エリート希望者の地球再生記

第四章-⑴ 良い子は謎解きの時間だよ

今こそ空に帰る時である

「帰る準備って……え、帰る？」


　固まった空気が決して緩むことなく数分間、驚きすぎて声も出ない俺達の中で最初に聞き返したのは、デルタだ。


「は？　まさか、あんた達全員、このまま地上に骨を埋める気なわけ？　家族を捨てるの？　うわあ、揃いも揃って親不孝ね……田舎の母親達が泣くわよ？」
「待って！　ストップ、ゾーイ！　まだ何も言っていないどころか、私達全員が理解すらしていないから！」
「それによ！　ゾーイは特に、全員が久しぶりなのよ!?　感動の再会の一言目がそれは戸惑うから！　無理だから！」


　そんなデルタの戸惑いながらの返しに対して、ゾーイはまた斜め上すぎる返事を返すわけで。
　何か、ゾーイの手にかかったら、俺達全員いつの間にか、世紀の大犯罪者とかになってそうな気がするんだけど……
　それに真っ先に、真っ青な顔で慌てて止めに入った菜々美。
　続いて、ソニアもこれでもかと腕と首をブンブン振りながら、否定をする。


「あー、わかってるって。ちょっとした冗談ってやつじゃん？」
「ゾーイの場合、その冗談が冗談に聞こえないから怖いんだよ……そもそも、冗談を言う場面じゃないでしょ……」


　そんな二人には目もくれず、ケロリと悪気もなく言い返すゾーイだが、それにサトルは既に疲労困憊だと隠すこともなく肩を落として答えた。
　ソニアの言う通り、ただでさえ久しぶりのみんなだったのだが、ゾーイは特に懐かしさすら感じるほどの久しぶりの再会だった。
　ゾーイはずっと、レオ、モカ、コタロウとともに百鬼夜行との交渉係の中心を勤めていた。
　あの百鬼夜行との全面戦争寸前事件が終わった三日後には、ゾーイは俺達それぞれに役割を与え終わり、そのまま休むこともなく、百鬼夜行との長い俺達人類とのこれからのことについての交渉の話し合いに入ったのだ。
　百鬼夜行は、その複雑に枝分かれした傘下まで入れると、全部で何千人規模の大所帯になるほどの組織だった。
　本来は一匹狼の荒くれ者達がそこまで群れてる理由は、頂点に立つ者の影響でしかなく、そんな百鬼夜行のトップに君臨するのが、何とゾーイが一発逆転で倒した例のピットブルの犬族だった。
　そのピットブルとゾーイの交渉の場での対面は、後からレオが話してくれたけど、生きた心地がしなかった、それほど空気は最悪だったと言っていた。
　あと、モカは失神寸前で、コタロウはずっと死地に赴くのかというほど臨戦態勢だったとも、教えてくれたっけ……
　しかし、さすがはゾーイ・エマーソンというべきか、そんな空気や百鬼夜行の面々の殺気に臆することなく、交渉を見事に押し進めたのだとか。
　多少の時間はかかったが、無事に俺達人類の安全は保証され、それどころか百鬼夜行は王国に何かあったら駆け付けるという契約まで結んだという……
　

「お前、今までどこに行ってたんだ。結構長い間、姿が見えなかったぞ」


　長い思考に入っていると、アランのその言葉で俺は我に返った。
　アランは眉間にシワを寄せて、それは険しい顔で問いただしていた。
　その言葉に、また俺達の視線は一斉にゾーイに集まっていく。
　そう、アランの言う通り、百鬼夜行との交渉が済んだ後、ゾーイはしばらくはナサニエルと王国の二つの全体の管轄をしており、それぞれのリーダーの報告を受けながら改善点を正していくという睡眠時間なんてあるのかというほどの目が回るような仕事をしていたのだが、ある時、ゾーイはパッタリとその姿を見せなくなったのだ。
　さすがに疲れが出たのだろうかと最初は誰もが思っていたのだが、真由に聞くと王国の家のゾーイの部屋には帰った痕跡がないと言うものだから、俺はてっきりどこかに篭って作業をしているのかと思っていた。


「あー、ちょっと道が続く限りで日本を一周してたのよね。もう九か月だし、空島からの救援部隊とかが、どこかに着陸してるんじゃないかって捜してたの」


　しかし、これまた君から返ってきた答えってやつは、俺達の予想なんて軽々と笑って超えていくものなんだよね？
　ほら、その証拠に、ゾーイは、真顔で淡々と話すんだもの……