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第三章-⑶ ジェームズとコタロウ
お酒が手付かずの意味とは
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「は? 荒らされてるって……!?」
「とにかく、来い!」
食料が荒らされてると、血相を変えて叫びながら教会で夕食の準備をしていた俺、レオ、モカ、レイモンド兄妹のもとにやって来たのは、コタロウだった。
一旦それぞれの手を止めて、俺達は走って出て行ったコタロウの後を追う。
コタロウの後を追って行くと、そこには犬族と猫族が集まっていた。
「……ここって、冷蔵庫じゃないか」
そう、犬族と猫族が取り囲んでいたのは五日前に完成したばかりの、冷蔵庫の入口だった。
視界の端では、レオとコタロウが中に入って行くのが見える。
俺達が十日で制作した冷蔵庫は普通の冷蔵庫とは違う、地下貯蔵型冷蔵庫だ。
最初は街に行って残骸となった冷蔵庫を集めて、それを修理しようということになっていた。
けど、どれだけ続くのかわからないこの地上生活の先を考えた時に、まずは王国全体で食料を保存できる場所を作っておいた方がいいんじゃないか、という意見が出てきた。
一家に一台はまた考えるとして、最初は大きな食料保管庫としても使える地下貯蔵型冷蔵庫を作ることになった。
それに、現実的に考えて十日で王国中の家に一台ずつ冷蔵庫を置くのは、絶対無理だという結論にもなった……
「昴! 何の騒ぎだ?」
「おお、サトル。それが急にコタロウが教会に飛び込んで来たんだけど、食料が荒らされたとか……」
「はあ? 今度は食料泥棒か……とりあえず、中に入ろう」
騒ぎを聞き付けたのか、いつの間にかサトルは俺の隣に立っていた。
そして、冷蔵庫の中に入るための階段を下りていくサトルを、俺も追う。
この地下貯蔵型冷蔵庫は、元々は地上時代のオランダで生まれたものだと建築科のサトルと望は言っていた。
地下温度を利用しながら扇風機などで空気を循環させ、冷蔵庫内を常に十度前後に保つ仕組みなのだそうだ。
よって、果物、野菜、発酵させたものを貯蔵するのに最適なのだとか。
中は家一件分の広さで、結構な量の食料を保存できる。
本当に、地面を掘るのは当たり前に大変だったけど……階段を設置して、中に棚を設置したり、壁を補強したりで、整えることも結構大変だったな……
それを十日でやったとか、俺達って本当にすごいことやったと思うよ?
「レオ、コタロウ、冷蔵庫の中の様子はって……これはちょっとひどいな」
思わず、言葉を止めて素直な気持ちが溢れ出るほど、中はひどい有様だった。
棚に並べられている野菜や果物が床に落ちてたり、食い散らかされてたり……
辺り一面、足の踏み場もないほどだ。
「あー、チーズにジャムもか。ほとんど手付けられてるな」
「あれ? けど、ワインは……酒とかは手付かずのままだな?」
俺とサトルは慎重に進みながら被害の状況を確認する。
サトルが言った通りに、その場ですぐ食べられる物はほとんど荒らされているけど、酒の類は未開封のままだ。
「一体、こんなこと誰が……」
「少なくとも、犯行を実行したのは夜中ってことは間違いねえだろうな。ここに出入りするのに昼間は目立つしよ」
「そんな……コタロウ、犯行って……」
「ああ? これは立派な犯罪だ。許可なく勝手に食い散らかして、こんなの泥棒と大差ねえだろ」
レオが神妙な面持ちで呟いた時に、俺の中で妙に引っかかったコタロウの犯行という単語。
案の定、コタロウの剣幕の前に俺の言葉は一蹴されてしまい、何も言えなくなってしまう。
けど、そんな気まずい空気の中に突然現れた似つかわしくない明るい声。
「ありゃ、今日も派手に荒れてんね」
いつの間に入って来たのか、ゾーイは俺達の目の前に、チーズを食べながら現れた。
あれ? 今のゾーイの言葉って……
「おい、待て! 今日も荒れてるってのはどういう意味だ!」
「その言葉通りだけど? この冷蔵庫が完成したその日から、朝はずっとこんな状態だけど?」
悪びれもなくサラッと衝撃の事実を白状するゾーイに、俺、サトル、レオは瞬時に目を合わせる。
そして、恐る恐るコタロウの大きな背中を見上げるしかなかった。
「は、おまっ、ふざけてんのか!? どうして五日も黙っていやがった!!」
「別に、報告するほどのことでもないと思ってたからよ? あ、この際言っとくけど、毎朝この片付けをやってたのあたしだから。まあ、感謝しろ」
コタロウの大きな背中は怒りやら、呆れやらでずっと小刻みに震えている。
うん、わかるよ……ゾーイの言ってること無茶苦茶だもんね……
「わかったぞ……お前だろ? お前が夜中に食料を荒らしているから、自分で隠蔽工作してるんだろ!」
「ねえ、そのアホ丸出しの推理、あと何分聞かなきゃダメ?」
「あ、アホ丸出しだあ!?」
「そもそも、あたしがコソコソと食料漁って食べるとか、そんな回りくどいことをするわけないじゃん。あたしは堂々と食べるわよ」
コタロウの剣幕を、ゾーイは華麗に交わすどころか追い討ちをかける。
そして、まあ本人の言う通りに堂々とゾーイはチーズを食べている。
全然威張るとこじゃないんだけど……
「この、クソ女あああ……!!」
「わああああ、待て待て! 一回落ち着くんだ、コタロウ!」
「俺を止めるな、レオ!」
けど、その食料荒らしの犯人は、怒り心頭だったけどゾーイに口で足元にも及ばなかったコタロウにより、その日の夜に捕まることになる。
***
「え……? な、何で……?」
騒ぎを聞き付けてすぐに、俺達は教会を飛び出した。
そして、俺達が冷蔵庫の前にたどり着くと、よく知る人物が犬族と猫族の兵士達によって連行されていたのだ。
俺はその人物に目を疑ってしまった。
今回の食料荒らしの真犯人は、ジェームズだったのだ。
「とにかく、来い!」
食料が荒らされてると、血相を変えて叫びながら教会で夕食の準備をしていた俺、レオ、モカ、レイモンド兄妹のもとにやって来たのは、コタロウだった。
一旦それぞれの手を止めて、俺達は走って出て行ったコタロウの後を追う。
コタロウの後を追って行くと、そこには犬族と猫族が集まっていた。
「……ここって、冷蔵庫じゃないか」
そう、犬族と猫族が取り囲んでいたのは五日前に完成したばかりの、冷蔵庫の入口だった。
視界の端では、レオとコタロウが中に入って行くのが見える。
俺達が十日で制作した冷蔵庫は普通の冷蔵庫とは違う、地下貯蔵型冷蔵庫だ。
最初は街に行って残骸となった冷蔵庫を集めて、それを修理しようということになっていた。
けど、どれだけ続くのかわからないこの地上生活の先を考えた時に、まずは王国全体で食料を保存できる場所を作っておいた方がいいんじゃないか、という意見が出てきた。
一家に一台はまた考えるとして、最初は大きな食料保管庫としても使える地下貯蔵型冷蔵庫を作ることになった。
それに、現実的に考えて十日で王国中の家に一台ずつ冷蔵庫を置くのは、絶対無理だという結論にもなった……
「昴! 何の騒ぎだ?」
「おお、サトル。それが急にコタロウが教会に飛び込んで来たんだけど、食料が荒らされたとか……」
「はあ? 今度は食料泥棒か……とりあえず、中に入ろう」
騒ぎを聞き付けたのか、いつの間にかサトルは俺の隣に立っていた。
そして、冷蔵庫の中に入るための階段を下りていくサトルを、俺も追う。
この地下貯蔵型冷蔵庫は、元々は地上時代のオランダで生まれたものだと建築科のサトルと望は言っていた。
地下温度を利用しながら扇風機などで空気を循環させ、冷蔵庫内を常に十度前後に保つ仕組みなのだそうだ。
よって、果物、野菜、発酵させたものを貯蔵するのに最適なのだとか。
中は家一件分の広さで、結構な量の食料を保存できる。
本当に、地面を掘るのは当たり前に大変だったけど……階段を設置して、中に棚を設置したり、壁を補強したりで、整えることも結構大変だったな……
それを十日でやったとか、俺達って本当にすごいことやったと思うよ?
「レオ、コタロウ、冷蔵庫の中の様子はって……これはちょっとひどいな」
思わず、言葉を止めて素直な気持ちが溢れ出るほど、中はひどい有様だった。
棚に並べられている野菜や果物が床に落ちてたり、食い散らかされてたり……
辺り一面、足の踏み場もないほどだ。
「あー、チーズにジャムもか。ほとんど手付けられてるな」
「あれ? けど、ワインは……酒とかは手付かずのままだな?」
俺とサトルは慎重に進みながら被害の状況を確認する。
サトルが言った通りに、その場ですぐ食べられる物はほとんど荒らされているけど、酒の類は未開封のままだ。
「一体、こんなこと誰が……」
「少なくとも、犯行を実行したのは夜中ってことは間違いねえだろうな。ここに出入りするのに昼間は目立つしよ」
「そんな……コタロウ、犯行って……」
「ああ? これは立派な犯罪だ。許可なく勝手に食い散らかして、こんなの泥棒と大差ねえだろ」
レオが神妙な面持ちで呟いた時に、俺の中で妙に引っかかったコタロウの犯行という単語。
案の定、コタロウの剣幕の前に俺の言葉は一蹴されてしまい、何も言えなくなってしまう。
けど、そんな気まずい空気の中に突然現れた似つかわしくない明るい声。
「ありゃ、今日も派手に荒れてんね」
いつの間に入って来たのか、ゾーイは俺達の目の前に、チーズを食べながら現れた。
あれ? 今のゾーイの言葉って……
「おい、待て! 今日も荒れてるってのはどういう意味だ!」
「その言葉通りだけど? この冷蔵庫が完成したその日から、朝はずっとこんな状態だけど?」
悪びれもなくサラッと衝撃の事実を白状するゾーイに、俺、サトル、レオは瞬時に目を合わせる。
そして、恐る恐るコタロウの大きな背中を見上げるしかなかった。
「は、おまっ、ふざけてんのか!? どうして五日も黙っていやがった!!」
「別に、報告するほどのことでもないと思ってたからよ? あ、この際言っとくけど、毎朝この片付けをやってたのあたしだから。まあ、感謝しろ」
コタロウの大きな背中は怒りやら、呆れやらでずっと小刻みに震えている。
うん、わかるよ……ゾーイの言ってること無茶苦茶だもんね……
「わかったぞ……お前だろ? お前が夜中に食料を荒らしているから、自分で隠蔽工作してるんだろ!」
「ねえ、そのアホ丸出しの推理、あと何分聞かなきゃダメ?」
「あ、アホ丸出しだあ!?」
「そもそも、あたしがコソコソと食料漁って食べるとか、そんな回りくどいことをするわけないじゃん。あたしは堂々と食べるわよ」
コタロウの剣幕を、ゾーイは華麗に交わすどころか追い討ちをかける。
そして、まあ本人の言う通りに堂々とゾーイはチーズを食べている。
全然威張るとこじゃないんだけど……
「この、クソ女あああ……!!」
「わああああ、待て待て! 一回落ち着くんだ、コタロウ!」
「俺を止めるな、レオ!」
けど、その食料荒らしの犯人は、怒り心頭だったけどゾーイに口で足元にも及ばなかったコタロウにより、その日の夜に捕まることになる。
***
「え……? な、何で……?」
騒ぎを聞き付けてすぐに、俺達は教会を飛び出した。
そして、俺達が冷蔵庫の前にたどり着くと、よく知る人物が犬族と猫族の兵士達によって連行されていたのだ。
俺はその人物に目を疑ってしまった。
今回の食料荒らしの真犯人は、ジェームズだったのだ。
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