エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第三章-⑷ アランとシンとレオとモカ

救いと共存とは紙一重

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「お前に……何が、わかるんだ!!」


 我を忘れてしまった様子のアランはゾーイの首を絞め上げ、ゾーイの体を宙に浮かせた。


「アラン! お願いだから、やめろ!」
「ゾーイが死んじゃうよ……!! ねえ、アラン!」


 デルタが震える声で、続くようにソニアが涙をボロボロ流して、必死にアランへと叫ぶ。


「アラン! 頼むよ……お前のそんな姿見たくねえよ!」


 シンも涙ながらに、アランに叫ぶ。
 けど、今のアランには、そのどれもこれも全てが無駄のようだった。


「昴……飛び込めるか?」


 そんな時に震える俺の肩に手を置いて話しかけてきたのは、サトルだった。


「……緊急事態だ。やるしかねえよ」


 俺は深く息を吸ってから、しっかりとサトルの目を見てそう答えた。
 それに対し、サトルは口角を上げる。


「さすが。チャンスは一回だ」


 その言葉に頷いてから、俺達がアランにバレないように、ゆっくりと近付こうとしたその時、ある声が響いた。


「全員、ストップ!」


 その声を発したのは何と、アランに首を絞められているゾーイだった。


「ゾーイ!? あなたは、こんな時まで冗談なんか……!!」
「もし、一歩でも今立ってるその場所を動いたら、全員もれなく左側だけ刈り上げるからね!」


 悲鳴のような声で反論するクレアの言葉を遮り、さらにゾーイは叫ぶ。
 そう叫んだゾーイの目が本気で、俺達は気圧されるように動けなくなってしまったのだ。
 すると、その静まり返った空間にアランの声がよく響いてきた。


「誰が、誰が好き好んであんなクズな親父みたいになりたいと思うか! けど、あいつが何百人っている家の連中の生活を守ってんのは事実なんだ……それなのに、跡継ぎの俺が守れるのはせいぜい数えられる程度だ! だから、俺は、あのクソ親父みたいに、どこまでも残酷に汚くならなきゃいけねえんだよ!」


 そのアランの言葉に、俺はとても強く頭を殴られた感覚だった。
 俺はやっぱり、アランのことを本当に何一つ知らなかった。
 優しくなることの何が悪いのかと、呑気に思っていた自分を殴りたかった。
 育ちが違えば悩みもそれぞれ。
 誰かを守るために残酷になって、自分を殺さなきゃいけないなんて……何て狂った世界だろうか。
 アランがどんな顔かは俯いていて確認はできないけど、その肩は震えていた。


「まだまだ、あんたもガキね?」
「……グアッ!!」


 そんなアランに対し、ゾーイは腹に蹴りを入れ、すぐさま首を絞められていた両手の拘束を解いたかと思えば、一瞬で処刑台に沈めたのだった。
 鈍いけど、確かな音が響き渡った。


「油断大敵。裏社会じゃ、基礎中の基礎じゃないの? 若旦那さんよ」


 ゾーイはそう言い放つと、アランの顔の前にしゃがみこんで、見下ろす。
 アランはそんなゾーイに、舌打ちで返していた。
 本当にゾーイって何者なんだよ……
 すると、ゾーイはそのままの状態で話し始めたのだ。


「あんたは、こんな絶望的な経験した時点で残酷にはなれないわよ。食べることの有難さ、人の繋がりの大切さ、生きることの大変さ、そのことを何もかも全部知っちゃったんだから、もう無理よ」
「本当にムカつくな、お前って……」


 淡々と話していくゾーイに、またまたアランは無表情で諦めたように、空を見上げてため息をついた。


「けど、一人で背負い込んで一人で無茶苦茶になってる父親とあんたでは、決定的に違うことがあるじゃん!」
「は? 決定的に違うことだ?」


 けど、アランを横目に、ゾーイはまだ話を続けていく。
 そう言葉を発するゾーイに対し、アランは起き上がって怪訝な顔を向けた。
 そんなアランに今度はゾーイは笑顔を向け、そして言い放った。


「横に並んでくれる人間の存在よ」


 そう告げると、ゾーイはアランの目の前に、シン、デルタ、ソニアの背中を押して突き出した。
 すると、今度は処刑台から犬族と猫族達を見下ろすように、前に進み出る。


「犬族と猫族達! この青髪くん、こう見えて、家庭環境とか複雑で、ねじ曲がっちゃってんのよ! けど、仲間のためにシャレにならん殺気出したり、フルボッコにするぐらいには情に厚い奴なんだよね! しかも、この三人は一度もアランのことを疑わなかったの! そんなこともあって、こいつにも少しは好きになれる部分があると思うの! 少しそこのとこ含め、見張っといてくれない!?」


 そんな嫌味を言わなくても、アランのことを許してほしいって、そんな悪い奴じゃないからって……言えばいいのに。
 誰もわかっていなかったアランの本音を聞き出したことで、さらけ出させたことで、アランを孤独から救ったんだ。
 俺は何だか、心が温かくなっていた。
 ゾーイは、本当にどこまでも人を救う時は遠回しなんだね。


「話は戻るけど、あたし達人間のことは嫌ったままで構わないわ! けど、あたし達はあんた達全員と仲良くしたいと思ってる。それは覚えて! あと、今回のことを含めて謝るとか、誓いの言葉とかそんなこと言うつもりもない!」


 そんな君は、高らかに犬族と猫族達に宣言する。


「ただ、これからのあたし達人間のことを黙ってまっすぐ見て! その後で、答えを決めてくれたらいいから!」


 長い長い沈黙の後、一つ、また一つと乾いた音が聞こえる。
 そして、それらはやがて一つの大きな割れんばかりの、嵐のような拍手を森全体に響かせることになったのだ。


「ゾーイ? 出会った時からだけど、やっぱり、君はすごいね……」


 レオがゾーイの背中に向かって、涙をこらえたように震える声で呟いた。
 本当に……君の背中はまだ遠いな。
 無駄な言葉を並べるより、君の自信に満ち溢れたシンプルな言葉が、この先の俺達人類の未来を見据えた言葉が、犬族と猫族に響いたのだろう。
 犬族と猫族が人類を受け入れた、歴史的な瞬間だった。
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