エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第四章-⑴ 良い子は謎解きの時間だよ

跡が残るよ強く握らないで

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「それじゃ、さっそくだけど、殺人犯を見つけるわよ?」
「はあ? よりによってそこからなのかよ~! 振り出しじゃねえか!」
「きっ、気のせいかな? 思い出しただけで、寒気が……!!」


 善は急げということなのか、やっぱりゾーイはこの後の動きをもう考えていたようで、さっそく俺達に指示を出す。
 しかし、その指示を聞いて、シンのように頭を抱えて落胆する者、ジェームズのように全身を抱き込み震える者と、それぞれに反応は様々だった。
 何だか、懐かしいな……あの九か月前に、このコックピットで俺達十五人の怒涛の日々が……待てよ?


「ね、ねえ! 殺人犯って何の話!?」
「何で、みんな知っているの!? もしかしてだけど、そのことを知らないのって私達三人だけ!?」


 コックピットに十五人というその数字に、俺は激しい違和感を覚えた。
 そして、その違和感は怯えたような震える声の菜々美と真由によって、明らかとなる。


「は? どうして、菜々美と真由があの遺体のこと知らないの!? あの日、ここにいたでしょ?」
「いや、待って。思い出した! というより、忘れてたんだ……あの日、コックピットには、真由と菜々美、そしてローレンさんの三人はいなかったよ!」
「そうだ! 昴の言う通り、あの日は僕と昴だけで、三人とは別れてコックピットに向かったんだ! その途中ぐらいで昴と望がぶつかって……」


 驚いている二人に、すかさずソニアが指摘をするが、俺は待ったをかける。
 そうだ、今の今まで忘れてた……その俺の言葉を補足するようにサトルが話を進める。
 ゆっくりと、記憶を紐解いていくように思い出しながら……
 そうだ、あの日に俺はサトルと逃げ遅れた人がいないかを捜しに戻って、その道中で俺と望は出会い頭にぶつかって喧嘩をして……


「次に、あたしと出会ったってわけか」


 そう、俺と望が言い争いをしている横を、偶然君が……ゾーイが通りかかって俺達全員の歯車が動き出したんだ。


「そうだな。確かにあの日、ゾーイと出会って、そのまま走り出すゾーイを俺達全員で追いかけた。その時に、三人の姿はなかったな」
「何だか、不思議な感覚です。私達は全員で最初からずっと、行動を共にしてたとばかり思っていましたから」


 望は頭を捻りながら、あの日の流れを思い出すように話していた。
 それを聞いて、意外にもモーリスが今までなら考えられないような感傷に浸るような言葉を告げたのだ。
 しかし、そのモーリスの言葉には共感しかなかった……むしろ、不本意だったとはいえ、思わぬ隠し事が出てきたことに若干の動揺すらある。
 それぐらいに、俺達の中に隠し事がなくなってたのだなと思い知るのだが。


「じゃあ、あたしが思い出せる限りで説明するから、三人とも聞いといてよ?」
「まっ、まま、待ってよ、ゾーイ!」
「遺体って……遺体って何なの!?」


 どうやら、ゾーイが自ら説明を引き受けてくれるようなので、俺達は見守ることにした。
 けど、一方で、まだ予想外のワードの連続を受け止めきれていないだろう真由と菜々美の二人は、お互いの手を取り合って、縮こまりながらゾーイに必死に詰め寄っていた。


「は? 遺体は遺体よ。人の死体よ、決まってるでしょ?」
「何何何何何何何!? あの日に、ここで何があったの!?」
「そんな、今から……わたっ、わ……私達は何を……!! 聞かされ……!!」


 しかし、予想通りに、そんな二人の心中などはお構いなしの様子で、ゾーイは身も蓋もないことを言い出して、さらに二人をパニックに陥らせている始末。
 真由は取り乱しまくってて、菜々美に関しては、今にも泣きそうだった。
 

「真由、菜々美、落ち着けって! 大丈夫だから、なっ? そして、ゾーイ! お前は、もうちょっと言い方ってものがあるだろうが……」
「デルタ。こいつに人並みの思いやりを求めるだけ、時間の無駄だ」


 見かねたデルタが、真由と菜々美を宥めて、その反対にゾーイには呆れたように声をかけてるが、まあ、いつも通りに聞いてないわけで……
 そんな様子が想像できたのか、アランはゾーイのことを見ることもせずに、諦めたように冷たく吐き捨てるのだった。


「にしても……ねえ? 遺体って聞いた時から手の震え尋常じゃないけど、大丈夫なの? シャノン」


 それに何より、ゾーイの興味は意外なところ……ローレンさんの様子にあったようで、声をかけていた。
 俺もつられてローレンさんの方に向き直ったのだが……


「心配しないで……? 遺体なんて言葉を聞いて、驚いただけだから……」


 確かにその様子は、ゾーイが言うように尋常ではないものだった。
 大量の冷や汗と、落ち着きのない青の中に混じる茶色の瞳、白い肌が変色するほど腕を掴んで、全身の震えを必死に押さえ込もうとしてるその様は、ものすごく不気味で怖かった……


「あら、そう? じゃあ、少し酷だとは思うけど、しっかり聞いててね?」


 しかし、俺はそれよりも、そんな様子のローレンさんの言葉を特に指摘することもなく流すのに、目の奥に一切の笑みを浮かべずに返事をした、ゾーイの方が何倍も恐ろしかった。
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