208 / 257
第四章-⑵ ナサニエル墜落事件の真相
大根役者と名女優の怖さ
しおりを挟む
「……な、何があったんだ?」
無理矢理に闇から開かれた視界と、鼻をつんざく血の臭いと、不気味なほどに静まり返った空間。
そんな中で、ローレンさんに一番に震えながら声を絞り出したのは、まるで幽霊でも見たかのような真っ青の顔に染まったサトルだった。
「この人が……!! 急に私に襲いかかって来たの! それで抵抗して……!!」
サトルの質問に対し、ローレンさんは大きく取り乱しながら答えた。
そんなローレンさんの答えを、俺もサトルと同じように……いや、違うな。
おそらく、その時の俺達は、ほとんど全員が今にも倒れそうな真っ青な顔で、そのローレンさんの話を聞いていたのではないだろうか。
「わた、し、怖くて……それで、必死で仕方なくて……!! ああ、けど、私は何てことをしてしまったの……!!」
ローレンさんは顔を、血で真っ赤に染まった両手で覆いながら、悲痛な叫びを上げた。
その光景を前に、誰もが足がすくんで動けなかったことだろう。
何なんだ、これ……? 俺は今、何か悪い夢でも見ているのだろうか。
そして、君は、どこまで未来を操れてしまうの……?
「あー、それじゃ、シャノンの話をまとめるとよ? シャノンがこの空き部屋に来た時には、すでにこいつが中で待ち構えていて、襲われた。それで、とっさに抵抗をしたと……」
動くことも、喋ることさえも、何もできずにいた俺達……そんな俺達の輪を抜け出したのは、ゾーイだった。
ゾーイは座り込むローレンさんと視線を合わせるようにその場にしゃがみ、ローレンさんの話の内容をまとめていく。
「え、ええ……そうよ!」
「この大量の血は?」
「ごめんなさ……!! 何度も……護身用に持っていたナイフで、何度も刺してしまって……それで、気付いたら……!!」
「大丈夫。大丈夫よ? シャノンは今のこの状況では、何一つ責められることはしていないから」
ローレンさんは何度もゾーイの言葉に頷きながら、必死に訴えたが……すぐに我に返ったように絶望の叫びを上げる。
そんなローレンさんにゾーイはこれ以上ないほどの穏やかな声で話しかけ、そして背中を、何度も優しく摩る。
「ああ……!! ゾオオオオオイ! 私は本当に取り返しのつかないことを……!!」
「大丈夫だから、落ち着いて?」
ローレンさんは目に涙を浮かべ、見たこともないほど優しいゾーイの顔を安心したように、縋るように見つめる。
――俺には、その目の前の光景が恐ろしくてたまらなかった。
「ねえ、ところでさ……あんたの、その下手な芝居はいつ終わるの?」
だって、君は……ゾーイは平気で人の心を奈落の底に突き落とすから。
「……は?」
さっきまでの、まるで聖母のような声とは打って変わって、ゾーイはひどく冷淡な声をその場に響かせた。
あまりの変わりようと、その言葉の意味に理解が追いつかないのか、とても間の抜けたローレンさんのその言葉は零れ落ちていた。
「ねえ、教えて? あんたを襲った相手ってのはさ、後ろに倒れてるスタイル抜群なそいつのこと?」
「は、え……? スタイルなんか、見る余裕なんて……」
「あー! そうだわ! 真っ暗で何も見えなかったんだもんね? じゃあさ、今思う存分、見なよ。あんたが滅多刺しにしたって言う、相手のこと」
ゾーイはいつもと同じような、淡々とした態度と、少し……いや、ものすごく相手の神経を逆撫でするような口調でローレンさんに問いただす。
すると、ローレンさんはゾーイからの質問に対し、わけがわからないと言いたげな戸惑った様子で答えたが……
すぐにゾーイは、その言葉を遮ったかと思うと、立ち上がって、とある場所に歩く。
「キャッ!! ゾーイ、何を……!!」
そして、今のこの鼻をつんざく匂いの大量の出血のもととなったモノを、ローレンさんの前に蹴り飛ばした。
急な奇行ともとれるそのゾーイの行動に、ローレンさんは非難するような声を上げるが……
「よく見なよ。それが息してるように見えるの?」
「え……何のこと……?」
それ以上にゾーイは、ローレンさんに対し、温度がなく、まるで感情の消えた言葉を浴びせた。
それを受けたローレンさんは、若干の怯えを見せながらも、自分のハンカチで血を拭い取り、目の前のそれを見た。
「こ、これは……!?」
そして、今までとはまるで違う、本当の絶望に染まった顔を、ローレンさんは浮かび上がらせた。
「知っているわよね? 空島にも普通にあるし……それ、マネキンよ?」
俺はやっぱりだと悟った……ゾーイはローレンさんのことを嵌めたのだと。
無理矢理に闇から開かれた視界と、鼻をつんざく血の臭いと、不気味なほどに静まり返った空間。
そんな中で、ローレンさんに一番に震えながら声を絞り出したのは、まるで幽霊でも見たかのような真っ青の顔に染まったサトルだった。
「この人が……!! 急に私に襲いかかって来たの! それで抵抗して……!!」
サトルの質問に対し、ローレンさんは大きく取り乱しながら答えた。
そんなローレンさんの答えを、俺もサトルと同じように……いや、違うな。
おそらく、その時の俺達は、ほとんど全員が今にも倒れそうな真っ青な顔で、そのローレンさんの話を聞いていたのではないだろうか。
「わた、し、怖くて……それで、必死で仕方なくて……!! ああ、けど、私は何てことをしてしまったの……!!」
ローレンさんは顔を、血で真っ赤に染まった両手で覆いながら、悲痛な叫びを上げた。
その光景を前に、誰もが足がすくんで動けなかったことだろう。
何なんだ、これ……? 俺は今、何か悪い夢でも見ているのだろうか。
そして、君は、どこまで未来を操れてしまうの……?
