170 / 257
第三章-⑹ サトルと菜々美とモーリス
自己肯定は強い方がいいよ
しおりを挟む
「……えっと、は?」
わけがわからないモーリスは、珍しく間抜けな顔を晒す。
「言ったでしょ? あんたは正解だってさ。確かにこのままだと、人類はあまり良い方向には向かわないだろね。けど、そうは言ってもよ、モーリス? 今回のあんたのやり方は全体的に間違っているし、あんたが人と関わらないから考えが独りよがりになるのよ」
最下層に落として上げる、逆もまた然りという感じだけど、ゾーイの言葉の振り幅は、ゼロか百である。
「いい? 王国に帰ったら、前とは比べ物になんてならないほど、もっと大勢と関わりな。あとは、少し笑いな」
「……帰ったらとは……わ、私は、王国に帰ってもいいのですか!?」
モーリスは顔を真っ青にしながら、驚くなんて真逆なことをやってのけていたけど、そのゾーイの言葉には俺はそんなに驚かなかった。
それは真由とレオも、少し複雑な表情をするサトルも、同じ考えなようだ。
ゾーイなら、モーリスを王国に連れて帰ると、俺は思っていた。
「は? 他に行く場所があるわけ? まあ、誰もあんたに手は出せないように牽制はしてあげるわ。そうしないと、健康体のあんたのことを、完膚なきまでにボコボコにするってあたしの楽しみが減るしね」
ほら、また君は上げてあっという間に最下層に落とす。
モーリスの表情を、あんなに赤くしたり、青くしたりできるのは、今のところゾーイだけなんだろうな。
一先ず落ち着いたところでモーリスが橘さんを解放して無事を確認して、一件落着……何てことならないんだよな……
俺は、頭が痛くなっていくような感覚を覚えながら、フウタを見た。
「まあ、けどさ、どうしてもその理想郷とやらを作りたいなら、一緒に作る相手は選びなよ。そこのバカ犬、あんたのこと用済みになったら捨てようとしてたのよ?」
そんなフウタを指差して、ゾーイは容姿なく、檻の前で犬族から聞いたことを包み隠さず暴露した。
それを聞いたモーリスは、その途端にぐりんと音がしそうな勢いで、フウタのことを見る。
ああ、やっぱり、この状況で、冷静に物事を見れていなかったんだなと、俺はモーリスを見て思った。
すると、ゾーイは今度はフウタに目線を合わせるようにしゃがむ。
「理想郷思想ってやつね。あんたは、王国にいた時にモーリスに目を付け、そこにつけ込んで、まんまとそそのかした」
「……フッ、それがどうした。騙される奴が脳なしなだけだろ?」
「そうね? そこの陰気眼鏡には、今回は落ち度しかないわ」
「前から思ってたけど、お前って容赦ねえな……?」
ゾーイとフウタはお互いに決して目を離すことなく、話を紡ぐ。
モーリスは何かを言いたそうで複雑な表情をしてたが、その緊張感漂う二人だけの世界では、誰であっても口を挟むことはできなかった。
フウタは常に攻撃的な、いつ襲いかかってきてもおかしくないような視線を向けるが、ゾーイはそれに対して顔色を変える気配すらなくて……
「けど、それもこれも、人間を恨むと同時に自分達に誇りがあるってことなんでしょ? あたしはそういう風に、自己肯定感高い奴、意外と好きな方よ」
「同情かよ……」
「そっちの方が、あんたには屈辱的かと思って?」
フウタは言葉を吐き捨てるように呟くと、ゾーイから目を逸らす。
しかし、ゾーイの言葉にフウタは耳をピクリとさせて反応し、それを見たゾーイは言葉をたたみかけた。
「あんた、行くとこないんでしょ? 大人しく王国に戻れば? そこの陰気眼鏡と一緒にボコボコにしてあげるから」
君のいつものやり方だ、ゾーイは皮肉交じりに、遠回しに、フウタに戻って来ればと言った。
とても簡単で、とても難しいことだとわかっていながら、君は言った。
その言葉に、フウタは泣きそうなのを我慢してるような顔で振り返った。
「本当にいい性格してるよな……薄々気付いてはいたんだ。人間は、俺達に劣るどころか、その上をいくって。この周りの機械や何もかもを人間はいとも簡単に使いこなす。俺にはさっぱりわからなかったのに……」
悔しそうに、拳を握って、その拳で床を叩きながらフウタは話す。
「俺達犬族や猫族は、根本的に動物的思想が抜けきれていないんだ。だから、最終的には、暴力で訴えるってことしかできなくて……結局は千年経っても、俺達は人間に敵わないんだよ……」
そのフウタの言葉で、俺は大きな誤解をしていたのだと思い知った。
フウタはただただ俺達が憎かったわけじゃなく、劣等感を感じていたのだと。
「バカじゃん? 人間には元々の知恵と文明があるのよ? そもそもスタートが違うんだから、劣って当たり前」
「それもそうだったな……けど、もう無理だ! 取り返しつかねえよ……!!」
その言葉をゾーイは、百パーセントの正論で跳ね返す。
本当に君ってさ、容赦ないよね?
