エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第三章-⑸ クレアとハロルド

ラブイズザファーストウィン

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 アランのその言葉に、俺はすぐさまアランの方を振り向く。
 全員の視線が一瞬のうちにアランに集中した。
 しかし、振り向いた時のアランは無表情で……え? 今ってどういう感情?


「は? ほれ、惚れた?」
「……誰が誰に?」
「そういうことだ。お前らの手にあの女は負えないだろうから、諦めろ」


 それでもアランは、混乱真っ只中な望とデルタのことを置きざりにして、無表情で二人にさらに言い放つ。
 俺はあまりの展開に声が出ずに……これっていい展開じゃないよな?
 他のみんなも三人の様子を伺うように無言を貫いていた。


「……フッ、今のは冗談だ。人の恋路を邪魔するなんて真似はしねえさ」


 けど、その静寂を破ったのはどこか皮肉な笑みを浮かべたアランだった。
 え? もしかしなくても、アランこの状況を楽しんでる?
 思わず、シンの方を見ると目が合って苦笑いを返された……あ、やっぱりね。


「……お前、本気なのか?」
「最近の俺を見てそう思ったから、今話してるんだろ」


 恐る恐る威嚇のように問いかけた望に対し、アランは淡々と答える。


「アラン……」
「デルタ、こればっかりは悪いな」
「……誰も悪くないだろ」

 
 その答えを聞いてデルタがアランのことを小さく呼んだ声に対して、アランはデルタの方を一切向かずに謝った。
 そんな気まずそうにするアランにため息をつきながら、デルタは呟く。
 そんな三人を見て、前の俺なら誰を応援するのかなんてことを考えていた。
 多分それは他のみんなも同じで、今の俺達はお互いに情が移りすぎてしまっており、以前のような無関心な関係にはここまでくると戻れないと思う。
 故に、今回のことも、どうにかしてあげたくても、こっちを立てるとあっちが立たず、協力なんてどうやってもできる状態じゃなかった。
 そんな恋特有の残酷さをもどかしく思っていた時……


「アラン!!」


 突然立ち上がったハロルドが、大声でアランの名前を叫んだのだ。


「何だ、ハロルド」
「あ、えっと、その何というか……」


 答えたアランに対して、何だかはっきりしない怯えた態度をとるハロルド。
 けど、それはアランが怖いからという理由ではない気がした……
 そして、ハロルドはチラチラと視線を女子部屋に向かう方の扉に向けている。
 あ、もしかして、ハロルドは……


「……少しふざけすぎたな。けど、全員大切な仲間だ。それだけは変わらないだろうな」
「あ、いや、アラン……」


 すると、アランは先ほどまでの皮肉な笑顔や無表情とは打って変わり、薄く笑ってハロルドに答える。
 そんなアランに戸惑う、ハロルド。


「けど、その仲間の中でも特別な奴ができちまったってことだ。ハロルド」


 しかし、続くアランの言葉と、誤魔化しのきかないような、ハロルドへのその視線に、全員が息を呑んだ。


「……そうだな。人の気持ちというのは簡単ではないものな……」


 それを聞いたハロルドは、何だか泣きそうな顔でまた女子部屋への扉を見る。
 ハロルドが見つめてる扉は、さっきクレアが怒って出て行ったもの。
 やっぱりそうだ、ハロルドはアランにクレアのことをどう思っているのか、聞こうとしていたのだろう。
 そして、それをアランも察して、遠回しにハロルドに伝えたってか……


「……今まで手に入れたものは、全てが家の利益になると思ってのものばかりだったが、初めて思った。何かを本気で自分だけのものにしたいってな」


 そして、切なそうに、けど、嬉しそうに呟くアランに、俺は不覚にも胸が締め付けられた。
 きっと、他のみんなも俺と同じような気持ちなのか、アランを見守るような視線を送っている。
 望とデルタは複雑そうだったけど……


「何ならここにいるほとんど全員、多かれ少なかれ思うだろ。前しか見てねえ得体の知れないあの女を、自分に振り向かせてみたいって」


 そんな俺達に気付いたアランは、居心地が悪そうにしながらも、話を続ける。
 そして、そのアランの言葉は今の俺にはすごく響くものだった。
 突然、俺達の前に現れた誰より輝く誰より遠くにいる、ゾーイという少女。
 闇夜に現れて一瞬で消えてしまう流れ星みたいな、そんな君。


「人の心ってのは、いつでもどこでも移り変わりが激しいが、少なくとも今の俺は、ゾーイ・エマーソンって奴に死ぬほど惚れてる」


 アランはまるで挑発するように、望とデルタのことを見て笑う。


「そうか……お前が、本気になれるものを見つけてくれて嬉しいよ。そういうことなら、本気で答えなきゃな……俺もゾーイのことが、大好きだ。あいつの隣に立ちたいって思ってる」


 それに答えるように、それでいて覚悟を決めたようにデルタが笑う。


「……舐めんな。こっちは、好きすぎてとっくに限界なんか超えてんだよ」


 さらにデルタに続くように、喧嘩腰だけど、性格から逃げ出したいと思ってるにも関わらず、望は初めて自分の素直な気持ち吐き出す。
 君を手に入れようとする、無謀な男が三人立ち上がったよ。
 アランだけじゃなく、望もデルタも本当に変わった、その三人の覚悟を見て、俺は何事も起こらなければいいと強く祈っていた……
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