エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第二章 未知の世界への移住

赤くて黒くてドロドロで

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 正直なことは本当に素晴らしいことだと思うけど、時にはそれで自分や他人の首を絞めることもある。


「千年前の憎しみぶつけられてもいい迷惑なの! 会ったこともない人間の罪を背負えるほど、あたしは暇でも、お人好しでもないの! そもそもよ、こっちは少し前に空から落ちてきたばっかりで、何もわからないの! なのに、多勢に無勢であんたら恥ずかしくないの? 一生太陽の下歩けなくなるわよ!」


 時が止まったどころじゃないな、息が止まった気がする絶対に。
 犬人間と猫人間達は話せるのかはっきりしないけど、沈黙を続けている。
 けど、武器は手に備えてるし、睨んできてるし、飛びかかって来るまでのカウントダウンが聞こえる気がする……


「それと、あと一つ!」
「もう黙っとけ、頼むから……」


 そう、あのアランが懇願するほどに事態は深刻だ。
 次は何を言うんだよ、ゾーイ……


「人類が空に逃げた理由は第三次世界大戦のせいで、地上には住むことが無理だってなったからなの。けど、ここには自然がある! こんなに美しい景色を見たのは生まれて初めてだった」


 あれ? 俺は、俺達は思っていたのと真逆のことを言い出すゾーイに慌てた。
 それはどうやら、犬人間と猫人間と同じだったようで……
 ゾーイの言う通りだ、人間と同じで表情や目にすごく感情が出るんだな。
 今は、拍子抜けたって顔をしている。


「一度、人類が壊した地上を蘇らせたのはあんたらだよね? 人間を一番近くで見てきたあんたらだからこそ、たった千年でこんなに進化して、ここまで生きてこれたんだよね?」


 ゾーイの今の表情は、俺達には背中を見せているからわからない。
 今の君は、どんな表情で彼らに語りかけているのだろうか。
 一体何をどうしたら、あんなに敵意を見せていた彼らを泣かせることができるのだろうか。


「あたしは、この世界に心の底から敬意を表します」


 ゾーイがそう宣言すると、犬人間と猫人間からは様々な感情を感じた。
 ほとんどが戸惑いと、殺意だった。
 ゾーイ、俺には本当に全然君のことがわからないよ……
 少し近付いていると思ったら、また君は遠くに行くのだから。


「証明できるのか!」


 そんな時、初めて俺達の誰かのものではない声がその場に響いた。


「やっぱり、喋れんじゃんよ」


 そう笑いながら言ったゾーイの視線の先には、一匹……いや、一人の犬人間が立っていた。
 本当に言葉を話せるんだな……
 その犬人間は、明るいクリーム色の体毛で、鼻は黒、耳は頬に沿って垂れ、アーモンド形の目、フサフサの尻尾、体長は俺達と同じくらいだ。
 この犬種は覚えてる、ゴールデンレトリバーだ。


「おい! レオ、お前……!!」
「二人とも! ちょっと待ってよ!」


 そして、また新たな二人分の声と同時に処刑台に上がって来たのは、犬人間と猫人間が一人ずつ。
 どうやら、一番最初に俺達の前に出て来た犬人間は、レオというらしいな。
 名前の文化まで、しっかりあるのか。
 レオと呼んだ犬人間は、体毛が黒くてとても短く、体は細身だが全体的に筋肉質、尖った耳、短い尻尾、体長は俺達より結構高いと思う。
 この犬種も覚えてる、その優美な筋肉質のスタイルから犬のサラブレッドと呼ばれた、ドーベルマンだ。
 そして、もう一人は猫人間。
 口調と声の高さから、多分メスだとは思う。
 体毛は銀地に黒の渦模様、手足も細く長く、アーモンド形目は薄い黄色、鼻は赤茶色、先細い長い尻尾、体長は真由と同じくらいだろう。
 何だったかな……確か、結構人気の種類の……そうだ!
 アメリカンショートヘアだ!
 よくよく見ると、犬と猫の特徴の肉球とかないんだな。
 しかも、よく見ると服装は、これは中世のヨーロッパって感じか?
 ゴールデンレトリバーとドーベルマンは騎士のような鎧を、アメリカンショートヘアはドレスのような、ワンピースのような?
 俺が観察に夢中になっていると、またゴールデンレトリバー改め、レオはゾーイに叫ぶように問う。


「証明できるのか! お前達が、僕達にとって脅威ではないと!」


 ゾーイはそう言われると何かを考えるような素振りをする。


「証明ね~?」


 おもむろに、ゾーイは縄を切るために使ったナイフを取り出す。
 そして、次の瞬間には自分の左の手の平を切り裂いていた。


「ゾーイ!? 何してるんだよ!!」
「きゃあああああああ!!」
「お前……ついに、イカれたのか!?」


 ゾーイの左の手の平からは、赤黒く染まった液体が……ゾーイの血が、次々と溢れて下に落ちる。
 そして、皮肉にも処刑台を汚すのだ。
 一瞬でその場の空気は変わる。
 それまでの光景を見ていた全員が、狼狽え、悲鳴を上げ、後退った。


「この血に誓う。どう?」


 それでも君は、笑顔で自分を処刑台に立たせた奴らに問いかけるのだった。
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