エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第四章-⑶ ラスボスとの直接対決

号外は人生終了のお知らせ

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 空から落ちたあの日――ずっと、俺はこの日を待ちわびていた。


「ハハハッ! 我々はやった! 空島時代はじまって以来の偉大なことを成し遂げたのだ!」
「全員、無事? 生きてるわよね?」
「ゾーイ! ああ、生きている! この上ないほどに健康だ! こんなところで死んでたまるかという話だ!」
「ああ、そう……それはよかったわね」


 着陸成功の喜びもそこそこに、ゾーイに続き、俺、クレア、モーリスがコックピットを出ると、開口一番に響いたのはハロルドの高らかな笑い声だった。
 ゾーイの呼びかけにも、ハロルドは興奮冷めやらぬままという感じで、普段の数段高めのテンションで話す。
 それを見ているゾーイの、まあ冷めた目と言ったら悲しくなるほどだ……


「昴! クレアとモーリスも! 本当にお疲れ様!」


 すると、盛大に青ざめているであろう俺のもとに、真由が笑顔でやって来る。


「真由、ケガとかしてないか? あ、望は?」
「私も望も、問題なしよ!」
「そっか……じゃあ、一安心だ」


 そう質問をした俺に笑顔で力こぶを作りながら答える真由と、奥の方でシン達とはしゃぐ望を確認して、俺はようやく心の底から安心することができた。

 
「まったく……しょうがないけど、僕達の心配はしてくれないのか?」
「まあ、そんなのいらないほど、快適な空の旅だったけどね?」


 そんな俺に、苦笑いで声をかけるのはサトルと菜々美だった。
 おっと、無意識のうちに望と真由の心配をするのが癖になってるな……


「よかった……正直、みんなの顔を見た途端に、すごくホッとしたわ……!!」
「数ある中の一つの課題を終えたにすぎませんが、この上ない達成感です……」


 けど、後ろからの、クレアの少し泣きそうな声と、モーリスの安堵の声が聞こえて、俺は口元が緩む。
 奇跡とかの類の言葉って、こういう時に使うんだろな。
 他のみんなも無事生きて帰って来たことが信じられないようで、機内は終始文字通りのお祭り騒ぎだったが……


「何か、映画のエンディングみたいな雰囲気流してるとこ悪いけど、さっさと次の段階に移るわよ? 窓の外見て」


 そんな夢見心地の俺達を、いつだって現実に引き戻すのは君の声だ。
 そうだ、本番はここからなんだから。
 ゾーイの声を合図に、俺達は一瞬で静まり返り、言われた通り窓の外を見る。
 ナサニエルの図書室にあった首相官邸の大まかな見取り図の通り、この飛行場は建物の裏に位置しているようだ。


「今のとこ、見えてるのは五人か」
「時間が経てば、もっと集まってくるだろうよ……もう行くのか?」


 アランの言う通り、視界で確認できるのは五人の男達。
 四人は、警戒レベルマックスの様子でこちらを睨みつけているが、一人は通信機であろうものに話しかけている。
 おそらく、仲間と連絡をとり、場所を伝えているのだろう……デルタの言う通り、人が集まるのは時間の問題だ。
 その五人の奥にはドアがあり、見取り図の通りだとすれば、あれは地下一階に続いているはず……


「当然よ。とりあえず、話はあたしが主導権握るから、あんたらは黙って笑顔で立っているだけでいいわ」


 デルタの問いに、ゾーイは淡々と普段通りに言葉を放っている。
 そして、ゾーイは振り向き、俺達全員と目を合わせて、全員が頷くことを確認していた。
 俺も覚悟を決め、首を縦に振る。
 大丈夫、俺達は何も今から戦争を始めようとしてるわけじゃないんだ……


「さて、ここからはスリル満点よ」
「……え?」


 けど、俺は飛行機の非常ドアの開閉ボタンを押しながら放たれたゾーイの言葉を聞き逃さなかった。
 そして、もう次の瞬間には全員が息を呑んだと思う……それは、ゾーイがニヤリと笑ったからだ。


「大人しく、そこどいてね。どかないと撃ちますよ~?」


 止めようとしたんだ……ゾーイの肩を掴もうとしたんだ。
 けど、気付いた時にはゾーイはその悪役よろしくのようなセリフとともに、拳銃を目の前の五人に向けていた。
 あまりの事態に、俺達は皮肉にもゾーイのさっきの指示通り、笑顔を振り撒くことが精一杯だった。


「何者だ! お前達は!」
「どこから来た! その後ろの得体の知れない乗り物はなんだ!」


 そして、次の瞬間には五人全員が俺達を敵の見なし、銃を向ける。
 けど、空島の銃は、ゾーイの持つ本物の拳銃とは違って、命中すれば数時間ほど痺れるといった電撃銃で、いわゆる牽制のために作られた見せかけだ。
 地上時代の教訓を活かして、空島発足と同時に、一切の銃の製造や流通や所持を禁止した。
 そのおかげで、今の空島では、銃の類は、すっかり映画やドラマの中だけのフィクションの存在になっているはずだ。
 それを今、我らが女王様は堂々と初めましての人間に向けている……
 ああ、何だろう、夢なら醒めてくれ。


「あー、名乗るほどの者ではないとか言っておくべき?」
「ふざけているのか!?」


 むしろ、ふざけていると、嘘でしたと誰か言ってくれ……頼むから!


「まさか! そもそもね、ふざけるなはこっちのセリフだよ、警備員さん?」
「何だ、と……!?」
「映画とかで、一度ぐらいは見たことがあるでしょ? この拳銃さ、命中した途端に人間の皮膚を貫通するのよ。その瞬間、血がこれでもかと流れ出して、当たりどころが悪けりゃ即死」


 俺達の絶望を他所に、ゾーイの煽りと脅しの言葉が留まることはなかった。


「面白い代物でしょ? わかったら、半径五メートルは離れて」
「そ、そんな、デタラメを……!!」


 耳をつんざく、久しぶりに聞いたその破裂音は俺に……あ、終わったと一瞬で思わせた。
 何がって? まあ、人生そのもの?
 とにかく、今一番重要なことは、ゾーイが空に拳銃を打ち、五人の大人が腰を抜かして距離をとった……
 もう俺達には、絶対に言い訳ができなくなった、それだけだ。


「はいよ、先手必勝。全員行くよ」


 ゾーイの言葉を聞いて、俺は無意識に吐き出していた。


「もう、どうにでもなれ……」
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