エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第四章-⑵ ナサニエル墜落事件の真相

八方美人の反対語って何だ

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「それで、あんたは殺しを終えて、あの遺体の男の身分を証明するものを一切合切持ち出して、コックピットを出たで合ってる?」
「そ、そうね……あとは、道すがら、監視カメラの細工を外したわ」


 さっきまでの全員を屈服させるようなオーラあるゾーイはどこへやら……ゾーイは、淡々といつも通りに何を考えてるのかわからない表情で話を進める。
 そんな様子のゾーイを相手にして、ローレンさんは疲弊しきっていた。
 そりゃそうだな……さっきまで恐怖で動けなくなるほどだったのに、この落差は混乱だよな。
 そういや、ナサニエルが墜落したあの日って、俺は廊下でうずくまってるローレンさんと出会って……待て?
 何気なく思い出していたあの日の記憶の真実……俺はその気付きたくなかったことに気付いてしまった。


「ウグッ……!!」
「え、ちょっと……昴!?」
「は? どうした!?」


 それを考え始めると、俺はすぐに胃の奥底から気持ち悪い何かがせり上がってくるような感覚に陥っており、慌てて口元を手で押さえた。
 俺の急な異変に、すぐさま隣にいた真由と望が声を上げながら、俺を支えてくれる。
 他のみんなからも、次々と心配するような声が上がるが、今の俺は大丈夫だと言えるほどの余裕がなかった。
 よく考えたらそうだった、俺が初めて出会ったあの日のローレンさんは、あの男を殺したばかりで……!!


「澤木くん、気付いたのね……?」


 そんなパニック状態の俺に話しかけてきたのは、最も最悪な相手だった。


「え、ローレンさん? それはどういう意味で……」
「不名誉で不本意よね? 善意だったとしても、数分前に他人の命を奪った人間に最初に触れてしまったなんて」


 真由の聞き返す言葉を遮り、ローレンさんは確信をついた……つまり、俺にトドメをさしたのだ。
 ニヤリと、背筋が凍るほどの不気味な笑みを浮かべながら……


「知らない間に、隣に殺人犯がいたって知った今の気持ちはどう? この殺人を犯したこの手で服を洗濯をしたり、食材を育ててきたのよ? それをあなた達は身に付け、食べてきたのよ?」


 全員の顔が恐怖に染まったであろう時を見計らって、ローレンさんはさらなる追い討ちをかけてきた。
 そこには、俺の知ってるシャノン・ローレンという少女はいなかった。


「みんな、後ろに下がれ……!!」
「……本性晒しやがったか!?」


 サトルと望が叫びながら、前に出て行き、他の男連中もそれに続いて、俺の盾になってくれた。


「昴、聞いちゃダメ! みんなもよ!」


 そして、真由は俺のことをしっかりと抱き締める……自分も震えてるくせに。
 忘れていた、ローレンさんは……目の前にいるシャノン・ローレンという人物は、すでに一人の命を奪ってる。
 生物というのは、極限状態に陥った時ほど、何を仕出かすかわからないんだ。
 そう、だから、君の行動も、やっぱり予想なんてできなかった。


「受け止められない? それに、ゾクゾクする? そりゃそう……ウッ!!」
「ねえ、誰の許可取って、こいつらを脅してるわけ?」


 これから、まさにこれからというべき場面で、ローレンさんは気付けば床に倒れており……違うな、我らが女王様、ゾーイが彼女の頬を平手打ちしたのだ。
 すごくいい音がしたのは、気のせいではないだろう。
 それと同時に、ゾーイの声がいつもの五割増しぐらいに低く聞こえたのも気のせいではないはずで……俺達の恐怖の対象は、一瞬にしてローレンさんからゾーイへと移っていたのだった。


「勘違いしてない? 今のあんたは、このあたしが許可をしてるから、特別に話をさせてやってんのよ? 今のあんたは聞かれたことに素直に答える人形なの。得意でしょ? 人に指示されれば、人殺しでも何でもするんだから」
「クッ……あ、ああ……!!」
「あたしは、あんたのことを殺したりはしないわ。けど、いつだって舌を切り落とすことぐらいできんのよ? 調子乗るのも大概にしな?」


 ゾーイは床に倒れたというよりも、倒したローレンさんに歩み寄り、目の前にしゃがんだかと思えば、ローレンさんの髪を掴んで無理矢理に上を向かせた。
 悲鳴を上げなかった俺達を、どうか褒めて欲しいと願う。
 ゾーイの顔は背を向けてるから見ることはできないが、上を向かされて苦しそうに呻き声を上げてるローレンさんの表情から察するに、きっと、一生目にしなくてもいい光景なのだろう……
 そして、ゾーイはやがて言いたいことを言い終えたのか、ローレンさんを解放して……
 

「あんたらも、情けないわね。こんな小物に脅されたぐらいで、何をそんなにビビってんのよ?」


 俺達に振り返り、深いため息とともにそう吐き捨てた。
 ある意味、君にとっては、全生物が平等なのだろうと、改めて君の偉大さとその異質さを痛感した。
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