エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

文字の大きさ
126 / 257
第三章-⑸ クレアとハロルド

遭遇率的に俺は呪われてる

しおりを挟む
「アラン、どうして……? 私は本当にあなたのことを……!!」
「クレア? 今、俺が困ってること、お前ならわかるだろ?」
「……そうよ、ね……わかったわ」


 震える声を絞り出しながらアランに残してから、クレアは俺の目の前を猛スピードで走り去って行った。


「……また、お前か」
「いや、アラン! ごめん! 今回は本当に立ち聞きする気は……!!」


 俺は夜中にトイレに起きたことを、これほどまでに後悔したことはなかった。
 そのトイレの帰りに、俺は廊下の奥で誰かの言い争うような声が聞こえた。
 深刻そうなら止めなければと、変な正義感が湧き上がり見に行ってみると、そこにいたのがクレアとアラン。
 正体に気付いて、これはまずいと場を去ろうとしたまさにその時に、クレアはアランにおそらく振られ、そのクレアが走り去る姿を見送り、まんまと隠れてたとこをアランに見つかって詰められてる今にいたる……というわけだ。
 何で、ここ最近ずっとこんな場面に出くわすんだよ、不可抗力だ!


「まあ、お前の焦りようで、嘘か本当かはわかる。別に怒ってもいないしな」
「え? ありがとう! 本当に、本当に重ね重ねごめん!」


 もういっその事、土下座でもしようかと思ってた時に、アランのため息混じりのそんな声が聞こえる。
 そして、俺は安堵と同時に、改めてアラン頭を下げた。
 本当に、アランが丸くなってくれて嬉しいことこの上ないな!


「それで、何か質問があるか?」


 しかし、そんな安心もつかの間で、アランは俺が今一番聞きたくて、一番聞きにくいことを指すだろうその質問を淡々と投げかけてきた。
 思わず、固まった俺だけど、何だかこのまま首を振るのも違う気がした。
 そう、違う気がしたから、俺は思い切ってアランに聞いてみることにした。


「あの……誤解はしないでくれ。全部を聞いてたわけじゃないんだ」
「そうか。まあ、そうだとしても、空気的に何が起こったかはわかるだろ?」
「まあ、おそらくね……アラン、君はクレアを……」


 どうにか直接的な表現を使わず、何があったかのを聞こうとした俺は、きっとゾーイからしたら、回りくどくて器が小さい人間だと言われるだろう。
 ああ、その光景が鮮明に浮かぶよ……
 それでも、俺にはこんなやり方しかできないだろうから、せめてゆっくり自分のペースでと思ったのに……


「はっきりしないで、ズルズルと期待を持たせるのは優しさじゃない」
「え?」


 サラッとアラン本人によって、そのペースは乱されることになった。
 そして、思わず、聞き返した俺だったけど……


「俺は、それをクソ親父に期待する母親の背中で学んだ」


 俺を見ず、宙を睨むそのアランの、憎しみと悲しみに満ちた顔を見たら、俺は一歩も動けず、話すことすらできなくなってしまった。
 どんな環境で育てば、まだ未成年の少年がこんな顔をできるのか……何て、残酷なのかと、俺は胸が締め付けられた。


「つまらないことを話したな?」
「あ、いや……」
「昴? 寝る前に、一つだけ頼まれてくれないか?」
「え……うん、俺にできるなら……」


 俺の空気を察したか、自分の言葉を後悔したか、アランは表情を変えて、俺に頼みがあると伺うように、珍しくどこか慎重に問いかけてきた。
 そんなアランらしくない態度に少し疑問に思いながらも、俺は頷く。


「……クレアを、捜してくれないか?」
「うん、わかった……え?」
「それで、話でも聞いてくれ」


 申し訳なさそうに、アランは俺のことを見つめた。
 自分にはその資格はないからと……訴えが聞こえてくるようで、俺はうんと頷くしかなかった。
 その時に俺は初めて、気持ちを受け取ってもらえない人間だけでなく、気持ちを受け取ることができない人間も、すごく傷つくのだと、思い知った。


 ***


 俺はアランと別れて、約束した通りにクレアのことを捜した。
 談話室、キッチン、家の周りを本当にくまなく捜し、最後の砦となった屋上に向かう。
 そして、階段を駆け上り、扉に手をかけようとした瞬間に……


「お願いだから、もう放っておいて!」


 乱暴にバンッと扉が開かれ、そこには目当ての人物が立っていた。
 まさかの俺の登場に、クレアはひどく驚いたようで、気まずそうに俺から目を逸らした。


「クレア……!! 少し、話を……」

 
 けど、後ろから聞こえてきた声にハッとしてから、クレアは俺を一回見てそのまま階段を駆け下りて行ってしまった。
 状況についていけてない俺は、とりあえず聞こえた聞き覚えのある声の主を闇の中で捜す。


「そこにいるの、ハロルドか?」
「む? もしや、昴くんか!?」
「あ、うん」
「なぜ、君がこんなとこにいるんだ!?」


 闇の中でもわかるハロルドの驚きっぷりは、一周回って安心するものがある。
 そう思って、ハロルドの質問にそれはお互い様だと返そうとした時、やけに響く声が闇を照らす。


「まったく、最近の我らがリーダーはご立腹ね?」


 雲に隠れていた月が顔を出し、その月明かりとともに俺達の目の前に現れたのは、ゾーイだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...