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第四章-⑵ ナサニエル墜落事件の真相
救いなんてなかったんだ
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「さて、それじゃ最後の質問かな? ローレン家の皆様はさ、どんな世界を目指してあたし達を殺そうとしたの?」
ほら、君はまた俺達の心をそうやってぐちゃぐちゃにかき乱すんだ……
おかげで、ローレンさんへの恐怖はなくなっていたけど、代わりにゾーイは俺達の心に大きなトラウマを残したよ?
数秒前までとは舌切り落とすとか、冗談が冗談に聞こえないようなオーラを放っていたくせに……もう元通りだ。
こういうのを、ケロッとしてるなんて表現するんだろうな。
俺達は止めてた息を吐き出したり、震えが止まったか自分の手足を確かめたりしながら、再びローレンさんと真っ直ぐ向き直った。
それに対して、ローレンさんもゆっくりと立ち上がって、俺達を見回した後でゾーイを射抜くように見ている……
「知らないわ。私は、その新しい理想郷をどう頑張っても見ることができない予定だったから……ナサニエル墜落後の動きは、一切教えられてはいないの」
「ほほう。まあ、それもそうか。死人に口なしだしね?」
密かに警戒していたが、どうやら、無駄な抵抗はやめたのか、はたまた単純に諦めたのか、ローレンさんの言葉には嘘は感じられなかった。
そのことに関しては、ゾーイも納得をしたらしく、煽りながらも頷いている。
「……クソが!! どこまでも吐き気がする話だ! そもそもな? 黙って聞いてたけどよ、お前は、何百って人間を殺すことに疑問を持たなかったのかよ!?」
けど、今度はゾーイではなく、シンが怒りをあらわにし、怒鳴り声を上げた。
得体の知れない不気味さを醸し出すゾーイとは違って、シンのそれはとても正直なわかりやすい敵意だった。
突然のことに対して、その場の全員が口を噤んでおり、変な沈黙が流れる。
「この野郎、答えやが……!!」
「持たなかったわ! そうよ、何も疑問を持たなかったのよ! これが正しいことだって信じて疑わなかった! 任務を遂行して、私は死んで浄化されてまた生まれ変わった空島に生を受けるって、信じていたわ! けど……!!」
答えようとしないローレンさんと、その空気にイラついたのか、またシンはローレンさんに詰め寄ろうとするが、それは彼女自身によって阻まれたのだ。
そして、ローレンさんは今までで一番の感情を爆発させたかと思えば、その場に崩れ落ちる。
怒り、悲しみ、後悔、憎悪……この世のすべての負の感情がローレンさんに降り注いでるのではないかと思ってしまうほど、今の彼女の姿は痛々しかった。
「多分だけど、話を聞く限りでは、長年の一族の宗教観念による一種の集団催眠とか……洗脳のケースだと思うよ」
「無理もないことだよ。そんな状況下に生まれた頃からいただなんて……善悪を学ぶ以前の問題だ。けど、それもゾーイ達と過ごしてくうちに、本当の意味での後悔と罪悪感に変わったんだろうね」
そんなローレンさんを前に、サトルは言いにくそうにしながらも、はっきりと洗脳だと告げる。
それに続くレオは、目を閉じながら重く静かにローレンさんの気持ちを、代弁していた。
生まれた時からずっと、自分の運命を犯罪という闇に堕とせと他でもない家族に促されるなんて、普通じゃない。
そう、ローレン家とは、ずっと前から普通じゃなかったのに、シャノン・ローレンはそれを知らなかった……
運が悪いとか、知らなかったなんて信じられないとかの言葉じゃ、とても片付けられない格の違う世界。
そんな話を突き付けられた俺は、一瞬にしてゾッと背筋が凍った。
時間が解決するなんてよく言うが、俺達と過ごした時間が、本来の人間としての心を、ローレンさんに教えたというわけなのだろうか……
「死んで終わり。その言葉ほどに胸くそ悪い話ってないわよね。ごめんよ、死なせてあげられなくて」
そして、少しのローレンさんに対しての同情の空気が漂う中で、やっぱり君だけは違った。
ゾーイはどこまでも、残酷なくらいに正しくて、容赦ない言葉を床でうずくまって震えるローレンさんに吐き捨てた。
ゾーイ・エマーソン、俺達はまだまだ君みたいに、迷いなく強く立つことは難しいよ。
「ねえ、ローレンさん? 私から一つ質問してもいいかな?」
「……橘さん、構わないわ」
そんなとても気まずい空気の中で、満を持して話を切り出したのは、意外なことに菜々美だった。
俺以外の、何ならローレンさんもそれは意外だったようで、少し驚いた様子を見せて顔を上げてから、静かに頷く。
菜々美が、このタイミングでローレンさんに質問って……何を?
「地上には誰か、助けは来る?」
しかし、菜々美その質問は俺達の心を久方ぶりにエグるもので……
「……来ないわ、絶対に。あの祖父が助けを寄越すわけないわ……!!」
それに対して、ローレンさんは顔を背けながら苦しそうに答える。
一方で、その質問を言い放った菜々美本人は、怖いくらいに無表情で……
答えなんてわかってた、わかっていたけど……空から落ちたあの日から、俺達に救いなんてなかったんだ――
ほら、君はまた俺達の心をそうやってぐちゃぐちゃにかき乱すんだ……
おかげで、ローレンさんへの恐怖はなくなっていたけど、代わりにゾーイは俺達の心に大きなトラウマを残したよ?
