エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第三章-⑵ デルタとソニア

姉から兄へと妹は望んだ

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 ゾーイは、自由に自分らしく生きろとデルタの背中を押した。
 ゾーイは、ずっと言えなかった感謝と愛情と大丈夫だというソニアの気持ちをくみ取って、代わりにデルタに伝えた。


「何、二人して泣いてんの? あたしは幽霊騒動がまた起きないようにって、忠告してるだけだけど? 金輪際あんなのは御免よ」


 そして、もう二人は孤独じゃないんだよと、肩の力を抜きなと、またものすごく遠回しにゾーイは言葉を紡ぐ。
 ゾーイは、すぐ誤魔化すようにため息をついた。
 そんな様子を見て、アランはどこか安心したように呆れていた。
 俺は、とても温かい気持ちになった。

 ゾーイは、デルタとソニアを縛る空島時代の呪縛から救いたかったんだと、俺はそう思ってる。
 人生はまだまだやり直せると……
 不器用っていうか……望との仲直りの時もそうだったけど、いつものド直球な進め方と違って、本当に誰かを救う時は回りくどいよね!?!?
 男湯に侵入とかしなくても普通にレイモンド兄妹を呼び出して、男に戻れと言えばよかったんじゃないのかな……
 まあ、多少なりともインパクトには欠けるけどさ?


「まあ、けど、男らしくとかはそんなの無理か!」
「え?」
「デルタ? あんた、美しさを追求することにハマっちゃったんじゃない?」
「はあ?」


 まあ、最後の最後で百年の感動さえ冷めることを言うのが、ゾーイだけど。
 その証拠に、そのゾーイの言葉を聞くと、レイモンド兄妹はもう泣いていなかった。


 ***


「お、おと、おとと、おお、男だったのおおおおおおおおおお!?!?」
「マジで!? 全然気付かなかった……」


 次の日、デルタは腰まであった綺麗な赤髪をバッサリ切って、男だと俺達をはじめとして、ワンニャン王国全体にカミングアウトした。
 ついでに、幽霊騒動の真相も話した。
 デルタはパッドを入れることも、メイクをすることも、レディースの服を着ることもなく、ただ一人のデルタ・レイモンドという少年がそこにいる。
 目鼻立ちがはっきりしてるから、イケメンだってことには変わらないけどね。

 まあ、想像通りに、一番ショックを受けていたのはジェームズだった。
 残酷な現実に、泣くことも話をすることもできないようで……ハロルド、クレア、サトル、橘さんという四人がかりで必死に慰められている。
 シンも、聞いた時は驚きすぎてひっくり返っていたけど、元々デルタとの付き合いも長いこともあって、すぐに打ち解けていた。
 それどころか、デルタが男だということに喜んでいる節さえある。
 一方で、正直言うと、シン以外のチーム・ロジャーはこのワンニャン王国の改革に、あまり積極的に参加をしてくれてはいなかったのだが……


「ゾーイ、俺達は何すればいいんだ?」
「はあ? 急に何よ? 今まで散々サボってたくせに!」


 あれから、デルタは積極的に王国の改革に協力してくれるようなった。


「ごめんってば! 今までのは、本当に心から謝るからさ! そんな風に嫌味言わないでよ、ゾーイ?」
「どっかで聞いたフレーズだこと……ソニア? あんたは、あと自分の人生で何回ぐらい心から謝るわけ?」


 ソニアも、すっかりゾーイに懐いており、最近はほとんどくっついて回ってる姿をよく見るほどだ。
 まあ、レイモンド兄妹の態度が驚きの変化を遂げても、ゾーイは通常運転だ。


「じゃあ、毎日最高に美味しいご飯を作って? いつもワンパターンの煮込み料理で、毎日死ぬほど大変なのに、唯一の楽しみの食事すら機能しないなんて、冗談じゃないもの!」
「料理か……それなら、楽勝かな!」
「お任せあれ! ゾーイ? もう絶対に忘れてると思うから言うけど、あたしと兄貴は調理科だからね?」
「どうでもいいから、味で証明して」


 そんな経緯で、デルタとソニアのレイモンド兄妹はワンニャン王国全体の専属料理人に任命されたのだった。
 そして、あとまだ変わったことが……


「ね、ねえ、ゾーイ!」
「何?」
「今日って、天気いいよね?」
「あ、うん」
「その……よかったら、一緒に星とかを見に行かない!?」


 デルタがゾーイに、結構積極的にアプローチをかけるようになった。


「……星って顔してるかよ」


 すると、望は遠くから見て、面白くなさそうに不貞腐れることが増えた。


「は? 普通に面倒だわそれ。そんな暇あったら、一秒でも早く寝たいわ」


 まあ、どうやったら何が変わるのか未知数なゾーイは残ってるけど。





 ――誰より美しい男の子は、女神か魔女かわからない君に恋をしたのでした。
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