エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第三章-⑸ クレアとハロルド

恋が楽しいことばかりならね

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 けど、今は固まってる場合ではないと思い直し、俺はふと我に返る。
 というか、この流れって、ちょっとクレアには良くないんじゃないか……
 そんなことを思って俺がクレアの顔を覗き込むと、今にも泣きそうな、まるで見てはいけないものを見ている気分になって、俺は目を逸らした。
 とても、見てはいられなかった……


「……それ聞いてなんか、あんたに得があるわけ?」
「あるんだよ。これがな?」
「ほう。その心は?」


 そして、その俺の心配は正解だった。


「俺がお前のことを好きだからだって言ったら、お前はどうする?」


 その時に俺は情けないけどクレアの顔を見ることができず、ずっとアランのことを見ていた。
 アランは、ゾーイに面白おかしく、探っているような、まるでからかうような口調でそう言った。
 

「え、何? あたしのこと好きなの?」


 思わず、俺は声が溢れ出そうになってしまった。
 そりゃそうだろ、そんな照れもせずに真顔で聞き返す人間がいるだろうか。
 まあ、俺の目の前にゾーイっていう例外がいたわけだけど……
 しかし、自分よりも隣のハロルドが動揺をしており、俺は逆に冷静になる。
 そして、今にも大声を上げそうだったハロルドの口を、俺は手で覆った。
 そんな攻防を密かに繰り広げている時に、またもや急展開を迎える。
 

「逃げねえのかよ」
「あらま、逃げてほしいの? てっきりこのままキスでもするのかと」


 そんな会話すら、今の俺にはキャパオーバーだった。
 アランは真顔のゾーイの腰を、素早く抱き寄せたかと思えば、さらにアランはキスをしてしまいそうなほど、ゾーイに自分の顔を近付けた。
 けど、ゾーイはこれまた真顔で淡々と答えていて……


「……してくれんのか?」
「フッ、ご機嫌で何よりだわね?」


 そんなゾーイに、アランは珍しくかなり驚いてるようでそれを誤魔化そうと平然を装っている。
 けど、一方でゾーイはまるで挑発するような笑顔をアランに向ける。
 どういう精神状態なの!? もう理解不能だよ、これ!?


「フンン……ンンンン……!!」
「え? あ……ごめん、ハロルド!」


 そう思っていると、俺の腕の中で急にハロルドが叫び出した。
 何だと思ったが、事態に気付いて俺は慌てて、ハロルドの口を覆っていた自分の手を外した。
 どうやら、目の前の何とも言えない状況に動揺して、知らず知らずのうちに俺はハロルドの口を覆う手に、力が入ってしまっていたようだ。


「はあ……す、昴くん……? 危うく、窒息するのではと思ったぞ……」
「マジでごめんな!?」
「二人とも!? 静かに……!!」


 本当に申し訳ないことに肩で息をするハロルドに、俺は必死に謝る。
 そんな俺達のやり取りを焦ったように注意するクレアだが、もう遅かった。


「ところで、そこの三人も盗み聞きとはド派手に趣味悪いわよね?」


 ゾーイが俺の目の前に立って、笑顔でそう告げていたのだから。


「ゾーイ!?!?」
「あ、ああああ、あの……これ、これこれこれは! えっと、そのだな!?」


 びっくりして、思わずゾーイの名前を叫んだ俺の隣では、ハロルドが真っ青を通り越して、紫な顔をしてる。
 そして、ゾーイと後ろのアランのことを見比べては、一人で限界を突破しようとしていた。
 けど、そんな風に四苦八苦な俺達にはお構いなしで、アランはとある人物に話しかけた。


「まあ、優等生だとしても、たまには悪事の一つや二つはしたいよな?」


 まっすぐ、アランの持つ紫の瞳が射抜くように見つめる先には……


「息抜きできたか? クレア」


 アランの言葉に絶望した、傷ついた表情をしたクレアがいた。


「わ、私……ご、ごめん……なさ……!!」
「ちょっ、クレア!? 待ってくれ!」


 クレアは今にも目から涙が零れそうな状態で、早口で謝罪の言葉を告げ、そのまま礼拝堂を飛び出した。
 そんなクレアのことを、ハロルドが名前を叫びながら追いかけて行った。
 え? 待ってくれ、今何が……?
 状況の整理ができず、アランの顔もまともに見ることができない俺。
 そんな俺とは対照的に、君はいつも自由だった。


「あんた、知ってたでしょ?」


 質問をしてるはずなのに、どこか確信めいたような口調。
 俺は、そのゾーイの言葉に、恐る恐るアランに振り返る。


「知ってて、あたしに迫ったでしょ?」
「……さあな」


 ゾーイの次の言葉はさらに強い口調だったが、いつも通りの淡々とした感じは変わらない。
 そんなゾーイの言葉に、アランはこれまた顔色一つ変えずにボソリと呟く。
 それが、俺には答えに思えた。
 アランはわざと、クレアにゾーイに迫ってるところを見せて、傷つけたのだ。


「本当、罪な男でございますわね?」


 そのゾーイの、からかうような口調でさえ、俺には重くのしかかった。
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