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第四章-⑵ ナサニエル墜落事件の真相
鬼ごっこは鬼の方が気楽説
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地上時代から医療技術も着実に進歩を遂げており、その一つが高精度レントゲンというものだ。
その用途に関しては、さほど変わってはいないのだが、単純に言うと見たいところ、調べたいところ、どんな病気や外傷も自由自在に確実に見つけられ、地上時代なら死亡率が高かった病気さえ早期発見が叶うようになり、近年の病気での死亡率は年々減少の傾向にある。
そんなレントゲンを、まさか俺の人生において、こんな使い方をすることになろうとは思ってもいなかった。
「これは、何歳の時に彫られたの?」
「さあ……? 遠い昔のことすぎて、覚えていないわね……まあ、あまり特に覚えていたいほどの記憶もないけど」
「あらそう。まあ、人それぞれよね」
ゾーイの質問に、ローレンさんは自虐ぎみに吐き捨てるように答えた。
そんな重い答えに対して、質問しておきながら大して興味なさそうにできるゾーイの神経が理解できないところ……
「こ、これってさ……空島では、当たり前だったりするの?」
「まさか……!! こんなことって……」
レオの答えがわかりきっていながら質問せずにはいられないという問いかけに対し、真由は食いぎみに叫んで、その後に言葉が続くことはなかった。
あの発言の後で、ローレンさんは証拠を見せると言い出し、打って変わって聞き分けよく自らレントゲンを撮るように命じた。
その結果が、俺達の目の前に出されたX線画像というわけだが……
俺達全員は……違うな、ゾーイとローレンさん以外の全員は、そのX線画像を前にして言葉を失っていた。
なぜなら、そこにはゾーイが予想した通り、ローレンさんの頭皮全体を覆い尽くすほどの、白黒の大蛇のタトゥーが刻まれていたからだ。
「このシンボルの意味は何? まあ、意味があればの話だけど」
「ああ、確か……白い蛇は縁起がいいとされてきたけど、この蛇はどちらともとれるって意味だった気がするわ」
「つまり? 良いことが起こる前には不幸が付き物だから、覚悟とかしとけとかそういう感じ?」
「まあ、ざっくりだけど……」
「ほほう。随分と救いのない自分本位なシンボルだこと。神聖さ皆無ね?」
そんな俺達の背負う重い空気なんて眼中にないとばかりに、ゾーイはローレンさんに大蛇の意味について質問をする。
こんな時でも通常運転をかましているゾーイに驚きながらも、ローレンさんは丁寧に答えていたのだが、ゾーイからの身も蓋もない感想を前にして、苦笑いを零すしかなかったようだ……
もう何ていうか……絶対にいつかバチ当たるよ、ゾーイ。
「とりあえず……そんな大昔に彫られたと。まあこれで、ナサニエル墜落計画だけでなく、その他もろもろのことも長きに渡る計画的な犯行だと裏付ける、証拠の一つになりそうね」
「は? 待て待て! ゾーイ、それってどういう意味だよ!?」
困惑真っ只中の俺達のことなんかはお構いなしに、ゾーイはさらに追い討ちの言葉を言い放った。
それを聞き逃すわけもなく、いち早くシンがゾーイに詰め寄っていた。
「荻凛太郎の手記のこととかを含めればわかるでしょ? ローレン家は、絶賛で頭がおかしい空島の反乱分子になりえる集団なのよ? ナサニエルの墜落は始まりに過ぎないってことよ。実際にそうでしょ? 極悪非道とはほど遠い腰抜けの殺人鬼さん?」
真っ青なシンとは対照的に、ゾーイは真顔で悪意の塊みたいな言葉の羅列をローレンさんに浴びせた。
隙がないってか……言葉全体が尖りまくってて、一周回って痛くないのではと思うほどの言葉の圧だった。
正直、俺はあの言葉を浴びたら、三日は再起不能になる自信があるが……
