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第四章-⑵ ナサニエル墜落事件の真相
彼女はグランドデュギャダー
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「簡単な仕掛けよ? 大量の輸血袋をマネキンに巻き付けて、あとは暗闇の中に立たせておく。そしたら、あとは野となれ山となれってやつかしら?」
ゾーイは床に転がる血だらけの男のマネキン踏みつけて、放心状態に陥ってるローレンさんに無表情で言い放った。
ほら、やっぱり、こういう恐ろしい展開が待っていた。
ゾーイが電気をつけた時は、まだ明るさに目が慣れておらず、俺の視界はボンヤリとしていたが、慣れてきてはっきりとカメラのピントが合うように視界が開けると同時に、俺は自分の目を疑った。
だって、そこには血まみれで自分が殺したのだと泣き叫ぶローレンさんと、その後ろには、血だらけの男のマネキンが一体転がっているという不気味な光景があったのだから。
ずっと、今まで俺はローレンさんが何を言っているのかが理解できなかった。
それはきっと、みんなもそうで……ゾーイ以外は、目の前の光景に怯えていたと思う。
「それで? 念のために、もう一度聞くけどさ、誰に襲われたって?」
「あ……あの……!!」
「まさか、マネキンが突然動き出したのとか、そんなファンタジーな展開あるわけないじゃん? ねえ、シャノン? 誰に襲われて、抵抗したの?」
「……こんなの、こんなこと……!!」
ゾーイは言葉にならない悲鳴を上げるパニック状態のローレンさんに、ゆっくりと追い討ちをかけるように問うのだ。
あのゾーイの無表情は、時に人の心を深くエグる。
その証拠に、ローレンさんはすっかり怯えきっていた。
「……ゾーイ」
「何? アラン?」
「まず、いつも言ってるが、俺達に何がどうなってこうなったのか説明しろ。お前は、ことごとく説明不足だ」
そんな進展のしない状態を見限ってなのか、ローレンさんの取り乱す姿を気にしながら、アランは呆れたように静かにゾーイに問う。
「別に、あたしはただ、シャノンにこう言ったのよ。ナサニエル墜落を仕組んだ犯人がわかったから、二十三時に五階の奥の空き部屋に招集をかけた。けど、全員が集合する三十分前にその犯人だけを呼び出して、二人だけで話をするつもりってね? そしたら、不思議。この血溜まりの現場の出来上がりってわけよ」
すると、ゾーイは面白そうに、まるでショーでも演じ終えたかのようにゆっくりとお辞儀をしながら、この状況を説明してみせた。
本当に気持ちのいいほどに、ゾーイのローレンさんを煽っていく様に、俺達は苦笑いするしかなかった。
「ねえ、ゾーイ? 君は、どこまで計算していたの……?」
「……さあ?」
そして、レオからの恐る恐るの問いかけを、ゾーイは少し考えた後で白々しく誤魔化した。
ああ、この顔をする時のゾーイは、これ以上は答えないって時の顔だ。
そのことをもう俺達はこの上なく理解しているから、誰一人としてそれ以上は聞かなかった……追求するだけ無駄だ。
実際、ゾーイがどこまで計算をしてたのなんてことは、わからないだろう。
「まあ、けど、シャノンにとっては、今回のチャンスを生かさないなんて選択肢はなかったでしょうね。だって、せっかく、他の人間に疑いの目が向けられてるわけだし? やり合ったって見せかけて相手を殺して、自分には一生疑いの目が向かないようにしたかったわよね?」
けど、これだけは言える……ゾーイは絶対の自信がすべてにおいてあったのであろうと。
何よりも、そう物事が動くように運命の筋書きを塗り替えるのが、人よりゾーイは何十倍も上手いと、俺は思う。
「けど、残念ね? 焦りすぎてて、マネキンの硬さとか、抵抗がないこととか、悲鳴を上げないこととか、ナイフを突き刺した時の感触とか、その他の違和感に気付かなかったんだもん。偽造工作に気を取られたのが今回の反省点ね?」
