エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第三章-⑹ サトルと菜々美とモーリス

自己肯定は強い方がいいよ

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「……えっと、は?」


 わけがわからないモーリスは、珍しく間抜けな顔を晒す。


「言ったでしょ? あんたは正解だってさ。確かにこのままだと、人類はあまり良い方向には向かわないだろね。けど、そうは言ってもよ、モーリス? 今回のあんたのやり方は全体的に間違っているし、あんたが人と関わらないから考えが独りよがりになるのよ」


 最下層に落として上げる、逆もまた然りという感じだけど、ゾーイの言葉の振り幅は、ゼロか百である。


「いい? 王国に帰ったら、前とは比べ物になんてならないほど、もっと大勢と関わりな。あとは、少し笑いな」
「……帰ったらとは……わ、私は、王国に帰ってもいいのですか!?」


 モーリスは顔を真っ青にしながら、驚くなんて真逆なことをやってのけていたけど、そのゾーイの言葉には俺はそんなに驚かなかった。
 それは真由とレオも、少し複雑な表情をするサトルも、同じ考えなようだ。
 ゾーイなら、モーリスを王国に連れて帰ると、俺は思っていた。


「は? 他に行く場所があるわけ? まあ、誰もあんたに手は出せないように牽制はしてあげるわ。そうしないと、健康体のあんたのことを、完膚なきまでにボコボコにするってあたしの楽しみが減るしね」


 ほら、また君は上げてあっという間に最下層に落とす。
 モーリスの表情を、あんなに赤くしたり、青くしたりできるのは、今のところゾーイだけなんだろうな。
 一先ず落ち着いたところでモーリスが橘さんを解放して無事を確認して、一件落着……何てことならないんだよな……
 俺は、頭が痛くなっていくような感覚を覚えながら、フウタを見た。


「まあ、けどさ、どうしてもその理想郷とやらを作りたいなら、一緒に作る相手は選びなよ。そこのバカ犬、あんたのこと用済みになったら捨てようとしてたのよ?」


 そんなフウタを指差して、ゾーイは容姿なく、檻の前で犬族から聞いたことを包み隠さず暴露した。
 それを聞いたモーリスは、その途端にぐりんと音がしそうな勢いで、フウタのことを見る。
 ああ、やっぱり、この状況で、冷静に物事を見れていなかったんだなと、俺はモーリスを見て思った。
 すると、ゾーイは今度はフウタに目線を合わせるようにしゃがむ。


「理想郷思想ってやつね。あんたは、王国にいた時にモーリスに目を付け、そこにつけ込んで、まんまとそそのかした」
「……フッ、それがどうした。騙される奴が脳なしなだけだろ?」
「そうね? そこの陰気眼鏡には、今回は落ち度しかないわ」
「前から思ってたけど、お前って容赦ねえな……?」


 ゾーイとフウタはお互いに決して目を離すことなく、話を紡ぐ。
 モーリスは何かを言いたそうで複雑な表情をしてたが、その緊張感漂う二人だけの世界では、誰であっても口を挟むことはできなかった。
 フウタは常に攻撃的な、いつ襲いかかってきてもおかしくないような視線を向けるが、ゾーイはそれに対して顔色を変える気配すらなくて……


「けど、それもこれも、人間を恨むと同時に自分達に誇りがあるってことなんでしょ? あたしはそういう風に、自己肯定感高い奴、意外と好きな方よ」
「同情かよ……」
「そっちの方が、あんたには屈辱的かと思って?」


 フウタは言葉を吐き捨てるように呟くと、ゾーイから目を逸らす。
 しかし、ゾーイの言葉にフウタは耳をピクリとさせて反応し、それを見たゾーイは言葉をたたみかけた。


「あんた、行くとこないんでしょ? 大人しく王国に戻れば? そこの陰気眼鏡と一緒にボコボコにしてあげるから」


 君のいつものやり方だ、ゾーイは皮肉交じりに、遠回しに、フウタに戻って来ればと言った。
 とても簡単で、とても難しいことだとわかっていながら、君は言った。
 その言葉に、フウタは泣きそうなのを我慢してるような顔で振り返った。


「本当にいい性格してるよな……薄々気付いてはいたんだ。人間は、俺達に劣るどころか、その上をいくって。この周りの機械や何もかもを人間はいとも簡単に使いこなす。俺にはさっぱりわからなかったのに……」


 悔しそうに、拳を握って、その拳で床を叩きながらフウタは話す。


「俺達犬族や猫族は、根本的に動物的思想が抜けきれていないんだ。だから、最終的には、暴力で訴えるってことしかできなくて……結局は千年経っても、俺達は人間に敵わないんだよ……」


 そのフウタの言葉で、俺は大きな誤解をしていたのだと思い知った。
 フウタはただただ俺達が憎かったわけじゃなく、劣等感を感じていたのだと。


「バカじゃん? 人間には元々の知恵と文明があるのよ? そもそもスタートが違うんだから、劣って当たり前」
「それもそうだったな……けど、もう無理だ! 取り返しつかねえよ……!!」


 その言葉をゾーイは、百パーセントの正論で跳ね返す。
 本当に君ってさ、容赦ないよね?
 けど、それを受けたフウタは、どこかスッキリしていたが、すぐに思い出したように顔を真っ青を通り越して、真っ白に染めながら震え出した。


「……百鬼夜行って奴らのこと?」


 それにすかさず、ゾーイは淡々とフウタに問いかける。


「フウタ、何で……よりによって、どうして、奴らにゾーイ達のことを話したりしたんだよ……!?」


 レオはひどい剣幕で、フウタに詰め寄ったが、フウタは俯くばかりで、何も答えはしなかった。
 八方塞がりだと思った、その時……


「フウタ、あたし達から奪った武器、どこにやったの?」
「は……あ、この奥の……」


 ゾーイは、フウタから質問の答えを聞くや否や走り出し、コックピットを出て行こうとする。


「ゾーイ! どこ行くの!?」


 俺は慌てて引き止めるが、ゾーイは俺達を振り返ることなく……


「あんた達はコタロウ達と合流して外に出て。そして、止めて。わかった?」


 そのまま走り去ってしまった……嵐が来る、そう俺は思った。
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