「あー、それじゃ、シャノンの話をまとめるとよ? シャノンがこの空き部屋に来た時には、すでにこいつが中で待ち構えていて、襲われた。それで、とっさに抵抗をしたと……」
動くことも、喋ることさえも、何もできずにいた俺達……そんな俺達の輪を抜け出したのは、ゾーイだった。
ゾーイは座り込むローレンさんと視線を合わせるようにその場にしゃがみ、ローレンさんの話の内容をまとめていく。
「え、ええ……そうよ!」
「この大量の血は?」
「ごめんなさ……!! 何度も……護身用に持っていたナイフで、何度も刺してしまって……それで、気付いたら……!!」
「大丈夫。大丈夫よ? シャノンは今のこの状況では、何一つ責められることはしていないから」
ローレンさんは何度もゾーイの言葉に頷きながら、必死に訴えたが……すぐに我に返ったように絶望の叫びを上げる。
そんなローレンさんにゾーイはこれ以上ないほどの穏やかな声で話しかけ、そして背中を、何度も優しく摩る。
「ああ……!! ゾオオオオオイ! 私は本当に取り返しのつかないことを……!!」
「大丈夫だから、落ち着いて?」
ローレンさんは目に涙を浮かべ、見たこともないほど優しいゾーイの顔を安心したように、縋るように見つめる。
――俺には、その目の前の光景が恐ろしくてたまらなかった。
「ねえ、ところでさ……あんたの、その下手な芝居はいつ終わるの?」
だって、君は……ゾーイは平気で人の心を奈落の底に突き落とすから。
「……は?」
さっきまでの、まるで聖母のような声とは打って変わって、ゾーイはひどく冷淡な声をその場に響かせた。
あまりの変わりようと、その言葉の意味に理解が追いつかないのか、とても間の抜けたローレンさんのその言葉は零れ落ちていた。
「ねえ、教えて? あんたを襲った相手ってのはさ、後ろに倒れてるスタイル抜群なそいつのこと?」
「は、え……? スタイルなんか、見る余裕なんて……」
「あー! そうだわ! 真っ暗で何も見えなかったんだもんね? じゃあさ、今思う存分、見なよ。あんたが滅多刺しにしたって言う、相手のこと」
ゾーイはいつもと同じような、淡々とした態度と、少し……いや、ものすごく相手の神経を逆撫でするような口調でローレンさんに問いただす。
すると、ローレンさんはゾーイからの質問に対し、わけがわからないと言いたげな戸惑った様子で答えたが……
すぐにゾーイは、その言葉を遮ったかと思うと、立ち上がって、とある場所に歩く。
「キャッ!! ゾーイ、何を……!!」
そして、今のこの鼻をつんざく匂いの大量の出血のもととなったモノを、ローレンさんの前に蹴り飛ばした。
急な奇行ともとれるそのゾーイの行動に、ローレンさんは非難するような声を上げるが……
「よく見なよ。それが息してるように見えるの?」
「え……何のこと……?」
それ以上にゾーイは、ローレンさんに対し、温度がなく、まるで感情の消えた言葉を浴びせた。
それを受けたローレンさんは、若干の怯えを見せながらも、自分のハンカチで血を拭い取り、目の前のそれを見た。
「こ、これは……!?」
そして、今までとはまるで違う、本当の絶望に染まった顔を、ローレンさんは浮かび上がらせた。
「知っているわよね? 空島にも普通にあるし……それ、マネキンよ?」
俺はやっぱりだと悟った……ゾーイはローレンさんのことを嵌めたのだと。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる