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第三章-⑹ サトルと菜々美とモーリス
大丈夫とは魔法の言葉
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「結論から言いますと、橘菜々美と雨野サトルは別れました」
泣き止んで、そして落ち着いて、その開口一番の言葉が橘さんのそれだった。
きっとこの場の誰も、その言葉に驚くことはなかっただろう……
「菜々美……」
「そんな暗い顔しないで? 薄々感じてはいたし、今回のことではっきりとわかって、よかったって思ってるの。これが情が湧いちゃって、離れられなくなった後じゃ、お互いに辛すぎるし……」
すると、橘さんの話なのに、何だか真由の方が辛そうで、泣きそうで……
俺は何て言ったらいいかわからず、俯くばかりだけど、ゾーイだけはいつも通りの真顔。
そんなめちゃくちゃな状況に当事者の橘さんは苦笑いをするばかり……
けど、言葉を紡ぐ橘さんは、やっぱり元気がないように感じた。
「それに私は……恋をして、どんどん成長している真由のことが羨ましくて、悔しくて、あとは自分だけが取り残されそうで、寂しかったんだと思うんだ……昴くんの話をしている時の真由は、本当に楽しそうで……」
橘さんは、ゆっくりと話をし始めた。
それを聞いて、俺が真由の顔を横目で覗くと、とても苦しそうだった。
自分が親友に、そんな思いを知らなかったとしてもさせてしまっていたという事実に、ショックを受けたのだと思う。
「そんな時に、昴くんの隣にいつもいるサトルが目に入るようになって、イケメンだし、頼りになるし、ナサニエルで顔とか広いし、そう思ったら、何か気になり始めた。けど、ほどなくして真由は昴くんと両思いになって……それで私、後を追うように、サトルに告白したの」
俺はサトルに橘さんと付き合うと報告された時のことを、思い出していた。
俺は真由と付き合えたこと、親友も同じタイミングで恋が実ったこと。
そんな青春ドラマの主人公のような展開に、俺達は浮かれ切っていたと思う。
本当に今思えばなんだけど、この時のサトルは終始ずっと冷静で、違和感を抱くべきだったんだよな……
「最初はすごく楽しかったの。けど、サトルの目に私が映っていないことがわかって、焦って、泣きそうになって、真由に八つ当たりして……」
「菜々美……大丈夫だよ? 本当に、全然気にしてないし……!!」
「けど、私ね? その時にとんでもなく最低な可能性に気付いたの……!!」
また話しながら、涙が零れそうになる橘さんの背中を真由が擦る、優しく……
しかし、橘さんは涙を浮かべつつ、絶対零さないようにと、なぜか頑なに我慢をしながら……そして、震えながら言葉を紡いだ。
「私は、真由と同じになりたかった。あとは、真由を恋愛とか昴くんに盗られたくなかった……私は、ずっとサトルのことを自分の感情のままに利用していただけなのかもしれないって……」
一気に言い切ると、橘さんは、また泣き出してしまった。
真由に強く抱きつきながら、まるで声にならない声を上げて、泣いていた。
自分の行いをひたすら後悔し、謝り続けていた。
けど、俺はあることを思い出して、その対象の人物を見上げる。
橘さんが告げた数々の事実が、真由と橘さんが喧嘩した日の夜に俺、真由、望を集めてゾーイが話した内容のまんまだったからだ。
当の本人は、真顔で抱き合って泣き続ける真由と橘さんを見つめている。
今回のことで、ゾーイへの謎は深まるばかりだったのに……君は一体、どんな人生を送ってきたんだい?
まあ、そんなことをいつか聞ける日がくるのだろうかと、どこか他人事のように考えていた時だ。
「菜々美、大丈夫。あんたは最低なんかじゃないよ」
そのゾーイの言葉で、橘さんの嗚咽は初めて止まった。
俺達は、まっすぐにゾーイを見た。
「少なくとも、あたしからのサトルへの菜々美の評価はほぼ満点よ。サトルことをすっごく大切にしてたと思う」
「……ふぇ?」
「利用なんかしてないわ。あんたは雨野サトルって人間を、ちゃんと愛してた」
「ぞぉ……うう!! わた、し……ああああああああ!!」
橘さんは、まっすぐにゾーイが広げた両腕の中に収まり、長い時間を子どものように泣きじゃくった。
それを見て真由が泣き、俺も少しだけ泣いてしまったけど、ゾーイは無表情だった。
けど、橘さんを抱き締める手を緩めることはなかった。
しばらくしてから、ようやく橘さんは落ち着きを取り戻して、真由が部屋に送って行った。
「はあ……まったく、帰って来たばっかりだってのに疲れた……」
「お疲れ様、ゾーイ」
「どうも……それじゃ、あたしは、夜ご飯まで一眠りするから」
力が抜けたように深いため息をつくゾーイ。
俺はそれがおかしくて、自然と自分でも驚くほどの柔らかい声が出ていた。
まあ、ゾーイは特にそこを気にする素振りもなく、部屋を出て行こうとベッドを立ち上がった。
「あ、ゾーイ! 夜に、話があるからサトルが部屋に来てくれって!」
けど、俺はサトルからの伝言を思い出して、とっさにゾーイに伝える。
「サトルが? あー、わかった」
