エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第三章-⑹ サトルと菜々美とモーリス

ダイヤルを回そうか

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「どうなってんだよ!? これ、もうあと数時間で、夜明けるぞ!?」
「そんなことわかってるわよ!」
「二人とも、少し落ち着け! 今俺達が揉めてどうすんだ!」


 真っ青な顔でシンが叫んで、それを咎めるようにソニアが怒鳴る。
 またさらにそれをデルタが怒鳴り、途端に二人はバツの悪そうな顔をした。
 談話室の中の空気は最悪だった……


「無線機はどうだ!?」
「ダメ……全然繋がらないわ」


 右へ、左へ、レオは落ち着きのない様子で談話室を歩き回り、モカに何度目かわからない質問を投げかけるが……
 モカは毎度の如く、浮かない表情で首を振るだけだった。
 クレア達は日の出とともにに、ここを出発した。
 そして今は、シンが言う通りにあと少しで太陽が上ろうとしてる時間。
 どんなに遅くなっても、今頃とっくに帰って来てなきゃおかしい時間だ……


「もしかして……途中で、動物の群れに襲われたとか!?」
「いや、コタロウがついてて、それはねえだろな……」


 真由の問いかけに望は考え込むように首を振るながら、そう答える。
 そう、ここに来たばっかの時みたいに俺達だけでは、また動物に襲われて終わりだとは思うが、今回はコタロウ率いる兵団がついているんだ。
 道中で何かあるとは考えにくいし……
 あと、考えられるのは、ナサニエルで何かあったってことだけだけど……俺はそう頭を捻り、サトルに意見を聞こうとした時だった……


「サトル?」
「……え? あ、どうした?」
「いや、珍しくボーッとしてるから?」
「あ、ああ、クレア達が心配で……」


 サトルは俺の声によって、たった今我に返ったような顔をした。
 そして、俺から慌てて目を逸らした。
 多分だけど、俺の疑っている視線に気付いたのかもしれない……
 ほぼ確実にサトルは、俺達に何かを隠している……俺はそう思って、サトルに質問しようとしたその時……


「ゾーイ、聞いていいか」
「何、アランくん?」


 タイミングの悪いことに、アランに先を越されてしまった。
 けど、アランが質問したのはサトルではなくて、ゾーイだ。
 まるで茶化すように、含み笑いで返事をしたゾーイ……


「お前、どこまで予想してるんだ?」


 そんなゾーイに、アランはものすごく曖昧で、この場の誰もが知りたかった質問を投げかけた。
 しかし、ゾーイはその質問に答えることはなく……


「無線機、貸して?」
「え? あ、うん……」


 おもむろに立ち上がると、レオに無線機を貸すように告げた。
 困惑した様子のレオは、促されるままに無線機を渡したのだけど……


「ゾーイ、何をしてるのよ!? 今番号を変えたら……!!」
「大丈夫。クレア達に持たせた無線機の番号は覚えてる」


 モカは、焦ったようにゾーイに叫ぶ。
 地上時代の人類の連絡手段である携帯電話というものを、シンは無線機に改造してくれた。
 シン曰く、全ての通信機には番号があり、それぞれの番号を入力することで通信が可能になるのだとか。
 それを利用して、携帯電話を無線機に改造して、クレア達に持たせたのだ。
 俺達の無線機は、常に充電してクレア達に繋がるように番号を入力して、繋ぎっぱなしにしていたのだが……
 ゾーイは無線機を受け取ると、誰も止める間もなく、その番号を消して、違う番号を入力し始めたのだ。


「え、じゃあ、これは何の番号?」


 けど、俺達が知っているのは、クレア達の無線機の番号だけだ。
 だから、モカはすごく困惑した様子でゾーイに問いかけたのだが……


「……ナサニエルの番号よ」


 淡々と話すゾーイに空気が固まり、静まり返った。
 そして、ゾーイの番号を打つ機械音だけが、その場に響く。
 そんな状況で誰が最初に言葉を発するのか、俺達はそれぞれにお互いの様子を伺っていたのだが……


「あー、あー、聞こえてる?」


 それよりも早くに、ゾーイが入力した番号が繋がってしまったようだった。


「聞こえてるんでしょ? 名前を呼ばなきゃ返事もしない?」


 ゾーイはほぼほぼ喧嘩腰で、無線機に話しかける。
 言いたいことは山ほどにある……どうして、ナサニエルの番号を把握しているのかとか……君には、聞きたいことが本当にいっぱいある。


「ゾーイ? やっぱり、急には……」
「答えな。モーリス・ニコルズ」


 しびれを切らして、サトルがゾーイの呼びかけを遮ろうとした時……
 そのゾーイが発した名前に、一瞬でサトルの顔が強ばった。
 というより、その場の空気そのものにヒビが入ったような感覚だった。
 今、ゾーイは、誰の名前を呼んだ?


「……お見事です。さすが、ゾーイ・エマーソン」


 どうか答えないでくれと願ったが、それは簡単に打ち砕かれてしまったのだ。
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