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第三章-⑹ サトルと菜々美とモーリス
ビカズアイワズアースト
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「あー、バカみたいに痛すぎ! 少しは手加減しろって……気絶してるか」
ゾーイは大して興味がなさそうに吐き捨てながら、すっかり伸びて床に横たわっているピッドブルを見下ろしていた。
「ゾーイ! 傷を見せて!」
すると、目の前の光景に絶句しているのか、いつの間にか俺、真由、レオの拘束は解かれており、真由は一目散にゾーイのもとへ駆け出していた。
俺とレオも、急いで真由の後を追う。
唇は切れて出血、髪はボサボサ、手足には無数のアザ、近くで見ると、ゾーイの姿はとても痛々しいもので、俺は目を逸らしたくなった。
「ゾーイ……? 聞いてもいいかな?」
そんなゾーイの様子を見ながら、また俺達に気を遣うように、サトルはゆっくり近付いて来て、ゾーイに恐る恐るそう問いかけた。
しかし、その質問の内容は、この場の誰もが予想していたものだと思う。
「サトル、何よ?」
「……あの、もしかしてなんだけど、手抜いてた?」
「は? 当たり前じゃん。あたしがそう簡単にやられるわけないでしょ?」
すると、ゾーイは乱れまくった髪を直しながら悪びれもなく、そう答えた。
予想はしてた……あの、あっさりと決着がつく瞬間を見たら、きっと誰もが手抜いてたんだなって察したと思う。
真由とレオは絶句、俺は全身の力が抜けるような感覚に陥った……
「何で……何で、そんな……!? そんなにボロボロになってまで!」
「まあまあ。別に殴られたのは、あんたじゃないんだからいいでしょ?」
「そういう問題じゃないよ! こっちがどれだけ……!!」
サトルはワナワナと、おそらく怒りで震えながら、ゾーイに詰め寄った。
けど、ゾーイはいつも通りで、サラリと爆弾発言をするものだから、サトルのボルテージは上がるばかり。
サトルの怒る姿は、橘さんが攫われたとわかった時以来だが、今はあの時と同じような我を忘れた怒りじゃないということに安心しつつ、どっちみちそろそろ止めなきゃなと思っていると……
「だって、あたしが勝つことを信じてなけりゃ、願ってもいない人間がこの場に一人でもいる状況で勝っても、それって無駄じゃん?」
ゾーイはそんなバカみたいな理屈を当然だというように、真顔で吐き捨てた。
つまり、ゾーイは、サトルに勝ってくれと言われたから勝ったと……
あまりにも身勝手で、あまりにもゾーイらしすぎる理屈に、サトルの怒りは自然と引いていっていた。
そして、俺、真由、サトル、レオは全員で顔を見合わせて苦笑いをする。
本当に、我らが女王様に敵うことは夢のまた夢だね……?
「ゾーイ! とにかく、手当てを……!!」
「あー、ちょっと待って。その前にやることがある」
気を取り直しように、真由がゾーイにそう声をかけるが、ゾーイはそれを軽く流して、俺達の前を通り過ぎる。
そして向かうのは、すっかり戦意喪失して床に座り込むフウタと、ゾーイを睨むモーリスで……
「……ゾーイ・エマーソン。私は決して間違っては……ウッ……!!」
そんなモーリスに、ゾーイの激しいビンタが炸裂した。
「モーリス、あんたは正解よ?」
そのビンタの勢いのままに、モーリスは床に倒れ、叩かれた頬を抑えてゾーイを見上げている。
その見上げられたゾーイは、冷たく吐き捨て、目線を合わせるようにその場にしゃがみこんだ。
「平和に慣れるって、毎日に違和感がなくなることでしょ? それってさ、時にはものすごく怖いことよ。あんたが言うように知らない間に、あたし達人類全体を破滅に導いてるかもしれない。そう思って、あんたは整然の管理されたような緊張感がどこかある世の中を望んだんでしょ?」
「そっ、その通りです! さすがはゾーイ・エマーソン! あなたならわかってくれると……!!」
ゾーイは、淡々と冷静にモーリスの考えをこれでもかと当てていく。
その問いかけに、モーリスはゾーイにビンタされたことも忘れて、珍しく顔を輝かせて反応するが……
「けど、それ奴隷と一緒じゃね?」
ゾーイは笑ってしまうほどにあっさりと、モーリスの考えを否定した。
「奴隷……見方を変えたら、そうなるとは思います。しかし、私の管理する世の中では、そのようなことにならないように徹底を……!!」
「ほうほう、あんたはその奴隷側じゃなくて、管理する側に回れると思ってるわけね? 随分おめでたい話ね?」
「……何が言いたいのです?」
そのゾーイの言葉に、輝いていたその表情から一変し、モーリスは少し興奮気味にゾーイに反論する。
しかし、ゾーイはそれを遮って、それは楽しそうにおかしそうに、なぜかすごく威圧的に笑う。
モーリスは、ゾーイの威圧的な笑顔を睨みつけているが、怯えているようだ。
それとそうだろうな、あんな表情のゾーイから、どんなキツい言葉が飛び出すのか、俺だって不安で仕方ないし……
「わからないの? あんたには無理って話よ。そもそも、あたしに出鼻をくじかれてる時点で夢物語ね」
そして、案の定、ゾーイはモーリスの傷の中心をさらに切り裂くほどの威力の言葉を吐き捨てた。
それを言われたモーリスは、悔しそうに唇を噛みながら、ゾーイから目を逸らし、その場に背中を震わせながら俯く。
そのあまりの哀れっぷりに、思わず同情してしまう自分がいた。
