エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第四章-⑵ ナサニエル墜落事件の真相

真実はすべてを語らずに

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「今日は急な招集にも関わらず、多忙を極める中で、作業を中断して集まってくれたこと感謝する!」


 ハロルドの少しばかり堅苦しい挨拶によって、静まり返った王国。
 あの日から三日、ローレンさん以外の俺達全員は今、いつぞやの懐かしい処刑台に立ち、全生徒と、全犬族と猫族のことを見下ろしている。
 あの後で結局は、ローレンさんはゾーイが最初に言った通りに、王国の部屋に見張りをつけて、必要な時以外の外出を禁じるという処分に落ち着いた。
 まあ、俺達の誰かが尋ねても話をしてくれることはないけど、ゾーイに言わせれば腹に物を入れているうちは大丈夫だという……血も涙もないけどね。
 けど、確かに、ローレンさんは用意された分の食事をすべて完食してるし、そこまで神経質になる必要もないだろう。
 そんなわけで、俺達はローレンさん抜きで話し合いを重ねた。
 散々話し合った、それこそ寝る間も惜しみ、自分の担当している作業を他の者に任せてまで、俺達はナサニエル墜落事件のこと、ローレンさんのこと、空島への帰還計画のことについて話し合った。
 そして、俺達全員の出した答えが……


「今回集まってもらったのは、私達が考えた空島帰還計画について発表をするためだ! しかし、そのためにはこれまでの経緯を話しておく必要がある!」


 ハロルドの言葉に、静まり返っていた王国は息を吹き返したように、森全体に響き渡る歓声と混乱の声を上げた。
 俺達は長い話し合いの結果、話をするという選択肢を選んだ……都合のいい部分だけを。
 最初はほぼ全員が、何も好き好んで混乱を招くような話をしなくてもいいのではという意見だった。
 けど、良かれと思って黙っていて、それが結果的に悪い未来に繋がることになってしまったら取り返しがつかないと意見を出したのは、レオだった。
 それじゃどうするのかと、一触即発の険悪なムードが流れた時、そこに終止符を打ったのは、ゾーイの言葉だった。
 俺達はバカ真面目すぎると、すべてを公にしなきゃいけないなんて誰が決めたと、君は淡々と言い放った。
 そして、さらにゾーイは……その場の空気の舵を常に取るのは俺達だと、自信を持たなきゃその先に待つもっと大きな敵との直接対決で役に立たないと、心底呆れたという具合に吐き出したのだ。
 その言葉に、俺は目が覚めるような感覚に陥ったのを今でも覚えてる。
 空気の舵を取る……何て上手い例えだと、そして、それを言うのが君なのかと笑ってしまいそうだった。
 ゾーイは、俺達の意見なんか常に無視して、自分の手のひらの上で空気や事態をコントロールするのが天才的だった。
 君はそれを今度は俺達にやれと、そう言う……本当にゾーイ・エマーソンって人間は、俺達の心を弄ぶのが上手いよ。


「おい、待てよ! その肝心の、首相の関係者っていうのは誰なんだよ!」


 さてさて、どうやら俺がそんなことを思い出している間に、ハロルドからの経緯の説明は終わっていたようだ。
 そして、案の定、俺達が想定していた通りの声が上がった。


「そうだ! 遺体のこととか、何か月前のことだと思ってんだ!」
「空島へ帰還するメンバーだって、全部を勝手に決めて何様のつもりよ!」


 犬族と猫族は、自分達が誕生したことの経緯や、神としてきた者の招待が荻凛太郎という人間だった事実に困惑し、言葉を発する余裕はないようだ。
 そう、そうなると、この聞こえてくる俺達のことを非難する声は、他のナサニエルの生徒達のもの……
 空島に帰還してから、どのくらいで普通の生活に戻れるか、どのくらい正確に情報が伝わるか、そんなことここにいる誰にもわかるはずもないことだ。
 けど、今回のナサニエル墜落事件に巻き込まれた俺達は、言わば被害者で、それは他の生徒達も同じで、被害者で当事者の人間はこの事件の真実を、きちんと知るべきだと、俺は思った。
 そんな俺の意見に、みんなが賛同してくれたが、そこで気がかりだったのはローレンさんの存在だ。
 真実を話すということは、この事件の実行犯がローレンさんだと、必然的に伝わることになるが……それだけは、どうしても避けたかった。
 考えたくはなかったけど、人間というのはすごく弱くて脆い生き物だから、憎しみをローレンさんにぶつけて最悪な事態にならないとは言い切れないことだ。
 そこで俺達は、ローレンさんの名前を絶対に出さず、すべての経緯を話すことにした。
 そのことで、俺達が矢面に立ち、非難を受ける展開になることはわかっていたけど……本当に予想通りだな。


「昴、清々しいほどの反応だな?」
「そうだな……ここで笑ったら、俺は確実にいい的になる」


 隣に立つサトルから、そんな軽口が聞こえ、それにまた俺も軽口で返せるほどには余裕で冷静だった。


「……静かにしてくれないかな」


 そうボソリと呟いたのは、俺の少し前にいたジェームズだった。
 前の俺達だったら、この事態に対して対処をすることもできずに立ち尽くすだけだっただろう。
 けど、あれから何か月だ? 
 もうあの頃の、何も知らなかった俺達じゃないんだよ……全員が君に導かれることで成長してきたんだ。


「今の僕達は、どんなことを言われようとも揺らぐことはない! 今回の計画のことも心の底から、間違っていないと断言できる!」


 ジェームズは一歩進んで、大声でそう目の前の群衆に叫んだのだった。
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