エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第四章-⑴ 良い子は謎解きの時間だよ

俺達は怖くないからね

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「とか……まあ、そんなご都合主義の奇跡はなく、行けども行けども、荒廃都市と自然が広がっているだけでさ。空島の欠片もなかったわね」


 そのゾーイの見事に期待を打ち砕く言葉を聞いた途端に、あっという間にその場は大昔に地上時代のエンターテインメントの一つであったコントの名場面に早変わり。
 俺達は全員で、その場に綺麗に雪崩のように崩れ落ちたのだった。


「いやあ、これでもかってぐらいに日本一周する勢いで自動車をかっ飛ばしたのはいいんだけど、本当に景色とかまるで変わらなくて最後の三日間とか飽きてたぐらいなのよね。まあ、いい気晴らしにはなったかなって感じ? 暇なら、意外と暇ならおすすめよ、日本一周擬き十日間ツアー的な感じで?」


 俺も、誰も声が出なかった……というより、この凍りついた空気の中でどんなことを第一声として発することが正解なのか、誰もわからなかったと言った方が正しいのかもしれないな。
 本当に、ゾーイ・エマーソンという普通の人間の仮面を被った魔女のような少女は、俺達の心を弄んで、操るのが誰より上手いと思い知ったよ……


「おーい? 全員揃って、いつまで床に挨拶してるわけ?」
「お前な……誰のせいで、俺達が床におはようを言うような、間抜けな体制になったと思ってんだ!」
「え? もう朝は終わりじゃない? 時間的に、こんにちはじゃないの?」
「今はここで、そんなムカつく正論はどうでもいいんだよ! とにかく、紛らわしい言い方をするな! お前はどこまで人騒がせになれば気が済むんだよ! 俺達のこの入り乱れまくった心の拠り所はどこにあるんだよ!」
「そんなわけで、もう空島の救援部隊を待つのは待ちくたびれたし? 自分達で空島に帰ろうとしなけりゃ、きっと一生帰れないだろうなって察したのよ」
「無視してんじゃねえよおおおおお!!」


 そうこうしてるうちに、ゾーイからはボケなのか本気なのかわからない言葉が飛んできた。
 それに対して、一番早くに立ち直った望が指摘をしてから、ゾーイがさらに望の怒りを買うというお決まりの流れ。
 本当にどこまでもマイペースっていうのか、自分中心っていうのか……
 そんなゾーイに負けず挫けずに、望は鋭すぎて共感しかないツッコミを入れてくれたのだが、ゾーイはついに完全に無視をするという作戦に出たので、望の虚しい叫びはコックピットと俺達の心に響き渡るだけで終わってしまった。
 弟よ……お前はよくやってくれたよ。
 この場の全員が、きっと心の中でお前を称えていたよ……うん、心の中でね。
 口では勝てるわけがないもん、許してくれ、弟よ。


「それで、あんた達の意見は?」


 まあ、けど、そのままマイペースに話を進めるゾーイにも慣れた。
 慣れすぎて、居心地が良すぎて、毎日を笑って過ごしているけれど、俺は空島の存在を忘れたことなんてなかった。
 そのことを思い知らせて、俺達全員を立ち上がらせるのは、やっぱり君なんだね?
 君はいつだって、俺達に前を向かせて地図をくれる……その地図を見ながら舵を切るのは、ゾーイがいいなと俺は思うようになっていた。


「帰ろう」


 俺のやけに響いたその言葉に、ゾーイ以外の全員が振り向いた。
 そりゃそうだ、ここまでずっと大した発言もしていなかったし、まあゾーイの無茶苦茶ぶりに呆気にとられて言葉が出なかったってだけだけど……
 一方で、ゾーイは待ってましたとばかりに、ニヤリと笑うのだ。
 驚いていない素振りを見ると、やっぱり君は俺の考えなんてお見通しなんだなと、思い知る。


「俺は、空島に帰りたいと思う!」


 それぞれに待ってくれている愛しい存在がいて、未来に向けてたくさんやらなきゃいけないこともあって……
 それぞれがそれぞれに解決して前に進まなきゃいけないこと、選択を迫られて何かを決めなきゃいけなかったり……
 俺達の人生はまだ始まったばかり、これからとても長く続いていく。
 けど、この先の未来に何があってもこの地上での経験が、俺達を支え続けて後押しをしてくれるはずだ。
 名残惜しいけど、俺達は空に帰るべき存在ってことは、変わらないんだ。
 そんな俺の言葉に、みんなは顔を見合わせて、そしてゆっくりと頷く。


「そうこなくっちゃね?」


 何より、ゾーイ・エマーソンという存在と出会えた俺達は、この世で無敵だとさえ思えるからね――
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