けど、それを受けたフウタは、どこかスッキリしていたが、すぐに思い出したように顔を真っ青を通り越して、真っ白に染めながら震え出した。
「……百鬼夜行って奴らのこと?」
それにすかさず、ゾーイは淡々とフウタに問いかける。
「フウタ、何で……よりによって、どうして、奴らにゾーイ達のことを話したりしたんだよ……!?」
レオはひどい剣幕で、フウタに詰め寄ったが、フウタは俯くばかりで、何も答えはしなかった。
八方塞がりだと思った、その時……
「フウタ、あたし達から奪った武器、どこにやったの?」
「は……あ、この奥の……」
ゾーイは、フウタから質問の答えを聞くや否や走り出し、コックピットを出て行こうとする。
「ゾーイ! どこ行くの!?」
俺は慌てて引き止めるが、ゾーイは俺達を振り返ることなく……
「あんた達はコタロウ達と合流して外に出て。そして、止めて。わかった?」
そのまま走り去ってしまった……嵐が来る、そう俺は思った。
わけがわからないモーリスは、珍しく間抜けな顔を晒す。
「言ったでしょ? あんたは正解だってさ。確かにこのままだと、人類はあまり良い方向には向かわないだろね。けど、そうは言ってもよ、モーリス? 今回のあんたのやり方は全体的に間違っているし、あんたが人と関わらないから考えが独りよがりになるのよ」
最下層に落として上げる、逆もまた然りという感じだけど、ゾーイの言葉の振り幅は、ゼロか百である。
「いい? 王国に帰ったら、前とは比べ物になんてならないほど、もっと大勢と関わりな。あとは、少し笑いな」
「……帰ったらとは……わ、私は、王国に帰ってもいいのですか!?」
モーリスは顔を真っ青にしながら、驚くなんて真逆なことをやってのけていたけど、そのゾーイの言葉には俺はそんなに驚かなかった。
それは真由とレオも、少し複雑な表情をするサトルも、同じ考えなようだ。
ゾーイなら、モーリスを王国に連れて帰ると、俺は思っていた。
「は? 他に行く場所があるわけ? まあ、誰もあんたに手は出せないように牽制はしてあげるわ。そうしないと、健康体のあんたのことを、完膚なきまでにボコボコにするってあたしの楽しみが減るしね」
ほら、また君は上げてあっという間に最下層に落とす。
モーリスの表情を、あんなに赤くしたり、青くしたりできるのは、今のところゾーイだけなんだろうな。
一先ず落ち着いたところでモーリスが橘さんを解放して無事を確認して、一件落着……何てことならないんだよな……
俺は、頭が痛くなっていくような感覚を覚えながら、フウタを見た。
「まあ、けどさ、どうしてもその理想郷とやらを作りたいなら、一緒に作る相手は選びなよ。そこのバカ犬、あんたのこと用済みになったら捨てようとしてたのよ?」
そんなフウタを指差して、ゾーイは容姿なく、檻の前で犬族から聞いたことを包み隠さず暴露した。
それを聞いたモーリスは、その途端にぐりんと音がしそうな勢いで、フウタのことを見る。
ああ、やっぱり、この状況で、冷静に物事を見れていなかったんだなと、俺はモーリスを見て思った。
すると、ゾーイは今度はフウタに目線を合わせるようにしゃがむ。
「理想郷思想ってやつね。あんたは、王国にいた時にモーリスに目を付け、そこにつけ込んで、まんまとそそのかした」
「……フッ、それがどうした。騙される奴が脳なしなだけだろ?」
「そうね? そこの陰気眼鏡には、今回は落ち度しかないわ」
