エリート希望者の地球再生記

第三章-⑷ アランとシンとレオとモカ

驚き桃の木プロポーズ

「え？　何これ？」


　思わず声を漏らした俺に、みんなも首を傾げて視線を向ける。


「理解が追いつかねえ……」
「望、大丈夫。大抵の人間がそうよ」


　俺の隣で望と真由が、心底疲れ果てたとばかりにそう呟いていた。


「何の真似だ」


　混乱しているのか、はたまた意味を考えているのか……
　アランはいまだ無表情で座ったままの状態で、ゾーイから変わらずにずっと頭を撫でられている。
　ゾーイもゾーイで、わしゃわしゃとアランの頭を撫でる。
　その目の前の光景に気を抜いたら吹き出しそうになるけど、ここでそんなことをやろうものなら何かが終わる。
　え？　ゾーイはアランを蹴ろうと……
　もしかしてだけど、そう思っている時点で間違ってる？
　そんな状態で俺の頭の中がパニックに陥っていると……


「わからないの？　これで、あんたはケジメつけられないでしょ？」
「は？」


　ゾーイがどこか得意げに、アランのことを見下ろしながら言い放った。
　そんなゾーイに、さすがのアランも取り繕う暇もなく、純粋に声が漏れる。
　それに続けるように、さらにゾーイは言葉をまくし立てた。


「殴るか蹴るか、それがあんたにとってはケジメなんでしょ？　そんな簡単にスッキリさせるかってのよ！　結構苦しかったのよ？　アラン・ロジャー。ずっとあたしに頭が上がらないまま、一生こき使ってやるから！　バーカ、アーホ！」


　本気か冗談かわからないけど、ゾーイはアランにそう悪態をつく。
　とても楽しそうに……そっか。


「本当に性格、ねじ曲がってるよな」
「けど、そんなとこも含めて、ゾーイは人を惹きつけるんだと思うな……」


　後ろで、コタロウがしょうがないなと笑いながら、その隣でしみじみとジェームズがゾーイを見ながら告げる。
　まあ、こんなに何回も君の遠回しの優しさを見てるとわかるよ。
　アランは、今までずっと王国の改革作業を手伝ってこなかった。
　それに合わせて、アランのとても誤解されやすい性格もとなると、今からだと犬族と猫族だけではなく、俺達人間側の輪にすら入りずらいだろう。
　そこでゾーイは、アランに自分にこき使われてるってことを言い訳にして、早く認めてもらえるように頑張れ……
　さっきのゾーイの言葉には、そんな意味が込められてるような気がした。
　まあ、もしかしたら、他も思惑があるのかもだけど……今の俺達には、それを理解することが精一杯かな？
　けど、言葉をぶつけられた張本人のアランはひどく面食らったようで……


「……お前って本当に面倒だな」
「はあ？　あんたにだけは、その言葉は言われたくないんだけど!?」
「フッ、それもそうか……」


　目をぱちくりさせたまま、ゾーイに向き合って、そう告げる。
　それを聞いたゾーイは案の定叫ぶ。
　まあ、ここまでは想定通りと言えば想定通りだった。
　けど、次の瞬間にアランによって、その想定は覆されることになる……


「え……マジか、よ……!?」
「アラン……!!」


　デルタは驚き声も出ず、ソニアはほぼ泣きそうだった。


「お前……笑うの、何年ぶりだよ……」


　シンは全身の力が抜けたように、へたり込みながらその場で力なく笑った。
　そう、笑ったのだ……
　あのアランが、心からすごく穏やかに笑ったのだ。
　出会ってからずっと、こう言ってはあれだけど、無表情か、睨むか、そんな表情しか見たことがなかったから……
　シンプルに俺は、びっくりしていた。
　というか、長い付き合いのシンが腰抜けるほどって、本当にどれだけアランは笑ってなかったんだよ……


「マジ？　あんた笑えたの？　とっくの昔に表情筋死んでんのかと思ってたわ」


　そして、多分というか、絶対、アランの笑顔の理由はゾーイなんだけど……
　その張本人の君は、いつ何時だって変わらないんだね……安心するけどさ。


「なあ……？」
「え、何、どうした？」


　すると、アランは先ほどの穏やかな表情からは一変して、ニヤリと何かを企むような顔で、ゾーイに近付く。
　少なからず驚くゾーイにアランは……


「その首のアザが消えなかったら、俺が責任とって嫁にもらってやるよ」


　その場の時が止まったなんて、そんなことは言うまでもないだろう。


「はあああああ!?　おまっ、横から何をしゃしゃり出てくれてんだ!!」
「え？　アラン……それ、待っ、うわあ最悪だ、マジかよ。ええ……？」


　そして、一瞬にして大爆発、それも言うまでもないだろう。
　特に望は顔を真っ赤にしてアランの胸ぐらを掴み、デルタは絶望していた。


「は？　あたしにも選ぶ権利あるけど」


　まあ、ただ一人冷静だったのは、当事者のはずの君だけだね……