ゾーイは、ローレンさんに、まるで小さな子どもをあやすような口調で、不気味なほど優しく穏やかに話しかける。
何度も言ってるけど、本当にいつかゾーイが殺されないか心配だ。
「私を、騙したの……!?」
「あらやだわ、自分の行いを棚に上げる気ですか? ずっと、あたし達のことを騙して、欺いて、素知らぬ顔をしてたのはあんたでしょ? シャノン?」
これまで決して、自分の感情を表に出さなかったローレンさんだが、今回ばかりは抑えられなかったのだろう。
怒りと絶望を隠しもせず、ゾーイに真正面から言葉を吐き捨てていた。
けど、そんなローレンさんのことはどこ吹く風で、ゾーイは今も面白そうに不気味に笑うのだ。
「それは……!! そもそも、一体、何の根拠があって……!!」
「荻凛太郎」
当事者だったら我慢ならないゾーイの態度に、ついにローレンさんが立ち上がってゾーイに食ってかかろうとしたが、それはゾーイのたった一言で、言葉が音になることはなかった。
ローレンさんは、真っ青を通り越した真っ白な顔で固まってしまった。
「聞いたことあるでしょ? 今日の夕方に、荻凛太郎の書いた手記が図書室の隠し空間から見つかってさ」
すると、ゾーイは夕方に見つけた、例の荻凛太郎の青い文庫本サイズの手記を取り出して、ローレンさんに見せる。
その手記を見た途端、ローレンさんはこれでもかと目を見開いて、ますます顔色を悪くさせていく。
そんな尋常でないローレンさんの様子と、突然目の前に現れた荻凛太郎の名前と手記という、とても敏感な単語に俺の中の緊張は間違いなく、人生の最高潮に達していた。
「そこにはこう書かれていたわ……神の領域である空に足を踏み入れた我々人間は、まるで神のような空にふさわしい存在にならなければいけないという神変動説を唱えている過激派の中心の一族の名を……ローレン家と言うってさ」
そして、ゾーイはいつも通りに淡々と言葉を紡ぐ……何でもないように。
「あんたの名前も、ここに書かれている名前もローレン。これってどんな偶然なの? 現空島首相であるマイルズ・ローレンの孫娘、シャノンさん?」
ゾーイは床に転がる血だらけの男のマネキン踏みつけて、放心状態に陥ってるローレンさんに無表情で言い放った。
ほら、やっぱり、こういう恐ろしい展開が待っていた。
ゾーイが電気をつけた時は、まだ明るさに目が慣れておらず、俺の視界はボンヤリとしていたが、慣れてきてはっきりとカメラのピントが合うように視界が開けると同時に、俺は自分の目を疑った。
だって、そこには血まみれで自分が殺したのだと泣き叫ぶローレンさんと、その後ろには、血だらけの男のマネキンが一体転がっているという不気味な光景があったのだから。
ずっと、今まで俺はローレンさんが何を言っているのかが理解できなかった。
それはきっと、みんなもそうで……ゾーイ以外は、目の前の光景に怯えていたと思う。
「それで? 念のために、もう一度聞くけどさ、誰に襲われたって?」
「あ……あの……!!」
「まさか、マネキンが突然動き出したのとか、そんなファンタジーな展開あるわけないじゃん? ねえ、シャノン? 誰に襲われて、抵抗したの?」
「……こんなの、こんなこと……!!」
ゾーイは言葉にならない悲鳴を上げるパニック状態のローレンさんに、ゆっくりと追い討ちをかけるように問うのだ。
あのゾーイの無表情は、時に人の心を深くエグる。
その証拠に、ローレンさんはすっかり怯えきっていた。
「……ゾーイ」
「何? アラン?」
「まず、いつも言ってるが、俺達に何がどうなってこうなったのか説明しろ。お前は、ことごとく説明不足だ」
そんな進展のしない状態を見限ってなのか、ローレンさんの取り乱す姿を気にしながら、アランは呆れたように静かにゾーイに問う。