「前から思ってたけど、お前って容赦ねえな……?」
ゾーイとフウタはお互いに決して目を離すことなく、話を紡ぐ。
モーリスは何かを言いたそうで複雑な表情をしてたが、その緊張感漂う二人だけの世界では、誰であっても口を挟むことはできなかった。
フウタは常に攻撃的な、いつ襲いかかってきてもおかしくないような視線を向けるが、ゾーイはそれに対して顔色を変える気配すらなくて……
「けど、それもこれも、人間を恨むと同時に自分達に誇りがあるってことなんでしょ? あたしはそういう風に、自己肯定感高い奴、意外と好きな方よ」
「同情かよ……」
「そっちの方が、あんたには屈辱的かと思って?」
フウタは言葉を吐き捨てるように呟くと、ゾーイから目を逸らす。
しかし、ゾーイの言葉にフウタは耳をピクリとさせて反応し、それを見たゾーイは言葉をたたみかけた。
「あんた、行くとこないんでしょ? 大人しく王国に戻れば? そこの陰気眼鏡と一緒にボコボコにしてあげるから」
君のいつものやり方だ、ゾーイは皮肉交じりに、遠回しに、フウタに戻って来ればと言った。
とても簡単で、とても難しいことだとわかっていながら、君は言った。
その言葉に、フウタは泣きそうなのを我慢してるような顔で振り返った。
「本当にいい性格してるよな……薄々気付いてはいたんだ。人間は、俺達に劣るどころか、その上をいくって。この周りの機械や何もかもを人間はいとも簡単に使いこなす。俺にはさっぱりわからなかったのに……」
悔しそうに、拳を握って、その拳で床を叩きながらフウタは話す。
「俺達犬族や猫族は、根本的に動物的思想が抜けきれていないんだ。だから、最終的には、暴力で訴えるってことしかできなくて……結局は千年経っても、俺達は人間に敵わないんだよ……」
そのフウタの言葉で、俺は大きな誤解をしていたのだと思い知った。
フウタはただただ俺達が憎かったわけじゃなく、劣等感を感じていたのだと。
「バカじゃん? 人間には元々の知恵と文明があるのよ? そもそもスタートが違うんだから、劣って当たり前」
「それもそうだったな……けど、もう無理だ! 取り返しつかねえよ……!!」
その言葉をゾーイは、百パーセントの正論で跳ね返す。
本当に君ってさ、容赦ないよね?
けど、それを受けたフウタは、どこかスッキリしていたが、すぐに思い出したように顔を真っ青を通り越して、真っ白に染めながら震え出した。
「……百鬼夜行って奴らのこと?」
それにすかさず、ゾーイは淡々とフウタに問いかける。
「フウタ、何で……よりによって、どうして、奴らにゾーイ達のことを話したりしたんだよ……!?」
レオはひどい剣幕で、フウタに詰め寄ったが、フウタは俯くばかりで、何も答えはしなかった。
八方塞がりだと思った、その時……
「フウタ、あたし達から奪った武器、どこにやったの?」
「は……あ、この奥の……」
ゾーイは、フウタから質問の答えを聞くや否や走り出し、コックピットを出て行こうとする。
「ゾーイ! どこ行くの!?」
俺は慌てて引き止めるが、ゾーイは俺達を振り返ることなく……
「あんた達はコタロウ達と合流して外に出て。そして、止めて。わかった?」
そのまま走り去ってしまった……嵐が来る、そう俺は思った。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる