エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第三章-⑸ クレアとハロルド

君は眠れぬ森の悪魔かな

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 ゾーイが命名の、アランの犬猫虐待事件から……うん、この名前やめよう。
 あのいざこざから、早くも二か月が過ぎようとしていた。
 この二か月間で俺達の状況はいろんなことが、変化していった。
 まず始めに、事の発端であるフウタを始めとした六人の犬族と猫族は、自ら王国を出て行った。
 レオ達が本当に長い時間をかけて説得を試みていたけど、一度失った信頼は簡単に取り戻せるものではなく、そこに関しては後味の悪い結果となった。
 けど、そのことを除けばいい変化ばかりだったと思う、過程がどうであれ……
 

「二か月で電気開通とか、人間のやることじゃねえ……普通に嫌がらせだろ」
「人聞きが悪いわね? あたしは、夏の暑さに立ち向かうために間に合わせようとしただけよ。それとも何よ、熱中症で茹でダコになりたかった?」


 アランはこれでもかと引きつった顔でゾーイにそう吐き捨てるが、ゾーイはどこ吹く風という具合だ。
 若干の寒気を覚えた俺は、音を立てぬように二人の近くから離れた……
 そう、俺達は毎度のごとくゾーイの無茶ぶりという名の脅しによって、たった二か月間で王国全体への電気の開通を余儀なくされた。
 あの一件から心を入れ替えて、俺達に歩み寄ってくれたアランは、何を隠そう機械工学科で優秀な成績だったようで。
 シン曰く、本気を出せば自分を抜いてトップになれるほどだったとのこと……
 そんなアランが正式な仲間に加わってゾーイが最初に動いたことは、前々から言っていた電気開通の件だった。
 しかも、春が終わり、長い夏が始まるというタイミングだったこともあり、クーラーなしでは耐えられないというゾーイのお達しからで……


「こだわりにこだわり抜いたから、この景色があることはわかるけど……」
「達成感ってこういう感情なのね……」


 レオとモカが、今にも倒れそうな顔でそう隣で呟き、遠い目をしている。
 とにかく、電気開通の話が本格的に動き出してからの日々は地獄だった。
 まず言うと、俺達は三週間満足に睡眠をとっていないのである。
 そもそもの始まりは、犬族と猫族が地上時代のような電柱を建てるのは嫌だと言い出したことだ。
 確かに、電柱を建てれば今のありのままの景色は損なわれてしまうし、その意見には俺達人類も同意した。
 そこで、建築学科のサトルと機械工学科のアランが提案したのは、電線を地中に埋めるということだった。
 それと同時に、自然に負荷がない水力発電にしたらどうかと……
 それを聞いたゾーイが地上時代も無電柱化という計画が進行していたと言い出し、可能だとわかるとその方向で話が進むようになった。
 けど、唯一の問題はそのために莫大な時間がかかるということ。
 土を掘り、道路を舗装して、とにかく夏には間に合わないだろうと……
 まあ、そんなことをゾーイが素直に同意することもなく……


「心が折れて、ちょっとやそっとじゃ負ける奴が減ったことだけが、ゾーイに感謝する理由だな……ハハッ」


 あんなにたくましかったコタロウがゲッソリした顔で、不気味に笑う。
 俺は見てはいけないような気がして目を逸らした。
 ゾーイは目的を達成するために、手段を選ばなかった……
 電線、重機など、その他の電気工事に必要なものを三日で集めさせ、それをアランとシンを中心に犬族と猫族にも手伝わせて四日で全て修理、水力発電所の設置、電線の回路の配線図の作成、王国全体の道路舗装に十日、ここまでで十七日というハイスピード。
 そこからは永遠に朝も昼も夜も土を掘って地中に電線を埋めて、全部の家に電気が通るように配線する……
 夜の作業の時に火事かと思うほどの火を焚いたのは、懐かしさすらある。
 そんなことが続いて、俺達の三週間まともに寝ていない現状にいたるわけだ。


「本当にケガ人が一人もいないことが信じられないよ……」
「そこはほら、ゾーイが隅々まで本当に目を光らせていたしね?」
「実は、特殊な能力でも持ってんじゃねえのか……この徹底管理は、人間のそれじゃねえだろ。悪魔か何かだ……」


 俺の絞り出すような声に、レオとコタロウが疲れたように答えてくれた。
 本当に、コタロウの言う通りにゾーイには常識では考えられないような能力が備わっているんじゃないだろうか……
 だって、こんなめちゃくちゃなハードスケジュールだったにも関わらず、今回の電気開通工事でケガをした者はいなかったのだ。
 それも、全部ゾーイのおかげだ……
 ゾーイは電気開通工事が始まると、自分のいないとこで決して作業をさせなかった。
 常に四方八方に目を光らせて、寝てる奴にはまた寝たら目に電線をぶっ刺すと言って叩き起こし……
 逆に本当に体調が悪そうな奴には強制的に作業を中断させ、鉄拳を落として気絶させて眠らせていた。
 本当に無理な奴には無理をさせず、逆に言えば本当の限界に達しなければ休むことを許されない労働環境。


「生きるって大変だね、本当に……」


 主にゾーイと生きるのがという最後の言葉は呑み込んだけど、きっと全員が同じ考えだったと思う。
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