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第三章-⑸ クレアとハロルド
無駄足で帰るわけないわ
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停滞していたその状況が動き出したのは、俺が今日の分の作業が早くに一段落して、家に帰った時だった。
「あれ? ハロルドじゃん?」
キッチンで水を飲んでいると、ふと目についた窓から、女子部屋の方向に全速力で走って行くハロルドを見つけた。
俺は一気に水を飲み干して、ハロルドの後を追う。
「ハロルドー!」
「え? あ、昴くんではないか!」
手を振って呼びかけた声に、ハロルドは気付き、手を振り返してくれた。
そのまま、俺はハロルドのもとに小走りで向かう。
「お疲れだ! 昴くん!」
「ああ、ハロルドもお疲れ様。一応聞くけど、ゾーイのとこに行く途中?」
「まあ……察しの通り、正解だ……」
「本当にお疲れ……今度は、あの女王様のご要望は何だって?」
疲労困憊な表情を浮かべ、ハロルドは力なく頷く。
きっと、お疲れと言ったその俺の顔は盛大に引きつっていただろう。
そして、軽口を交えながら手伝えることはないかとハロルドに質問すると、途端にハロルドは怪訝な表情で……
「それが……とにかく、早く来いの一点張りなんだ」
「え? それ、逆に怖くないか?」
濃い顔をさらに濃くして、ハロルドはそう首を傾げながら答える。
その答えに、俺は若干の寒気を覚えてしまった。
「いつも通りの展開だとしたら、確実に無理難題なことだろうな……」
「……行くも恐怖、行かぬも恐怖。ここまでくれば、もうやぶれかぶれといったところか! はははははははっ!」
「ハロルド!? 俺も行く! 俺も一緒に行くから、気をしっかり持て!?」
この後の展開を予想する俺の隣で、壊れる寸前のハロルドが笑う。
あまりに不憫で見てられず、思わず行くと言ってしまったけれど……
後悔してもし切れないのが本音だ。
とりあえず、俺はハロルドのことを支えて一番奥のゾーイの部屋に向かった。
「お? やっと、来たかよ! 遅かったじゃんって……あれ、昴も来たの?」
ドアを開けると、ゾーイはベッドに座って何かを描いていた。
こちらに気付いて振り向くと、俺のことを見て少し意外そうな顔をする。
「あ、うん。今日の分の作業が早く終わったから、お見舞いがてらね」
「ご丁寧にどうも」
「全然だよ。何を描いてたんだ?」
「窓からの景色だよ。だって、死ぬほど暇なんだもん!」
「あ、あはは……そうだよな」
まあ、間違ってはいないよな? お見舞いも兼ねてるのは嘘じゃないし……
何だか妙な罪悪感に襲われ、俺は話題をゾーイの手元にあったスケッチに切り替えた。
それを覗き込むと、普通に上手く描かれた風景画がある。
けど、その風景画の右には暇という漢字の羅列がズラリ……言う通り、よっぽど暇なんだな。
「ゾーイ? あー、その、今回の要件は何なのだろうか?」
「あ、そうだ。ハロルド、そこの車椅子持って来て」
「え? あ、ああ! 承知した!」
そうしていると、俺の横から恐る恐るハロルドはゾーイに尋ねる。
何ていうか、ビクビクしすぎだろ……
けれど、ゾーイはそんなハロルドを大して気にしている様子もなく、部屋の端に置かれた、シンお手製の車椅子を所望した。
「ご苦労。サンキュー、ハロルド!」
ハロルドにお礼を言うと、ゾーイは俺達の補助なしで、サクッと車椅子に乗り込む。
「ハロルド、押して! あ、目的地はクレアの部屋ね?」
「え? く、クレア?」
「待って! ゾーイ、今度は……」
「早く! タイムイズマネー!」
「わ、わかった! 出発!」
すると、また問答無用でハロルドにクレアの部屋に向かえと言う。
初耳であろうハロルドは動揺し、俺はゾーイに説明を求めるが、それはあっさりと遮られた。
そして、ほとんど強行突破の状況でゾーイはハロルドを急かし、ハロルドはわけもわからず出発する。
とりあえず、その状況では俺もついて行くしかなかった。
クレアの部屋はソニアの部屋を挟んだゾーイの部屋の、二つ隣にあたる。
一瞬で、ゾーイを乗せた車椅子は目的地であるクレアの部屋の前に着いた。
「クレア? 何だか久しぶり、ゾーイだけど?」
ゾーイのドアの前からの呼びかけに対して、クレアは反応せず……
「ゾーイ、難しいと思うよ?」
「ああ……誰の呼びかけにも、反応を示してくれないんだ……」
すぐに俺はゾーイに声をかけ、それに続いてハロルドも暗い表情で話す。
そう、クレアはずっとこんな調子だ。
内側から鍵をかけられており、開けることもできない。
「そっか。しょうがないな」
すると、俺達の言葉に対し、ゾーイは何かを考え始めた。
まあ、さすがのゾーイも今の状態は諦めてベッドに戻るしかないだろうと、この時の俺とハロルドは思っていた。
