エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第三章-⑹ サトルと菜々美とモーリス

待遇だけは地球を救うそれ

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「ねえ、ゾーイ? さすがに、この見送り大げさすぎないかしら……?」
「え? 盛大な方がいいでしょ?」


 クレアは整ってる顔をこれでもかと引くつかせながら、ゾーイにそう問う。
 一方で、ゾーイは、心の底からわけがわからないという顔をする


「いや、キャパオーバーだよ? 全国民集合してる勢いじゃない?」
「勢いじゃなくて、集合してるけど?」


 震えながら、見送る人数を数えられるわけもないのに数えようとしてる、ジェームズ。
 そんなジェームズにさらにキャパオーバーなことを吐き捨てる、ゾーイ。


「戦場に向かう兵士かよ……俺達は、怪獣を倒しに行くんじゃねえんだぞ?」
「兵士に油断禁物! 道中に何があるかわかんないでしょ?」


 呆れ果てて、何も始まっていないのに既に疲れきっている、コタロウ。
 ゾーイは、そんなコタロウの自分の何倍もある背中を、容赦なく叩いている。


「ふふっ……ははははっ! 私の勇姿を見届けるために、ありがとう! 国民の皆さん! ハロルド・早乙女、必ずや無事に帰還してみせます!」
「よっ! ハロルド! 君は男だ!」


 まあ、まんまと喜んでる奴も、約一名はいるわけで……そして、まんまとゾーイに乗せられているわけでね?
 俺の後ろには、ゾーイがさっき言った通りに、この王国の全国民であろう犬族と猫族が立っている。
 多分だけど、ゾーイがその方が士気が上がるとかなんとか言って、レオに集めさせたんだろな……
 まあ、そんな四者四様のこの盛大な見送りに対する様子を見ていた俺達、ナサニエル組は、絶望的に眠い!
 あの後、通称代表組とゾーイから命名された、クレアとハロルドとジェームズとコタロウは、強制的に寝かせられた。
 そりゃ、寝なかったら、一分ごとに毛を剃るなんてこと言われたら嫌でも寝るよね……ゾーイだもん。
 そして、残された俺達は、毎度の如くおなじみの深夜労働を課せられた。
 ナサニエル出発に向けての、食料とか飲み物の準備、移動用の自動車の燃料の入れ替えと点検、おまけに兵団の武器の整備まで……
 おかげで、本日もめでたく、俺達は徹夜で見送りの時を迎えたのだ。
 それにしても、眠すぎるだろこれ……


「うわ……昴、大丈夫か? てか、全員見事に顔が死んでるけど……」
「大丈夫に見えるか、これが……? それより、サトル。昨日だけど、どこに行ってたんだよ? 捜したんだぞ?」


 我ながらどんなひどい顔をしてるのか想像したくないけど、サトルの顔を見る限りでは、相当なのだろう。
 けど、俺は気を取り直して、サトルに昨日の夜の居場所を聞いたのだが……


「あー、うん……ちょっとな?」


 サトルは、あからさまに俺から視線を逸らして誤魔化したのだ。
 そして、その逸らした目線の先にはモーリスがいた。
 そういえばだけど、昨日いなかったのって、サトルとモーリスだよな?
 ゾーイもだけど、最近何なんだ……何をそんなに誤魔化す?


「とりあえず、ナサニエルに着いたら無線機に連絡してね? 必ずよ?」


 ゾーイのそんな声に、思わず俺は飛ばしていた意識を現実に戻した。


「わかったよ!? 何回、お前は同じことを言ってくるんだよ!?」


 コタロウはたまらなくなったのか、ゾーイにそう叫んでいた。
 まあ、そりゃあな? もう、このやり取りをするのは……何回目だ?
 今日のゾーイは、珍しく入念だった。
 シンの深夜労働万歳な状態で改造した携帯電話型の無線機を持たせ、移動用の自動車はガチガチの武装車。
 おまけに、護衛にとコタロウ率いる兵団を数名つける高待遇だ。


「そして、ナサニエルの無事を確認し終えたら、すぐに帰って来ること! 全員頭に叩き込んでよ?」


 そして、さらに念を押すように力強くゾーイはクレア達に告げていた。
 そんなゾーイに違和感を覚えなかったわけではないけど、俺達はほぼほぼ睡魔と戦っており、冷静ではなくて、クレア達のことも気力で見送ったというほどの状態だったのだ。
 ここからナサニエルまでは自動車を飛ばせば、三時間ほど。
 睡魔に負けた俺達は、寝て起きる頃には帰って来ているだろうと思って、そのまま眠りについた。










 けど、その日にクレア達が帰って来ることはなかったのだった――
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