「けど、最近の若者にはないような自分のことじゃなくて、世の中を変えるって野望は捨てない方がいいよ」
けど、自分で引き裂いた空気を自分で修復するのがゾーイのやり方で、それは俺達の脳みそを激しく混乱させた。
ゾーイは大して興味がなさそうに吐き捨てながら、すっかり伸びて床に横たわっているピッドブルを見下ろしていた。
「ゾーイ! 傷を見せて!」
すると、目の前の光景に絶句しているのか、いつの間にか俺、真由、レオの拘束は解かれており、真由は一目散にゾーイのもとへ駆け出していた。
俺とレオも、急いで真由の後を追う。
唇は切れて出血、髪はボサボサ、手足には無数のアザ、近くで見ると、ゾーイの姿はとても痛々しいもので、俺は目を逸らしたくなった。
「ゾーイ……? 聞いてもいいかな?」
そんなゾーイの様子を見ながら、また俺達に気を遣うように、サトルはゆっくり近付いて来て、ゾーイに恐る恐るそう問いかけた。
しかし、その質問の内容は、この場の誰もが予想していたものだと思う。
「サトル、何よ?」
「……あの、もしかしてなんだけど、手抜いてた?」
「は? 当たり前じゃん。あたしがそう簡単にやられるわけないでしょ?」
すると、ゾーイは乱れまくった髪を直しながら悪びれもなく、そう答えた。
予想はしてた……あの、あっさりと決着がつく瞬間を見たら、きっと誰もが手抜いてたんだなって察したと思う。
真由とレオは絶句、俺は全身の力が抜けるような感覚に陥った……
「何で……何で、そんな……!? そんなにボロボロになってまで!」
「まあまあ。別に殴られたのは、あんたじゃないんだからいいでしょ?」
「そういう問題じゃないよ! こっちがどれだけ……!!」
サトルはワナワナと、おそらく怒りで震えながら、ゾーイに詰め寄った。
けど、ゾーイはいつも通りで、サラリと爆弾発言をするものだから、サトルのボルテージは上がるばかり。
サトルの怒る姿は、橘さんが攫われたとわかった時以来だが、今はあの時と同じような我を忘れた怒りじゃないということに安心しつつ、どっちみちそろそろ止めなきゃなと思っていると……
「だって、あたしが勝つことを信じてなけりゃ、願ってもいない人間がこの場に一人でもいる状況で勝っても、それって無駄じゃん?」
ゾーイはそんなバカみたいな理屈を当然だというように、真顔で吐き捨てた。
つまり、ゾーイは、サトルに勝ってくれと言われたから勝ったと……
あまりにも身勝手で、あまりにもゾーイらしすぎる理屈に、サトルの怒りは自然と引いていっていた。
そして、俺、真由、サトル、レオは全員で顔を見合わせて苦笑いをする。
本当に、我らが女王様に敵うことは夢のまた夢だね……?
「ゾーイ! とにかく、手当てを……!!」
「あー、ちょっと待って。その前にやることがある」
気を取り直しように、真由がゾーイにそう声をかけるが、ゾーイはそれを軽く流して、俺達の前を通り過ぎる。
そして向かうのは、すっかり戦意喪失して床に座り込むフウタと、ゾーイを睨むモーリスで……
「……ゾーイ・エマーソン。私は決して間違っては……ウッ……!!」
そんなモーリスに、ゾーイの激しいビンタが炸裂した。
「モーリス、あんたは正解よ?」
そのビンタの勢いのままに、モーリスは床に倒れ、叩かれた頬を抑えてゾーイを見上げている。
その見上げられたゾーイは、冷たく吐き捨て、目線を合わせるようにその場にしゃがみこんだ。
「平和に慣れるって、毎日に違和感がなくなることでしょ? それってさ、時にはものすごく怖いことよ。あんたが言うように知らない間に、あたし達人類全体を破滅に導いてるかもしれない。そう思って、あんたは整然の管理されたような緊張感がどこかある世の中を望んだんでしょ?」
「そっ、その通りです! さすがはゾーイ・エマーソン! あなたならわかってくれると……!!」
ゾーイは、淡々と冷静にモーリスの考えをこれでもかと当てていく。
その問いかけに、モーリスはゾーイにビンタされたことも忘れて、珍しく顔を輝かせて反応するが……
「けど、それ奴隷と一緒じゃね?」
ゾーイは笑ってしまうほどにあっさりと、モーリスの考えを否定した。
「奴隷……見方を変えたら、そうなるとは思います。しかし、私の管理する世の中では、そのようなことにならないように徹底を……!!」
「ほうほう、あんたはその奴隷側じゃなくて、管理する側に回れると思ってるわけね? 随分おめでたい話ね?」
「……何が言いたいのです?」
そのゾーイの言葉に、輝いていたその表情から一変し、モーリスは少し興奮気味にゾーイに反論する。
しかし、ゾーイはそれを遮って、それは楽しそうにおかしそうに、なぜかすごく威圧的に笑う。
モーリスは、ゾーイの威圧的な笑顔を睨みつけているが、怯えているようだ。
それとそうだろうな、あんな表情のゾーイから、どんなキツい言葉が飛び出すのか、俺だって不安で仕方ないし……
「わからないの? あんたには無理って話よ。そもそも、あたしに出鼻をくじかれてる時点で夢物語ね」
そして、案の定、ゾーイはモーリスの傷の中心をさらに切り裂くほどの威力の言葉を吐き捨てた。
それを言われたモーリスは、悔しそうに唇を噛みながら、ゾーイから目を逸らし、その場に背中を震わせながら俯く。
そのあまりの哀れっぷりに、思わず同情してしまう自分がいた。
「けど、最近の若者にはないような自分のことじゃなくて、世の中を変えるって野望は捨てない方がいいよ」
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