エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第三章-⑷ アランとシンとレオとモカ

それがアンダーワールドです

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「ゾーイ！　早く！　もう、何をゆっくりしてるのよ！」
「ちょっ、真由ってば！　痛いよ！」
「当たり前でしょ!?　あなたは、首を絞められたのよ!?」
「いや、そうじゃなくて……」
「ほらほら、今のゾーイは黙って走るが正解だよ！」
「菜々美、待って！　え、うおっ!?」

　真由が腕を引っ張り、背中を橘さんが押し、ゾーイはそんな二人にされるがままの状態で走らされている。
　うん、いつもは振り回す側のゾーイだし、それは新鮮な光景だった。
　怪我とか病気のことになると、真由は人一倍うるさいからな……
　さすが、医療科ってやつなのかな。
　そんな三人の目的地は教会の医務室なわけで、俺達人類と、レオ、モカ、コタロウも走って追って行く。

「あー、アザになっちゃうかな……とりあえずは、冷やさないと！」
「氷、残り少ないけど、どうする？」
「この際しょうがないわね。菜々美、ありったけの氷を持って来て！」
「了解しました！　そこどいてー！」

　俺達が少しだけ遅れて医務室の扉を開くと、真由と橘さんはテキパキと右へ左へ動いている真っ最中。
　ちなみに、氷の出処はこの前のたった三十日の冬の間に降った雪だ。
　氷室や雪室と呼ばれる、洞窟に雪を蓄えておくという天然の保存方法で、今日まで雪を保存してきたのだ。
　それの発案者は、もちろん史学科のゾーイである。
　まあ、大切に使ってきた雪も、最後はゾーイのために使われるわけだね。

「冷たくて生き返るわ」
「何、呑気なこと言ってるのよ！」

　そして、話題の中心であるゾーイは真由に氷を首あてられながら、謎にリラックスしており、真由に怒られていた。
　本当に君って奴は、さっきまで拍手喝采を浴びていたカリスマ性は、どこに行っちゃったのさ。
　あの、処刑台からのレオ、モカ、コタロウの説得と、何と言ってもゾーイのスピーチによって、俺達人類と犬族と猫族達との間では和解が成立した。
　いや、俺達を本当に見定めるための試験期間を与えられたかな？
　何にしても、ここからいい方向にしか未来が動くことはないだろう。
　本当に、ゾーイは何者なんだろうなと何度目かもわからないことを思っていると……

「大げさだってば、こんなのあっという間に……けど、あたしこれでも女の子の端くれだし、もしも、跡が残ったらどうしてくれましょうかね～？」
「え、ゾーイ？　急に何を……」

　ゾーイは自分の話の途中で急な軌道修正をして、ニヤリと笑う。
　その様子に、その場の全員が今度は何を始めるんだと、一瞬でざわつく。
　思わず、真由がゾーイに聞き返そうとしていたけど、君の視線の先を確認すると言葉を止める。
　不思議に思って、俺も確認すると、納得と同時に苦笑いがこぼれていた。

「ねえ？　アランく～ん？」
「はあ……」

　ゾーイはそれはそれは楽しそうに、視線の先の人物、アランの名前を呼ぶ。
　呼ばれた本人は、面倒だけどばつが悪そうな顔で、ゾーイの前に歩いて来る。

「……好きにしろ。思う存分殴れ」

　すると、アランはゾーイと絶対に目を合わせずに、そう告げた。

「アラン!?　いや、それは結構やめることをおすすめするぞ!?」
「シン、口出すな。俺のケジメだ」

　すかさず、シンがアランに対して、ゾーイの顔色を伺いながら、訴える。
　そのシンの気持ちは、すごくわかる。
　ゾーイって本当に時々なんだけど、その時々で繰り出されるよくわからない技とか、蹴りとか、本当にめちゃくちゃ痛そうなんだもん。
　けど、そんなシンの忠告をアランは突っぱねて、ゾーイに向き直る。
　そのアランに、何かまだ言いたそうなシンは黙り込んでしまう……大丈夫か？

「謝るって選択肢はないの？」
「頭下げるなら、殴られた方がマシだ」

　そんなアランに、ゾーイはものすごく呆れたように吐き捨てる。
　アランはそれでも曲げなかった。

「裏社会の根性論ね……わかった。それじゃ、ご遠慮なく！　アラン、そこに座って！」

　その言葉に、アランは大人しくゾーイの目の前に座る。
　すると、ゾーイは立ち上がり……あれは間違いなく蹴りの練習だ。
　え？　これ大丈夫？　アラン、割に合ってるのか？
　まあ確かにね？　結構な感じの力で首を絞め上げられてたから、ゾーイの首は真っ赤だけど……本当に大丈夫？

「歯食いしばりなよ？」

　やがて、ゾーイはアランにそう告げると、アランは静かに頷く。
　アランはもう覚悟を決めたのか目を閉じてるけど、見てる俺達の方がまったく覚悟決まってないんだけど！

「え、ゾーイ、ちょっと待って！」
「待たん！　それ、せーの！」

　クレアの制止の声を突っぱねて、ゾーイは謎のかけ声を上げる。
　その声に反応し、俺は反射的に目を閉じてしまった。

「お前……何のつもりだ」

　けど、しばらくの沈黙の後で、珍しくアランの戸惑ったような声が聞こえる。
　え？　何が起こったんだ？
　その声の意味を知るために、俺が恐る恐る目を開ければ……

「これでチャラよ！」

　楽しそうなゾーイが、アランのことを優しく撫でていたのだった。

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