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第三章-⑶ ジェームズとコタロウ
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「ゾーイ!?!? え、ちょっと、今がどういう状況かわかってる!?」
「やっぱり、こうなるのか……」
何とも優雅に手を振って登場したゾーイに、俺は全身全霊で叫んだ。
そして、隣でボソリと心底不安ですと言いたげに呟いたのはサトルだ。
「今? あー、ちょっと大げさな追いかけっこの真っ最中だけど?」
けど、ゾーイはあっけらかんとそう答えてくれるから、さあ大変……
「追いかけっこだ? 見張り番を縛り上げてジェームズを脱獄させた上に、自動車で王国中をカーレース並のスピードで暴走してるこの状況を、お前は大げさな追いかけっこって言うのか?」
「望? あ、落ち着いていこう……?」
「人生一回終わらして、出直せコラアアアアアアアアアア!!!!」
「お、おおっ、落ち着いて、望!?」
俺、サトル、デルタ、シンで必死に望のことを止める。
どうやら、今の望は俺の声なんかこれっぽっちも聞こえていないようだ。
本当に久しぶりに、こんなにキレてる望を見た気がするぞ……
「あ、ゾーイ! とにかく、隣のジェームズを下ろしてはくれないか!」
「それと、こんなことになった経緯を詳しく話してくださいね?」
しびれを切らして、ハロルドとモーリスがゾーイにそう訴える。
今気付いたけれど、助手席にはジェームズが座ってた。
けど、顔色があまり良くはないような気が……いや、気のせいじゃないな。
あんな運転じゃ、誰でも気持ち悪くて吐きそうになるに決まってるな。
「あ、それと僕も行くから、コタロウと一回しっかり話し合おう! 今は怒りで我を忘れてるだろうけど、きちんと話せばわかる奴だよ!」
「そうよ、ゾーイ! いつまでも逃げ回ってはいられないだろうし……」
続いてレオと真由も、ゾーイのことを説得しようと話しかける。
けど、ゾーイはいつまで経っても自動車を下りてくる気配なんてなく、それどころか……
「は? 聞いてなかったの? あたしとジェームズは海に行くの。だから、今は悠長に話し合ってる暇はないの!」
「え? あ、ゾーイ……」
「じゃあ、時間がもったいないから行くね? バイバーイ!」
「まっ、ゾーイ、君は正気なのかあああああああああああああ!!!!」
誰一人の説得にも応じず、無茶苦茶な理由を言い出したゾーイ。
やがて、ゾーイとジェームズを乗せた赤い自動車は、また猛スピードで走り出してしまったのだ。
そして、ハロルドの絶叫が、虚しく響き渡っていた……
けど、全員が唖然としてしまって、まったく動けないでいる中、一番に動いたのは……
「……あの自動車、あいつがどこから持ってきたかわかるか」
「え……!? あ、うん! 案内する!」
まさかすぎる、アランだった。
急に話しかけられたレオは、ものすごく驚いていたようだが、すぐに頷いた。
***
「うわ、すごーい! 何だこりゃあ!」
ソニアが興奮したように、楽しそうにそう叫ぶ。
レオに連れられ、俺達は檻の奥に続く洞窟の中に来ていた。
そこはなかなか広い空間で、そこにはありとあらゆる自動車が揃っていた。
「大昔にご先祖様達が、人間を真似して乗っていたものらしいんだ。まあ、先々代ぐらいから動物達が怖がるからって理由で、あまり使わないようにしようって方針になって放置気味なんだけど……」
「これ、全部動くのか?」
「あ、燃料は満タンじゃないかもだけど全部入ってるよ! ここに置いて雨風に当たらないようにしていたから、傷んではいないと思うし」
様々な種類の自動車に見惚れている俺達と、無表情で質問を投げかけたアランにもレオは丁寧に説明してくれる。
確かに、あのクラクションとかいう大きな音とか、エンジン音とか、動物達はあまり好きではないだろう。
特にレオ達は、動物達をすごく大切にしてるっぽいから慕われてるし、自動車には縁がなかったんだろうな……
「……あいつは、確実にあの赤い自動車をここから盗んだんだろうな」
「あー、けど、ここをどうやって……まあ、ゾーイだもんね……?」
静かに吐き捨てた独り言ともとれるアランの言葉に対し、レオは少し訝しげな表情で頭をひねっていた。
けど、すぐに思い直したように、苦笑しながら納得していた。
うん、ゾーイだからで話が全部片付くのもどうかと思うけど……実際に答えがそれしかないから、しょうがないか。
「レオ! とりあえず、ここの全員で乗れるぐらいの自動車はないか? すぐに追いかけたいんだ!」
「あ、うん、わかった! 確か、あれはここら辺に……あった、こっちだよ!」
呆れている暇もなく、すぐにサトルはレオに問う。
それを受けて、レオは俺達をとある自動車の前に案内した。
「……あ、これバスか?」
そこには、空島での交通手段でもお馴染みのバスがあった。
地上から、空島に受け継がれてるものって結構あるんだよな。
俺がそんなことに感心してると……
「みんな~! やっと、見つけた!」
「モカ! こっちだ!」
モカが手を振ってそう大声を出して走りながら、俺達のところに向かって来るのが見えた。
それにいち早く反応したレオが、手を振ってモカを呼ぶ。
「はあ……も、もう捜したんだよ……!?」
「ごめん、モカ! けど、今はあまり時間がないんだ!」
「え? あ、それなんだけど……」
「モカ、話は走りながら聞く! とにかく、今は一刻も早く出発を……」
「どこに行く気だ」
突然響いた、モカでも、レオでも、他の誰かでもない声。
