時速百キロに到達

しおりを挟む
 俺達の目の前には、ほっそりとした体の四足歩行の動物。
 この前見たライオンより、はるかに小さかった。
 頭は体に対して小さく丸く、四肢は長くて細いが、筋肉はよく発達している。
 体から細く長いしっぽまで広がる黄色と黒の斑点模様が特徴的だった。
 間違いなく、あいつらはチーターだ。


「ち、チーター? 群れって……それは何なんだ!?」
「見たまんま。また猛獣のご登場ってわけよ」
「かつては、地上で最も走るのが速いと言われた動物だよ」
「あら、それは大変。ハロルド、油断は禁物だからね?」


 既に動揺がすごいハロルドの横で、呑気にゾーイは欠伸をしながら答える。
 俺の若干の脅すような言い回しへの返答さえ、この緊張感のなさだよ……


「そ、そんな……そそその……!!」
「テメーに震えてる暇はねえ! 運転に全神経使ってろ!」
「三人とも、今の状態でハロルドにこれ以上の要求は酷じゃない?」


 まだ何もされていないのに、もう怯えきっているハロルド。
 それに対し、望が立ち上がりながら怒鳴るという状況。
 さすがに、脅しまくる俺達に挟まれる怯えきってしまったハロルドのことを不憫に思ったのか、サトルが苦笑いでそう言ってきた。


「あ、そっか……ごめん、ハロルド」
「はは……ははは……へ、平気だ! このハロルド・早乙女に、不可能なんて言葉は似合わな……」


 普段より三倍は饒舌なハロルドが、演説をしながら振り返った時……
 その場に轟いた、どこまでも響く不快極まりないような大音量。


「うおおわ!?!? 何事だ!? 今度はどうした!? 敵の集落か!?」
「ハロルド、前見て! 前を!」
「え? あ……どわあああああああ!?」


 謎の大音量のせいで、チーター達は興奮状態になってしまった。
 六匹は、俺達が乗る自動車に一直線に襲いかかって来る。
 余所見をしていたハロルドは突然のチーターの襲撃にパニックになり、ハチャメチャにハンドルをきりまくる。
 そのおかげで、車体は揺れまくりだ。


「ハロルド、落ち着け! 頼む、一旦冷静になってくれ!」
「す、すまない! しかし、この謎の音の正体は……」


 サトルの叫びで、どうにか落ち着こうとハロルドは深呼吸をする。
 けど、その間も謎の大音量は鳴り止むことをせずに鳴り響いている。


「ハロルド、一回左手を離して」
「は!? ゾーイ、正気なのか!? そんなことをすれば……」
「誰よりはるかに冷静だから、さっさと左手をどけて! そうしないと、この不快な大音量が鳴り止まないの! これはクラクション! 今、あんたがずっと左手で押してんのよ!」


 ほとんどキレながらそう言ったゾーイの剣幕に負けて、ハロルドは左手をハンドルから離した。
 すると、ずっと鳴り響いていた謎の大音量は見事に収まったのだ。
 まあ、とりあえず原因がわかったのはよかったけど……


「この責任どう取るつもりだ、この疫病神がよ!! ああ!?」
「あ、あああ、あの、それは……!!」
「望くんは、落ち着いて! ハロルドを運転に集中させて! 間違いは誰にでもあるでしょ!?」
「人様に迷惑をかけねえ間違いなら関係ねえけどな!? 残念ながら、今回は俺に多大な精神的苦痛を味あわせてんだよ!」
「望! とにかく、まだ今は……」
「お前が言ってたんだろ!? あいつらは、地上最速の動物だって! こいつのドジのおかげで、この最悪な状況が出来上がってんだぞ!?」
「わ、わかった! わかったから……!!」


 どうにか運転を続けているハロルドに掴みかかる望のことを、サトルと俺で必死に引き離しにかかっている。
 メーターを見ると、今の自動車の速度は百キロを越えているが、隣を見るとチーターはピッタリと横に並走している。
 というか、こちらの様子を伺っているようにも見えるし……
 振り返ると、クレアとモーリスがそれぞれ運転する二台の自動車もチーターに追われているようだった。


「とにかく、どうにかして振り切る方法を考えないと……」
「あ? 振り切る? 数時間前に初めてハンドル握った奴らの運転で、あの今か今かと襲いかかる瞬間を待ち構えている目をした猛獣を、本気で振り切れると思ってんのか?」


 サトルが考え込んでいると、横で望がほとんど諦めたようにそう言った。


「望! お前はどうして……何で、そう諦めるんだ!?」
「じゃあ、どんな策があるんだ!? 早く答えてみろよ!」
「しかし、やっぱり諦めるのは早いと思うぞ! 何か方法があるはずだ!」
「テメーは黙って運転しろ! 元はと言えば、テメーが戦犯だろうが!」
「ちょっと運転代わるよ!」
「今度はお前か!? お前はまた余計なことを……今、何て言った?」


 とにかく、俺とハロルドに噛み付きまくる望。
 それにゾーイも参戦し……今、本当にゾーイは何て言った?


「ハロルド、三秒でどいて」


 そう言うやいなや、ゾーイはハロルドを自分が座っていた助手席に文字通り放り投げた。
 そして、ゾーイは運転席に座った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...