エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

文字の大きさ
46 / 257
第二章 未知の世界への移住

マジックショーって呼べるかな

しおりを挟む
「ゾーイ! 早く! 早くこっちに! 手当てしないと……!!」
「とにかく、ここに座って! まずは傷口を洗ってから、清潔な布で……!!」


 拘束を解かれた俺達は、速やかに処刑台から下ろされた。
 そして、作りは建築科のサトル曰く、木材と石造りの両方だというレオの家に通される。
 平気だと頑なに曲げないゾーイを黙らせた真由は、ゾーイを支えながら一番に家の中に入る。
 続いて、ゾーイに座れと叫ぶのはアメリカンショートヘアの子だ。


「おーい! あたし、本当に……」
「ゾーイ、騒ぐな! そんな風に大声を出したら傷に響くだろう!」
「そうだよ! あんまりというか、手を絶対に動かさないで!」


 立ち上がって呼びかけるゾーイを怒鳴り、再び座らせたのはハロルドとジェームズだ。
 あまりの二人の剣幕に、さすがにゾーイは苦笑いで、再び大人しく座る。


「けどけど、あの出血量だと、かなり深く切ったんじゃないの!?」
「えっ!? それじゃあ、縫わないとってことなのかよ!?」
「誰がやるのよ!? あ、そうだよ! 医療科が三人もいるじゃん!」


 デルタとシンが真っ青な顔で家の中を端から端に行き来している時に、涙目のソニアがこの場にいない真由以外の医療科の二人に期待の視線を送る。


「待ってよ!? そんなの無理! 絶対に無理だから! 縫合は三年にならないと授業でやらないし!」
「第一に、道具が何もありません」


 無理だと、これでもかと身振りと首を振ることで表現する橘さんと淡々とそう告げるローレンさん。


「甘えたことを言ってる場合か。道具は代用すればいいだろ」
「お、おい! 言い争っている暇なんてあるのか!?」
「うるせえ!! 関係ねえ奴は黙ってろ! 全部こっちの問題だ!」
「あ? そんな言い方ねえだろ! 良かれと思って言ってんだぞ!」
「ま、まあまあ、落ち着いてよ」


 アランの責める口調にたまらずレオが間に入ると、そこに望が元も子もないことを言い出して噛み付いた。
 すると、今度はその望にドーベルマンの犬人間が言い返す。


「待てって! 今は喧嘩なんかしてる場合じゃないだろ? まずは……」
「そうだ、少しは状況を考えろよ!!」


 俺が言葉を続けようとしたら、思わぬ人物に遮られることになった。
 サトルが、こんなに怒るなんて……


「きちんとしないと、最悪の場合は切断とかになるんだよ! まず、もっとゾーイは後先を考えて……」
「あのさ? 話を聞けっての、簡単に自分の手を切るわけないでしょ?」


 しかし、興奮気味のサトルの言葉を遮ったのは話題の中心のゾーイだった。


「え? 切るわけないって……」
「言葉の通りよ。ほら!」


 そう言って、ゾーイは左の手の平を俺達に見せた。
 切り裂いた跡なんてどこもなくて、無傷で綺麗な左の手の平を。


「は? あれ? ど、どういう……」


 その時の俺は、スムーズに言葉を紡ぐことができなかった。
 それはみんなも同じだったようで、口を開いたり閉じたり、呆然とゾーイのことを見つめたり……


「種はこれね?」


 そう言って取り出したのは、赤黒い液体がパンパンに入った小袋。
 待てよ、この赤黒い液体って……


「あ、あの、ゾーイ……? まさかとは思うんだけど、これって……」
「お察しの通り! これは輸血袋を小分けにしたミニサイズの輸血袋よ?」
「あ、そっか……うん、これを小分けにしたのは誰なの?」
「あたしよ? 小分けにした方が何かと使い易いし、持ち運びも簡単だし」
「ど、どこに……隠してたの?」
「パーカーのポケット。どんだけ外見が子どもでも、怪しいと思ったら身体検査はしっかりやった方がいいよ?」


 俺のたどたどしい質問にも、淡々と答えていくゾーイ。
 最終的には、レオ達に自分のことを最大に棚に上げたアドバイスをしている。
 まあ、これで全部が繋がったな。
 ゾーイはミニサイズの輸血袋を左手に忍ばせておいて、持っていたナイフでその輸血袋をわからないように切った。
 それで、強烈なインパクトをあの場の全員に与えたってわけか……


「信じられないわ……あの一瞬で、どうしてそんなこと思い付くの……!?」
「理解したくもありませんが、本当に呆れた人ですね」


 頭を抑えて誰に問いかけるわけでもなく呟くクレアと、久しぶりに絶対零度の目で見つめながらため息を深くつくモーリス。


「医務室から、一つもらっといたの」
「あー、そうなの……ねえ、何のために使う予定だったの?」
「え? それはわからないけど、実際に役に立ったでしょ?」


 心配して損したとは、まさにこういうことを言うのだろう……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...