「あなたを出し抜くなんて、最初から無謀だったみたいね……?」
当の本人のローレンさんは、どこか諦めたように、少しスッキリしたように消えそうな笑みを浮かべていた。
「……すべてを話すわ。けれど、その前にあなたに一つだけ教えてほしいことがあるわ。ゾーイ・エマーソン」
「どうぞ、何なりとお申し付けを」
「ねえ、あなたはいつから……私のことを、疑っていたの」
そしてすぐに、決意をしたようにローレンさんは目付きを変えて、俺達に向き直って宣言をしたと同時にすぐ、視線はゾーイに移った。
一方で、ゾーイはいつも通りの緊張感の抜けていく返事をしてきたのだが、ローレンさんは流されなかった。
それどころか、深呼吸をして、この場の誰もが思っていたことを口にした。
ゾーイは何て答えるのか……不気味な空気が場を支配した。
「ねえ、あたしとシャノンがさ、初めて会ったのっていつだっけか?」
「地上に初めて探索しに行く時に、澤木くんと雨野くんを説得しているところに偶然、あなたが通りがかったのよ」
「そっか。じゃあ、その時だわ」
「は?」
まあ、そんな空気をものともしないゾーイの質問に、ローレンさんは正確に答えていたが……それに対してのゾーイの答えには、さすがに動揺を見せていた。
「初めて会った時から、あんたに目を付けてたってこと。そうそう、思い出してきたわ! あんたの、心が透けたようなその目が好きじゃなかったのよ」
「どういう意味よ……」
明るいゾーイと、困惑ぎみのローレンさん……そんな二人のテンションが対照的すぎて一瞬戸惑うが、確実にここはローレンさんが正解だ。
「だって、全員が先の見えない未来に絶望してる時に、あんたはまるで生きてることに絶望してるような空気読めない目をしてるんだもの。そんな目を見て、疑わない奴がいるわけ?」
真顔で言い放ったゾーイを見て、俺はあの日の言葉を思い出していた。
――「あの子のこと好きじゃないわ」
言葉の意味がここにきて、こんな形で繋がるなんて……
けど、鳥肌が立つと同時に、俺の中で嫌な胸騒ぎが巻き起こっていた。
その用途に関しては、さほど変わってはいないのだが、単純に言うと見たいところ、調べたいところ、どんな病気や外傷も自由自在に確実に見つけられ、地上時代なら死亡率が高かった病気さえ早期発見が叶うようになり、近年の病気での死亡率は年々減少の傾向にある。
そんなレントゲンを、まさか俺の人生において、こんな使い方をすることになろうとは思ってもいなかった。
「これは、何歳の時に彫られたの?」
「さあ……? 遠い昔のことすぎて、覚えていないわね……まあ、あまり特に覚えていたいほどの記憶もないけど」
「あらそう。まあ、人それぞれよね」
ゾーイの質問に、ローレンさんは自虐ぎみに吐き捨てるように答えた。
そんな重い答えに対して、質問しておきながら大して興味なさそうにできるゾーイの神経が理解できないところ……
「こ、これってさ……空島では、当たり前だったりするの?」
「まさか……!! こんなことって……」
レオの答えがわかりきっていながら質問せずにはいられないという問いかけに対し、真由は食いぎみに叫んで、その後に言葉が続くことはなかった。
あの発言の後で、ローレンさんは証拠を見せると言い出し、打って変わって聞き分けよく自らレントゲンを撮るように命じた。
その結果が、俺達の目の前に出されたX線画像というわけだが……
俺達全員は……違うな、ゾーイとローレンさん以外の全員は、そのX線画像を前にして言葉を失っていた。
なぜなら、そこにはゾーイが予想した通り、ローレンさんの頭皮全体を覆い尽くすほどの、白黒の大蛇のタトゥーが刻まれていたからだ。
「このシンボルの意味は何? まあ、意味があればの話だけど」
「ああ、確か……白い蛇は縁起がいいとされてきたけど、この蛇はどちらともとれるって意味だった気がするわ」