数秒前までとは舌切り落とすとか、冗談が冗談に聞こえないようなオーラを放っていたくせに……もう元通りだ。
こういうのを、ケロッとしてるなんて表現するんだろうな。
俺達は止めてた息を吐き出したり、震えが止まったか自分の手足を確かめたりしながら、再びローレンさんと真っ直ぐ向き直った。
それに対して、ローレンさんもゆっくりと立ち上がって、俺達を見回した後でゾーイを射抜くように見ている……
「知らないわ。私は、その新しい理想郷をどう頑張っても見ることができない予定だったから……ナサニエル墜落後の動きは、一切教えられてはいないの」
「ほほう。まあ、それもそうか。死人に口なしだしね?」
密かに警戒していたが、どうやら、無駄な抵抗はやめたのか、はたまた単純に諦めたのか、ローレンさんの言葉には嘘は感じられなかった。
そのことに関しては、ゾーイも納得をしたらしく、煽りながらも頷いている。
「……クソが!! どこまでも吐き気がする話だ! そもそもな? 黙って聞いてたけどよ、お前は、何百って人間を殺すことに疑問を持たなかったのかよ!?」
けど、今度はゾーイではなく、シンが怒りをあらわにし、怒鳴り声を上げた。
得体の知れない不気味さを醸し出すゾーイとは違って、シンのそれはとても正直なわかりやすい敵意だった。
突然のことに対して、その場の全員が口を噤んでおり、変な沈黙が流れる。
「この野郎、答えやが……!!」
「持たなかったわ! そうよ、何も疑問を持たなかったのよ! これが正しいことだって信じて疑わなかった! 任務を遂行して、私は死んで浄化されてまた生まれ変わった空島に生を受けるって、信じていたわ! けど……!!」
答えようとしないローレンさんと、その空気にイラついたのか、またシンはローレンさんに詰め寄ろうとするが、それは彼女自身によって阻まれたのだ。
そして、ローレンさんは今までで一番の感情を爆発させたかと思えば、その場に崩れ落ちる。
怒り、悲しみ、後悔、憎悪……この世のすべての負の感情がローレンさんに降り注いでるのではないかと思ってしまうほど、今の彼女の姿は痛々しかった。
「多分だけど、話を聞く限りでは、長年の一族の宗教観念による一種の集団催眠とか……洗脳のケースだと思うよ」
「無理もないことだよ。そんな状況下に生まれた頃からいただなんて……善悪を学ぶ以前の問題だ。けど、それもゾーイ達と過ごしてくうちに、本当の意味での後悔と罪悪感に変わったんだろうね」
そんなローレンさんを前に、サトルは言いにくそうにしながらも、はっきりと洗脳だと告げる。
それに続くレオは、目を閉じながら重く静かにローレンさんの気持ちを、代弁していた。
生まれた時からずっと、自分の運命を犯罪という闇に堕とせと他でもない家族に促されるなんて、普通じゃない。
そう、ローレン家とは、ずっと前から普通じゃなかったのに、シャノン・ローレンはそれを知らなかった……
運が悪いとか、知らなかったなんて信じられないとかの言葉じゃ、とても片付けられない格の違う世界。
そんな話を突き付けられた俺は、一瞬にしてゾッと背筋が凍った。
時間が解決するなんてよく言うが、俺達と過ごした時間が、本来の人間としての心を、ローレンさんに教えたというわけなのだろうか……
「死んで終わり。その言葉ほどに胸くそ悪い話ってないわよね。ごめんよ、死なせてあげられなくて」
そして、少しのローレンさんに対しての同情の空気が漂う中で、やっぱり君だけは違った。
ゾーイはどこまでも、残酷なくらいに正しくて、容赦ない言葉を床でうずくまって震えるローレンさんに吐き捨てた。
ゾーイ・エマーソン、俺達はまだまだ君みたいに、迷いなく強く立つことは難しいよ。
「ねえ、ローレンさん? 私から一つ質問してもいいかな?」
「……橘さん、構わないわ」
そんなとても気まずい空気の中で、満を持して話を切り出したのは、意外なことに菜々美だった。
俺以外の、何ならローレンさんもそれは意外だったようで、少し驚いた様子を見せて顔を上げてから、静かに頷く。
菜々美が、このタイミングでローレンさんに質問って……何を?
「地上には誰か、助けは来る?」
しかし、菜々美その質問は俺達の心を久方ぶりにエグるもので……
「……来ないわ、絶対に。あの祖父が助けを寄越すわけないわ……!!」
それに対して、ローレンさんは顔を背けながら苦しそうに答える。
一方で、その質問を言い放った菜々美本人は、怖いくらいに無表情で……
答えなんてわかってた、わかっていたけど……空から落ちたあの日から、俺達に救いなんてなかったんだ――
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