エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第三章-⑸ クレアとハロルド

黙ってたら君は月より綺麗だ

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 闇に浮かぶ月が照らす君は、まるでこの世のものとは思えないほどに、俺には眩しくて、美しかった――


「ぞ、ゾーイ!? なぜ、君までこんな遅くに屋上にいるんだ!? というか、どのタイミングで入って来たんだ!?」
「は? 何言ってんの? 最初に屋上に来たのは、あたし。そっちがやかましく喚きながら入って来たかと思えば、暗闇のあたしに気付かずに勝手に言い争いを始めたんでしょ?」
「ええ!? そ、そうだったのか……!?」
「おかげで、満月見ながら一杯やろうと思ってたあたしの計画が、大幅に狂うことになった……不愉快の極みね?」
「あ、それはその……!! 本当に、本当に申し訳なかった!」
「じゃあ、謝る気あるなら、あたしに時間返して? 今回は出血大サービスで三十分にまけてあげる。ほら、今返せ」
「そんなの無理に決まっているだろ!?」
「諦めるわけ? 人間は何事も、諦めなければ道は開くのよ?」
「本来はそうだが、今この状況にその名言は当てはまらないと思うんだが!?」


 まあ、ハロルドへの暴言であっという間にいつものゾーイに逆戻りだけど……
 てか、今めっちゃ聞き捨てならないことが聞こえなかったか!?


「ゾーイ……? 気のせいだと思うんだけど、今一杯やるとか何とか……」
「ハッ! そ、そうだぞ! ゾーイ、まさかとは思うが、こんなとこで隠れて飲酒をしていたんじゃないだろうな!?」


 俺の恐る恐るの問いかけに続き、ゾーイのペースに翻弄されてたハロルドが気を取り直してから、逆にゾーイを問い詰めた。
 まさかとは思うけど……いや、ゾーイにとって空島の法律なんて、地上ではあってないようなものだしな……
 そんなことを考えていた時だった。


「そうだったら、二人はどうするよ?」


 ゾーイは、俺達の目を見てまっすぐと無表情でそう問うた。
 そして、案の定俺とハロルドは、何かを言い返すこともできず、固まってしまった……その時。


「あっはははは! ははっ、二人揃って最高すぎ……あー、お腹痛すぎ!」


 ゾーイは急に吹き出し、お腹を抱えて爆笑し出す。
 その光景で、ようやくゾーイが俺達のことをからかっていただけなのだとわかったのだ。


「ゾーイ! 君は、なぜにそんな紛らわしいことをするんだ!?」
「え? 楽しいからだけど?」
「そんなはっきり、断言しないでくれると嬉しいのだが!?」
「てか、バカ? このあたしが、そんなダサいことするわけないでしょ?」


 ハロルドからの悲痛な叫びに、ゾーイは悪びれもなくそう答える。
 まあ、確かに、ゾーイってやり方は無茶苦茶だけど、曲がったことは大嫌いだし、正しいことしかやらないか……無茶苦茶だけど。


「一杯って、これのこと。あ、二人も飲む?」


 そう言ってゾーイがバスケットから取り出したのは、瓶が一つ。


「これ、何?」
「モカ特製りんごジュース、小分けバージョンである」


 俺の質問に対して、ゾーイは少しふざけたようにそう答えた。


「あ、そういや、夕飯にゾーイの姿が見えないなとは思っていたが……」
「そう。あたし、今日はレオ、モカ、コタロウと晩ご飯を食べてたのよね」


 ハロルドに返事をしながら、ゾーイは俺達に、モカ特製のりんごジュースの瓶を渡していく。
 それを、俺達も有難く受け取り、俺はさっそく一口飲み込む。
 りんごの蜜のほど良い酸味と甘さが混ざり合って、口の中に広がる。
 これが人工物じゃなく、自然の中で育って採れたてのりんごで作った、正真正銘の果汁百パーセントの味……空島だとこうはいかないもんな。


「今日は満月で明るいし、星が綺麗で空は高いし。最高だと思わない?」


 ゾーイは屋上の床に座り、満天の夜空を見上げながらそう言う。
 俺とハロルドも顔を見合わせ、ゾーイと同じように最高のりんごジュースを片手に空を見上げる。
 そこからは、たわいのない話で、たくさん笑った。
 この三人って結構珍しい組み合わせだとは思うけど、そんなことが気になることもないくらいに俺達の話は弾んだ。


「ところでさ、何でハロルドはクレアを好きになったわけ?」
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