「つまり? 良いことが起こる前には不幸が付き物だから、覚悟とかしとけとかそういう感じ?」
「まあ、ざっくりだけど……」
「ほほう。随分と救いのない自分本位なシンボルだこと。神聖さ皆無ね?」
そんな俺達の背負う重い空気なんて眼中にないとばかりに、ゾーイはローレンさんに大蛇の意味について質問をする。
こんな時でも通常運転をかましているゾーイに驚きながらも、ローレンさんは丁寧に答えていたのだが、ゾーイからの身も蓋もない感想を前にして、苦笑いを零すしかなかったようだ……
もう何ていうか……絶対にいつかバチ当たるよ、ゾーイ。
「とりあえず……そんな大昔に彫られたと。まあこれで、ナサニエル墜落計画だけでなく、その他もろもろのことも長きに渡る計画的な犯行だと裏付ける、証拠の一つになりそうね」
「は? 待て待て! ゾーイ、それってどういう意味だよ!?」
困惑真っ只中の俺達のことなんかはお構いなしに、ゾーイはさらに追い討ちの言葉を言い放った。
それを聞き逃すわけもなく、いち早くシンがゾーイに詰め寄っていた。
「荻凛太郎の手記のこととかを含めればわかるでしょ? ローレン家は、絶賛で頭がおかしい空島の反乱分子になりえる集団なのよ? ナサニエルの墜落は始まりに過ぎないってことよ。実際にそうでしょ? 極悪非道とはほど遠い腰抜けの殺人鬼さん?」
真っ青なシンとは対照的に、ゾーイは真顔で悪意の塊みたいな言葉の羅列をローレンさんに浴びせた。
隙がないってか……言葉全体が尖りまくってて、一周回って痛くないのではと思うほどの言葉の圧だった。
正直、俺はあの言葉を浴びたら、三日は再起不能になる自信があるが……
「あなたを出し抜くなんて、最初から無謀だったみたいね……?」
当の本人のローレンさんは、どこか諦めたように、少しスッキリしたように消えそうな笑みを浮かべていた。
「……すべてを話すわ。けれど、その前にあなたに一つだけ教えてほしいことがあるわ。ゾーイ・エマーソン」
「どうぞ、何なりとお申し付けを」
「ねえ、あなたはいつから……私のことを、疑っていたの」
そしてすぐに、決意をしたようにローレンさんは目付きを変えて、俺達に向き直って宣言をしたと同時にすぐ、視線はゾーイに移った。
一方で、ゾーイはいつも通りの緊張感の抜けていく返事をしてきたのだが、ローレンさんは流されなかった。
それどころか、深呼吸をして、この場の誰もが思っていたことを口にした。
ゾーイは何て答えるのか……不気味な空気が場を支配した。
「ねえ、あたしとシャノンがさ、初めて会ったのっていつだっけか?」
「地上に初めて探索しに行く時に、澤木くんと雨野くんを説得しているところに偶然、あなたが通りがかったのよ」
「そっか。じゃあ、その時だわ」
「は?」
まあ、そんな空気をものともしないゾーイの質問に、ローレンさんは正確に答えていたが……それに対してのゾーイの答えには、さすがに動揺を見せていた。
「初めて会った時から、あんたに目を付けてたってこと。そうそう、思い出してきたわ! あんたの、心が透けたようなその目が好きじゃなかったのよ」
「どういう意味よ……」
明るいゾーイと、困惑ぎみのローレンさん……そんな二人のテンションが対照的すぎて一瞬戸惑うが、確実にここはローレンさんが正解だ。
「だって、全員が先の見えない未来に絶望してる時に、あんたはまるで生きてることに絶望してるような空気読めない目をしてるんだもの。そんな目を見て、疑わない奴がいるわけ?」
真顔で言い放ったゾーイを見て、俺はあの日の言葉を思い出していた。
――「あの子のこと好きじゃないわ」
言葉の意味がここにきて、こんな形で繋がるなんて……
けど、鳥肌が立つと同時に、俺の中で嫌な胸騒ぎが巻き起こっていた。
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