エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第三章-⑵ デルタとソニア

君はすぐにいなくなる

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 結果的に、幽霊騒動はシンとハロルドの勘違いということで幕を閉じた。
 まあ、ゾーイが無理矢理に終わらせたって言う方が正しいけど……
 それから三日後の夜、俺は思いっきり望に脇腹を蹴られたことで、目が覚めてしまった。


「イッタタ……本当に昔から、寝相の悪さだけは変わらないよな……」


 俺は隣で気持ち良さそうに眠る布団の頭と足が逆になっている片割れを見て、自分でもびっくりするほどに優しい声で呟いていた。
 望は、俺の隣で寝るようになった。
 きっかけはゾーイから、望の寝相が最悪すぎてうるさいから責任をとれと言われたことだったけど、今では当たり前のように望は俺の隣で寝る。
 本当に、全てゾーイのおかげだよな。
 布団を望にかけ直しながら、俺はゾーイが眠っている場所を見るが……


「は?」


 そこはもぬけの殻で、あのフワフワな髪どころか、人の影も形もなかった。


「ゾーイ? どこに……!?」


 暗闇に目が慣れてきた俺は、とにかく教会の中をくまなく捜す。
 すると、俺は窓から闇夜に浮かぶ一つの炎が目に留まり、迷わず教会を飛び出した。


「ゾーイ! ゾーイ! 待って……!!」
「え? あ、昴?」
「はあ……はあ……!!」
「どうしたの? こんな真夜中にそんな息切らして?」


 振り向いた松明の明かりに浮かび上がったゾーイの顔を見ると、炎がその海のように青い瞳を昼間よりも輝かせていると思えた。
 心底不思議な顔をするゾーイを目の前にして、俺は急いで息を整える。


「そ、それは……俺のセリフだよ!」
「もしかして、起こした?」
「いや、それは違う。望からの脇腹への一撃のせいだから……」
「あいかわらずね、三日ぐらい全身縄で縛っとけば? 少しはあの最悪な寝相だって、マシになるんじゃない?」
「それはどうかな……ははっ」


 ゾーイの場合、今のが冗談か本気かがわからないから怖くなる。
 ここでもし俺が、それもありかなとか何とか言えば、明日の望は簀巻き状態で眠ることになってしまう。


「さて、あたし、少し急ぐから!」
「え? ま、待って! 俺も一緒に行くよ!」


 話が一段落すると、すぐにゾーイは前を向いて歩き出してしまう。
 慌てて、俺はその後について行く。
 それによって、俺達は歩きながら会話をすることになった。


「何で、昴まで来るのよ?」
「そんな何でって……あのさ、こんな時間に一人で出歩くのはいかがなものかと思うよ?」
「まあ、確かに暗いわよね? 明日辺りに何人かで荒廃都市にでも行く?」
「え、それこそ何で?」
「電気よ、電気! さすがにガスを扱うのは不安があるけど、電気ぐらいなら根性でこの王国に通せるんじゃない?」
「いや、待って!? 危険すぎるって!」
「何事も気持ちが大事でしょ?」
「大半はそうかもしれないけど、このことは精神論じゃダメだと思うよ!?」
「そうこうしてる間に、着いたよ」
「え? あ、そうなの……何で温泉?」


 電気工事で一番ダメな精神論という不穏なことを言い始めたゾーイだが、目的地に着いたらしく足を止める。
 改めて、俺は自分の持つ松明を少し上に掲げてここがどこかを確認するが、そこは何と温泉施設だった。


「ゾーイ、温泉に入りたかったの?」
「……昴は表から入って?」
「え? 俺もなの? ていうか、表からって……あれ、ゾーイは?」
「あたしは裏から入る」
「な、なぜ?」
「あたしが言った通りに行動すれば大丈夫だって! 頼んだからね?」


 そう言い逃げして、ゾーイはさっさと温泉施設の裏へと走って行ってしまったのだった。
 取り残された俺は、とりあえずはゾーイの言う通りに普通に温泉施設に入る。
 温泉施設には夜でも使用できるようにとのことで、固定式の松明が脱衣場などのいたるところに設置されている。
 ここに炎を灯せば、十分な明るさになって温泉施設を使用できるのだ。
 まあ、今の時間はさすがに誰も……?


「あれって、明かりか? 誰かが消し忘れたのかな?」


 不自然にそこに炎が一つだけ、闇夜に浮かび上がっており、それはすぐに俺の目に飛び込んできた。
 固定してるとは言え、松明が倒れて火事にでもなったら大変だ!
 俺は一旦、持ってきた松明をそこら辺に置くために水をかけて消火。
 そして、蛇口を捻って出てきた水を両手に汲んでそれを消し忘れたと思われる炎にかけて消火する。
 そして、念のため他にも松明の消し忘れがないかと、まず俺は男湯の脱衣場のドアを開けたその時だった……


「こんの……!! 不審者があああ!!」
「え、ちょっ、イッタ!?!?」 
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