けど、それは大きな間違いだった。
「じゃあ、このドア、二人で突き破ってくれない?」
「あれ? ハロルドじゃん?」
キッチンで水を飲んでいると、ふと目についた窓から、女子部屋の方向に全速力で走って行くハロルドを見つけた。
俺は一気に水を飲み干して、ハロルドの後を追う。
「ハロルドー!」
「え? あ、昴くんではないか!」
手を振って呼びかけた声に、ハロルドは気付き、手を振り返してくれた。
そのまま、俺はハロルドのもとに小走りで向かう。
「お疲れだ! 昴くん!」
「ああ、ハロルドもお疲れ様。一応聞くけど、ゾーイのとこに行く途中?」
「まあ……察しの通り、正解だ……」
「本当にお疲れ……今度は、あの女王様のご要望は何だって?」
疲労困憊な表情を浮かべ、ハロルドは力なく頷く。
きっと、お疲れと言ったその俺の顔は盛大に引きつっていただろう。
そして、軽口を交えながら手伝えることはないかとハロルドに質問すると、途端にハロルドは怪訝な表情で……
「それが……とにかく、早く来いの一点張りなんだ」
「え? それ、逆に怖くないか?」
濃い顔をさらに濃くして、ハロルドはそう首を傾げながら答える。
その答えに、俺は若干の寒気を覚えてしまった。
「いつも通りの展開だとしたら、確実に無理難題なことだろうな……」
「……行くも恐怖、行かぬも恐怖。ここまでくれば、もうやぶれかぶれといったところか! はははははははっ!」
「ハロルド!? 俺も行く! 俺も一緒に行くから、気をしっかり持て!?」
この後の展開を予想する俺の隣で、壊れる寸前のハロルドが笑う。
あまりに不憫で見てられず、思わず行くと言ってしまったけれど……
後悔してもし切れないのが本音だ。
とりあえず、俺はハロルドのことを支えて一番奥のゾーイの部屋に向かった。
「お? やっと、来たかよ! 遅かったじゃんって……あれ、昴も来たの?」
ドアを開けると、ゾーイはベッドに座って何かを描いていた。
こちらに気付いて振り向くと、俺のことを見て少し意外そうな顔をする。
「あ、うん。今日の分の作業が早く終わったから、お見舞いがてらね」
「ご丁寧にどうも」
「全然だよ。何を描いてたんだ?」
「窓からの景色だよ。だって、死ぬほど暇なんだもん!」
「あ、あはは……そうだよな」
まあ、間違ってはいないよな? お見舞いも兼ねてるのは嘘じゃないし……
何だか妙な罪悪感に襲われ、俺は話題をゾーイの手元にあったスケッチに切り替えた。
それを覗き込むと、普通に上手く描かれた風景画がある。
けど、その風景画の右には暇という漢字の羅列がズラリ……言う通り、よっぽど暇なんだな。
「ゾーイ? あー、その、今回の要件は何なのだろうか?」
「あ、そうだ。ハロルド、そこの車椅子持って来て」
「え? あ、ああ! 承知した!」
そうしていると、俺の横から恐る恐るハロルドはゾーイに尋ねる。
何ていうか、ビクビクしすぎだろ……
けれど、ゾーイはそんなハロルドを大して気にしている様子もなく、部屋の端に置かれた、シンお手製の車椅子を所望した。
「ご苦労。サンキュー、ハロルド!」
ハロルドにお礼を言うと、ゾーイは俺達の補助なしで、サクッと車椅子に乗り込む。
「ハロルド、押して! あ、目的地はクレアの部屋ね?」
「え? く、クレア?」
「待って! ゾーイ、今度は……」
「早く! タイムイズマネー!」
「わ、わかった! 出発!」
すると、また問答無用でハロルドにクレアの部屋に向かえと言う。
初耳であろうハロルドは動揺し、俺はゾーイに説明を求めるが、それはあっさりと遮られた。
そして、ほとんど強行突破の状況でゾーイはハロルドを急かし、ハロルドはわけもわからず出発する。
とりあえず、その状況では俺もついて行くしかなかった。
クレアの部屋はソニアの部屋を挟んだゾーイの部屋の、二つ隣にあたる。
一瞬で、ゾーイを乗せた車椅子は目的地であるクレアの部屋の前に着いた。
「クレア? 何だか久しぶり、ゾーイだけど?」
ゾーイのドアの前からの呼びかけに対して、クレアは反応せず……
「ゾーイ、難しいと思うよ?」
「ああ……誰の呼びかけにも、反応を示してくれないんだ……」
すぐに俺はゾーイに声をかけ、それに続いてハロルドも暗い表情で話す。
そう、クレアはずっとこんな調子だ。
内側から鍵をかけられており、開けることもできない。
「そっか。しょうがないな」
すると、俺達の言葉に対し、ゾーイは何かを考え始めた。
まあ、さすがのゾーイも今の状態は諦めてベッドに戻るしかないだろうと、この時の俺とハロルドは思っていた。
けど、それは大きな間違いだった。
「じゃあ、このドア、二人で突き破ってくれない?」
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