エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第四章-⑵ ナサニエル墜落事件の真相

誰もが狂う可能性の話

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「本当に、つくづくここは子どもには贅沢すぎる施設よね~?」


 呆れたような小言を言いながら、ゾーイは目の前のドアを開けた。
 その言葉に、きっと誰もが、お前も子どもだろうよって、心の中でツッコミを入れながら、俺達も後に続いた。


「さて、それじゃあ、シャノンのこと検査するからさ、医療科組はレントゲン準備してくれる?」
「あ、あのさ、ゾーイ……調べるって何をだよ?」


 俺達は全員で、ゾーイが言う通りに真由と菜々美の案内で、レントゲンが設置してある医療科の実習室にやって来た。
 こんな状況下で忘れかけてるけど、ナサニエルは空島最高峰のエリート育成施設だけあり、その学科に応じた実習設備は本当の現場とほぼ変わらないものだ。
 現に、ここ医療科の実習室には、ありとあらゆる医療機器が揃っているし、極端な話だけど、ほとんど大手の病院と変わらないだろう。
 常々思ってたけど、簡単な手術ならここでもできるんじゃないか……?
 けど、それより問題なのは到着した途端に、ゾーイは何の説明もなしに真由と菜々美にレントゲンの準備をしろと言うこの状況だな……本当にもう。
 それを見兼ねたデルタが、ゾーイに対し、呆れと混乱が交じったような口調で質問をしている。
 そして、俺はそのデルタからの質問に激しく同意だった……藪から棒にレントゲンって、どういうことなんだよ?


「……これよ」
「あれ? それって確か……デルタ達が見つけたやつか?」


 すると、デルタの質問や俺達の疑問溢れる視線に対し、ゾーイは一枚の紙を取り出して、俺達に見せた。
 そのことに一番に反応したシンの言う通り、ゾーイの手にあったものは、例の遺体の遺留品から発見された、右半分が白くて左半分が黒の、薄気味悪い大蛇だった。


「これは十中八九、ナサニエル墜落を仕組んだ組織のシンボルよ。単刀直入に言うけど、あたしは、これがシャノンの体のどこかにタトゥーとして刻まれてると思っているわ」


 ゾーイはローレンさんに向かって、真正面から、そう言い放った。


「シンボルって……まあ、ありえない話じゃないけど……けど、その前に、大蛇のタトゥーがあるってのは、飛躍しすぎじゃないか?」
「う、うん。僕もそう思うよ。昴の言う通りに、まずは、ローレンさんの身の回りとかを調べてからでも、そんなに遅くはないんじゃないかな?」


 一瞬の静まりはあったが、あまりの現実的とは思えない推理に、気付いた時には俺は迷わず声を上げていた。
 そんな俺の言葉に続いて、若干話の整理が追いついていないとでも言うように慌てながら、サトルもゾーイに告げる。


「はあ……あのね? この大蛇は犯人にとったら、最後の命綱みたいなものなのよ? そんな命取りになるものを、無防備にそこら辺に置いておくと思う?」
「え? あー、それは……」
「それに、ナサニエルの墜落を仕組んだ黒幕が現首相だったら、シャノンはその孫娘にあたるのよ? 血縁関係がある近しい人間への繋がりの証なんてものは、普通はいつ何時でも肌身離さずに持ち運べる何かとか、体の一部になってるってのが相場でしょ?」
「おっしゃる通りです……」


 けど、やっぱり、今回も俺達がゾーイに口で勝てるなんて奇跡が起こらず、その見事に隙のない次から次へと出てくる考察に、俺とサトルは情けなくも、ぐうの音も出なくなったのであった……


「けど、ゾーイ? あたし達、お風呂に一緒に入ったりしているけど、ローレンさんの体に痣とか、ましてや大蛇なんてどこにも刻まれてなかったよ?」


 落ち込む俺達を他所に、ゾーイに意見を出したのは、ソニアだった。
 確かに、この大蛇が何らかの形でローレンさんと繋がれば、それは決定的な証拠に繋がる。
 しかし、ソニアだけじゃなく、真由や他の女子達も同様の反応を見せていることから、根本的なゾーイの言うタトゥーというものが、ローレンさんの体に存在しないことを裏付けていた。


「そうよ……それに関しては、あなただって把握してるはずではないの? ゾーイ・エマーソン……?」


 一方で、宣言されたローレンさんはこれ以上ないほど無表情で、ゾーイのことを見ている。
 それに対して、ゾーイも一歩も引く気はないとでも言うように、ジッと……ローレンさんのことを見ていた。
 何なんだ……何の沈黙なんだよ?
 俺はそんな極度の緊張から喉が渇くのを感じていたが、そんな睨み合いを先に終わらせたのは……


「誰がこの期に及んで、体を調べるって言ったのよ」


 無表情で、普段より低くなった声を出した、ゾーイだった……


「え、えっと……ゾーイ? 調べるのが体じゃなかったら、どこを……」
「あたしが調べたいのは、ここよ」


 こんな状態のゾーイに話しかけるのは生きた心地がしなかったが、俺は勇気を振り絞って、ゾーイに尋ねた。
 すると、ゾーイは自分の体のある部分を指差して、はっきりとここだと告げたのだが……え?


「拒否したら、問答無用で丸坊主にするわよ?」


 ゾーイが指を差したのは、頭部……紛れもなく頭だった。
 俺はわけがわからず、全員の顔を見回してみたが、誰もが俺と同じ困惑した表情を浮かべてるだけだった。
 待てよ、ゾーイは頭が何だって? まさかだけど……そんな自分の考えに嫌な汗が浮かんだ時だった。


「ははっ……あっははははは! 本当に私は運がないわ。よりによって、あなたという存在に気付けず、こんな最悪な状況で出会ってしまうんだもの……私の最大の誤算は、ゾーイ・エマーソンという人間に、最初から目を付けられていたことかしらね……?」


 シャノン・ローレンが突如、その場で狂ったように笑い出したと思えば……










「そうよ? あの日、ナサニエルを墜落させたのは、私よ……?」
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