俺達はゆっくりと後ろを振り返る。
「お揃いで、どこに行くんだ」
「……コタロウ」
「やっぱり、こうなるのか……」
何とも優雅に手を振って登場したゾーイに、俺は全身全霊で叫んだ。
そして、隣でボソリと心底不安ですと言いたげに呟いたのはサトルだ。
「今? あー、ちょっと大げさな追いかけっこの真っ最中だけど?」
けど、ゾーイはあっけらかんとそう答えてくれるから、さあ大変……
「追いかけっこだ? 見張り番を縛り上げてジェームズを脱獄させた上に、自動車で王国中をカーレース並のスピードで暴走してるこの状況を、お前は大げさな追いかけっこって言うのか?」
「望? あ、落ち着いていこう……?」
「人生一回終わらして、出直せコラアアアアアアアアアア!!!!」
「お、おおっ、落ち着いて、望!?」
俺、サトル、デルタ、シンで必死に望のことを止める。
どうやら、今の望は俺の声なんかこれっぽっちも聞こえていないようだ。
本当に久しぶりに、こんなにキレてる望を見た気がするぞ……
「あ、ゾーイ! とにかく、隣のジェームズを下ろしてはくれないか!」
「それと、こんなことになった経緯を詳しく話してくださいね?」
しびれを切らして、ハロルドとモーリスがゾーイにそう訴える。
今気付いたけれど、助手席にはジェームズが座ってた。
けど、顔色があまり良くはないような気が……いや、気のせいじゃないな。
あんな運転じゃ、誰でも気持ち悪くて吐きそうになるに決まってるな。
「あ、それと僕も行くから、コタロウと一回しっかり話し合おう! 今は怒りで我を忘れてるだろうけど、きちんと話せばわかる奴だよ!」
「そうよ、ゾーイ! いつまでも逃げ回ってはいられないだろうし……」
続いてレオと真由も、ゾーイのことを説得しようと話しかける。
けど、ゾーイはいつまで経っても自動車を下りてくる気配なんてなく、それどころか……
「は? 聞いてなかったの? あたしとジェームズは海に行くの。だから、今は悠長に話し合ってる暇はないの!」
「え? あ、ゾーイ……」
「じゃあ、時間がもったいないから行くね? バイバーイ!」
「まっ、ゾーイ、君は正気なのかあああああああああああああ!!!!」
誰一人の説得にも応じず、無茶苦茶な理由を言い出したゾーイ。
やがて、ゾーイとジェームズを乗せた赤い自動車は、また猛スピードで走り出してしまったのだ。
そして、ハロルドの絶叫が、虚しく響き渡っていた……
けど、全員が唖然としてしまって、まったく動けないでいる中、一番に動いたのは……
「……あの自動車、あいつがどこから持ってきたかわかるか」
「え……!? あ、うん! 案内する!」
まさかすぎる、アランだった。
急に話しかけられたレオは、ものすごく驚いていたようだが、すぐに頷いた。
***
「うわ、すごーい! 何だこりゃあ!」
ソニアが興奮したように、楽しそうにそう叫ぶ。
レオに連れられ、俺達は檻の奥に続く洞窟の中に来ていた。
そこはなかなか広い空間で、そこにはありとあらゆる自動車が揃っていた。
「大昔にご先祖様達が、人間を真似して乗っていたものらしいんだ。まあ、先々代ぐらいから動物達が怖がるからって理由で、あまり使わないようにしようって方針になって放置気味なんだけど……」
「これ、全部動くのか?」
「あ、燃料は満タンじゃないかもだけど全部入ってるよ! ここに置いて雨風に当たらないようにしていたから、傷んではいないと思うし」
様々な種類の自動車に見惚れている俺達と、無表情で質問を投げかけたアランにもレオは丁寧に説明してくれる。
確かに、あのクラクションとかいう大きな音とか、エンジン音とか、動物達はあまり好きではないだろう。
特にレオ達は、動物達をすごく大切にしてるっぽいから慕われてるし、自動車には縁がなかったんだろうな……
「……あいつは、確実にあの赤い自動車をここから盗んだんだろうな」
「あー、けど、ここをどうやって……まあ、ゾーイだもんね……?」
静かに吐き捨てた独り言ともとれるアランの言葉に対し、レオは少し訝しげな表情で頭をひねっていた。
けど、すぐに思い直したように、苦笑しながら納得していた。
うん、ゾーイだからで話が全部片付くのもどうかと思うけど……実際に答えがそれしかないから、しょうがないか。
「レオ! とりあえず、ここの全員で乗れるぐらいの自動車はないか? すぐに追いかけたいんだ!」
「あ、うん、わかった! 確か、あれはここら辺に……あった、こっちだよ!」
呆れている暇もなく、すぐにサトルはレオに問う。
それを受けて、レオは俺達をとある自動車の前に案内した。
「……あ、これバスか?」
そこには、空島での交通手段でもお馴染みのバスがあった。
地上から、空島に受け継がれてるものって結構あるんだよな。
俺がそんなことに感心してると……
「みんな~! やっと、見つけた!」
「モカ! こっちだ!」
モカが手を振ってそう大声を出して走りながら、俺達のところに向かって来るのが見えた。
それにいち早く反応したレオが、手を振ってモカを呼ぶ。
「はあ……も、もう捜したんだよ……!?」
「ごめん、モカ! けど、今はあまり時間がないんだ!」
「え? あ、それなんだけど……」
「モカ、話は走りながら聞く! とにかく、今は一刻も早く出発を……」
「どこに行く気だ」
突然響いた、モカでも、レオでも、他の誰かでもない声。
俺達はゆっくりと後ろを振り返る。
「お揃いで、どこに行くんだ」
「……コタロウ」
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