エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第三章-⑸ クレアとハロルド

神を騙すは最大の罪か

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「あれ? もぬけの殻なんだけど」
「まあ、ここじゃなくて、他の場所の掃除でもしてるんだろうよ」


 少しして礼拝堂に入って来たのは、予想通りのゾーイとアラン。
 ゾーイがもぬけの殻だって言うのであれば、俺達の姿は目で認識してないってことだよな?
 隠れるの、ここ最近で何度目だよ……
 俺は身を低くして、椅子の間から向き合っている二人を見つめる。
 隣ではクレアとハロルドも、二人のことを凝視している。
 というより、よりにもよって、何で教会なんかにあの二人は来たんだ?


「神様に懺悔することでもあるの?」


 けど、俺の疑問とゾーイも同じことを思っていたようで、アランにそう質問をしていた。


「は? どうして、懺悔だ?」
「まさかとは思うけど、自分のその面が教会に似合ってると思ってるわけ?」


 ゾーイは、アランに対して心底意外だとでも言いたげな表情でそう告げた。
 一方で、ゾーイの言葉に隣のハロルドは一瞬のうちに真っ青になる。
 俺も思わず、動けなくなってしまう。
 ねえ、本当にさ……ゾーイ、もっと絶対に他の返事があったって!


「お前、遠慮とか配慮って言葉の意味は知ってるのか?」
「ざっくりと言ったら、他人への言動をオブラートに包む的なことでしょ? それがどうかした?」
「……懺悔するべきはお前の方だろ」


 盛大に嫌味のつもりで言ったであろうそのアランの言葉に対して、ゾーイは気付いてないのか、聞いてないのか定かではないが、質問に質問で返す。
 そんなゾーイにアランは疲れたように目を逸らして、大きなため息とともに吐き捨てた。
 今なら、アランの気持ちがよくわかる気がするよ……うん。
 わかった上で一切悪びれる様子さえなくそんなこと言われちゃうと、もうあとは何も言えないよね……


「はあ……そもそも、俺が懺悔のためにここに来たんだとしたら、何のためにお前を連れて来たんだ」
「それは、一人じゃ怖かったとか?」
「どんな奴だ、それは」
「あー、髪が青くて長くて、人相は十代とは思えないほどの悪さで……」
「俺は違う」
「え? 驚きだわ。人相悪いって自覚があったの? あ、もしかして、コンプレックス? そうか、ごめんよ」
「違う。何もかもが違う。とにかく、お前は一回黙れ」


 通常運転で話を聞かないゾーイが突き進んで行く一方で、このままではきっと一生話が噛み合わないと思ったのか、アランは強制的にゾーイを止めた。
 まるで、漫才を見ているかのような光景に俺とハロルドは笑いをこらえるのに必死だ。
 とにかく、そのやり取りはひたすらにアランが気の毒になるものだった……


「神の前でだったら、お前も嘘はつきにくいだろうと思ってな」


 しかし、そのアランの言葉に、その場の空気は一瞬で変わることになる。
 特に、それまでは特に反応を示さなかったクレアの纏っている空気が、一瞬にして変わったのは気のせいじゃなかったと思う。
 アランは、礼拝堂に飾られている犬族と猫族が神だと敬愛する大きな絵を見上げて、一歩踏み出しながらそう告げた。
 背中を向けているため、今のアランがどんな表情をしてるかはわからない。


「は? 何その、臭いセリフ?」
「……俺じゃなかったら、お前は今確実に敵を作ったからな?」


 そんな緊張感漂う中で、告げられた張本人のゾーイはいつも通りだった。
 容赦も遠慮もない怪訝な顔をゾーイはアランに向ける。
 どうして、この空気でそんな顔とその言葉が出てくるのか、多分俺みたいな凡人には一生わからないと……いや、大抵の人間がわからないだろうな。
 最早、考えるのはやめよう、無駄だ。
 そんな怪訝な顔のゾーイに、アランは呆れたような言葉を吐きながら、ゾーイに振り返った。
 けど、俺はその振り返ったアランの顔を見た時、時が止まったかと思った。


「……お前さ、これまで生きてきて、恋ってのをしたことあるか」

 
 とても切なげに、いつもより低い声で紡がれた言葉。
 それを告げた顔は真剣そのもの。
 男の俺でさえ、アランの顔を見てると息が止まってしまいそうだった。
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