「別に、あたしはただ、シャノンにこう言ったのよ。ナサニエル墜落を仕組んだ犯人がわかったから、二十三時に五階の奥の空き部屋に招集をかけた。けど、全員が集合する三十分前にその犯人だけを呼び出して、二人だけで話をするつもりってね? そしたら、不思議。この血溜まりの現場の出来上がりってわけよ」
すると、ゾーイは面白そうに、まるでショーでも演じ終えたかのようにゆっくりとお辞儀をしながら、この状況を説明してみせた。
本当に気持ちのいいほどに、ゾーイのローレンさんを煽っていく様に、俺達は苦笑いするしかなかった。
「ねえ、ゾーイ? 君は、どこまで計算していたの……?」
「……さあ?」
そして、レオからの恐る恐るの問いかけを、ゾーイは少し考えた後で白々しく誤魔化した。
ああ、この顔をする時のゾーイは、これ以上は答えないって時の顔だ。
そのことをもう俺達はこの上なく理解しているから、誰一人としてそれ以上は聞かなかった……追求するだけ無駄だ。
実際、ゾーイがどこまで計算をしてたのなんてことは、わからないだろう。
「まあ、けど、シャノンにとっては、今回のチャンスを生かさないなんて選択肢はなかったでしょうね。だって、せっかく、他の人間に疑いの目が向けられてるわけだし? やり合ったって見せかけて相手を殺して、自分には一生疑いの目が向かないようにしたかったわよね?」
けど、これだけは言える……ゾーイは絶対の自信がすべてにおいてあったのであろうと。
何よりも、そう物事が動くように運命の筋書きを塗り替えるのが、人よりゾーイは何十倍も上手いと、俺は思う。
「けど、残念ね? 焦りすぎてて、マネキンの硬さとか、抵抗がないこととか、悲鳴を上げないこととか、ナイフを突き刺した時の感触とか、その他の違和感に気付かなかったんだもん。偽造工作に気を取られたのが今回の反省点ね?」
ゾーイは、ローレンさんに、まるで小さな子どもをあやすような口調で、不気味なほど優しく穏やかに話しかける。
何度も言ってるけど、本当にいつかゾーイが殺されないか心配だ。
「私を、騙したの……!?」
「あらやだわ、自分の行いを棚に上げる気ですか? ずっと、あたし達のことを騙して、欺いて、素知らぬ顔をしてたのはあんたでしょ? シャノン?」
これまで決して、自分の感情を表に出さなかったローレンさんだが、今回ばかりは抑えられなかったのだろう。
怒りと絶望を隠しもせず、ゾーイに真正面から言葉を吐き捨てていた。
けど、そんなローレンさんのことはどこ吹く風で、ゾーイは今も面白そうに不気味に笑うのだ。
「それは……!! そもそも、一体、何の根拠があって……!!」
「荻凛太郎」
当事者だったら我慢ならないゾーイの態度に、ついにローレンさんが立ち上がってゾーイに食ってかかろうとしたが、それはゾーイのたった一言で、言葉が音になることはなかった。
ローレンさんは、真っ青を通り越した真っ白な顔で固まってしまった。
「聞いたことあるでしょ? 今日の夕方に、荻凛太郎の書いた手記が図書室の隠し空間から見つかってさ」
すると、ゾーイは夕方に見つけた、例の荻凛太郎の青い文庫本サイズの手記を取り出して、ローレンさんに見せる。
その手記を見た途端、ローレンさんはこれでもかと目を見開いて、ますます顔色を悪くさせていく。
そんな尋常でないローレンさんの様子と、突然目の前に現れた荻凛太郎の名前と手記という、とても敏感な単語に俺の中の緊張は間違いなく、人生の最高潮に達していた。
「そこにはこう書かれていたわ……神の領域である空に足を踏み入れた我々人間は、まるで神のような空にふさわしい存在にならなければいけないという神変動説を唱えている過激派の中心の一族の名を……ローレン家と言うってさ」
そして、ゾーイはいつも通りに淡々と言葉を紡ぐ……何でもないように。
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