ゾーイは、少し考えた後で了承し、手を振って、今度こそ部屋を出て行った。
俺の一日は、まだ長くなりそうだ……
泣き止んで、そして落ち着いて、その開口一番の言葉が橘さんのそれだった。
きっとこの場の誰も、その言葉に驚くことはなかっただろう……
「菜々美……」
「そんな暗い顔しないで? 薄々感じてはいたし、今回のことではっきりとわかって、よかったって思ってるの。これが情が湧いちゃって、離れられなくなった後じゃ、お互いに辛すぎるし……」
すると、橘さんの話なのに、何だか真由の方が辛そうで、泣きそうで……
俺は何て言ったらいいかわからず、俯くばかりだけど、ゾーイだけはいつも通りの真顔。
そんなめちゃくちゃな状況に当事者の橘さんは苦笑いをするばかり……
けど、言葉を紡ぐ橘さんは、やっぱり元気がないように感じた。
「それに私は……恋をして、どんどん成長している真由のことが羨ましくて、悔しくて、あとは自分だけが取り残されそうで、寂しかったんだと思うんだ……昴くんの話をしている時の真由は、本当に楽しそうで……」
橘さんは、ゆっくりと話をし始めた。
それを聞いて、俺が真由の顔を横目で覗くと、とても苦しそうだった。
自分が親友に、そんな思いを知らなかったとしてもさせてしまっていたという事実に、ショックを受けたのだと思う。
「そんな時に、昴くんの隣にいつもいるサトルが目に入るようになって、イケメンだし、頼りになるし、ナサニエルで顔とか広いし、そう思ったら、何か気になり始めた。けど、ほどなくして真由は昴くんと両思いになって……それで私、後を追うように、サトルに告白したの」
俺はサトルに橘さんと付き合うと報告された時のことを、思い出していた。
俺は真由と付き合えたこと、親友も同じタイミングで恋が実ったこと。
そんな青春ドラマの主人公のような展開に、俺達は浮かれ切っていたと思う。
本当に今思えばなんだけど、この時のサトルは終始ずっと冷静で、違和感を抱くべきだったんだよな……
「最初はすごく楽しかったの。けど、サトルの目に私が映っていないことがわかって、焦って、泣きそうになって、真由に八つ当たりして……」
「菜々美……大丈夫だよ? 本当に、全然気にしてないし……!!」
「けど、私ね? その時にとんでもなく最低な可能性に気付いたの……!!」
また話しながら、涙が零れそうになる橘さんの背中を真由が擦る、優しく……
しかし、橘さんは涙を浮かべつつ、絶対零さないようにと、なぜか頑なに我慢をしながら……そして、震えながら言葉を紡いだ。
「私は、真由と同じになりたかった。あとは、真由を恋愛とか昴くんに盗られたくなかった……私は、ずっとサトルのことを自分の感情のままに利用していただけなのかもしれないって……」
一気に言い切ると、橘さんは、また泣き出してしまった。
真由に強く抱きつきながら、まるで声にならない声を上げて、泣いていた。
自分の行いをひたすら後悔し、謝り続けていた。
けど、俺はあることを思い出して、その対象の人物を見上げる。
橘さんが告げた数々の事実が、真由と橘さんが喧嘩した日の夜に俺、真由、望を集めてゾーイが話した内容のまんまだったからだ。
当の本人は、真顔で抱き合って泣き続ける真由と橘さんを見つめている。
今回のことで、ゾーイへの謎は深まるばかりだったのに……君は一体、どんな人生を送ってきたんだい?
まあ、そんなことをいつか聞ける日がくるのだろうかと、どこか他人事のように考えていた時だ。
「菜々美、大丈夫。あんたは最低なんかじゃないよ」
そのゾーイの言葉で、橘さんの嗚咽は初めて止まった。
俺達は、まっすぐにゾーイを見た。
「少なくとも、あたしからのサトルへの菜々美の評価はほぼ満点よ。サトルことをすっごく大切にしてたと思う」
「……ふぇ?」
「利用なんかしてないわ。あんたは雨野サトルって人間を、ちゃんと愛してた」
「ぞぉ……うう!! わた、し……ああああああああ!!」
橘さんは、まっすぐにゾーイが広げた両腕の中に収まり、長い時間を子どものように泣きじゃくった。
それを見て真由が泣き、俺も少しだけ泣いてしまったけど、ゾーイは無表情だった。
けど、橘さんを抱き締める手を緩めることはなかった。
しばらくしてから、ようやく橘さんは落ち着きを取り戻して、真由が部屋に送って行った。
「はあ……まったく、帰って来たばっかりだってのに疲れた……」
「お疲れ様、ゾーイ」
「どうも……それじゃ、あたしは、夜ご飯まで一眠りするから」
力が抜けたように深いため息をつくゾーイ。
俺はそれがおかしくて、自然と自分でも驚くほどの柔らかい声が出ていた。
まあ、ゾーイは特にそこを気にする素振りもなく、部屋を出て行こうとベッドを立ち上がった。
「あ、ゾーイ! 夜に、話があるからサトルが部屋に来てくれって!」
けど、俺はサトルからの伝言を思い出して、とっさにゾーイに伝える。
「サトルが? あー、わかった」
ゾーイは、少し考えた後で了承し、手を振って、今度こそ部屋を出て行った。
俺の一日は、まだ長くなりそうだ……
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