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第四章-⑶ ラスボスとの直接対決
忘れちゃいけないことがある
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まさか、ゾーイに突っ込めと言われて素直に突っ込んだ部屋が目的地の執務室とは夢にも思わずで……俺と、おそらく望もだが、まったくもって心の準備ができていなかった。
とにかく、いつまでも床に座り込んだままでは話にならないと、俺と望もは顔を合わせて立ち上がり、相手と目を合わせた……
背中まで伸びた青みを帯びた鮮やかな江戸紫の髪、人間味を忘れるほどの陶器のような白い肌と、青をベースにして茶色が混ざったような、ローレンさんと生き写しのごとくそっくりな瞳。
マイルズ・ローレンは、俺の記憶が正しければとうの昔に五十歳は超えていたように思うが、若くて歳を取らないとメディアはこぞって報じた。
これは納得だ……こんなの三十歳前半とかにしか見えないだろ。
人間離れしたその美しいと評価されるはずの見た目は、俺にはまるで人形だとしか思えず、ひどく不気味だった。
何より、マイルズには、どこか得体の知れない圧がある……油断をすれば、押し潰されそうな。
「まるで、幽霊でも見たような顔ですけれど、大丈夫ですか? マイルズ・ローレン首相?」
そんなマイルズに、俺、望、ローレンさんさえも気圧されてかけていたというのに、ゾーイだけは変わらない。
君は、首を傾げて、淡々と無表情でマイルズに話しかけるのだ。
本当に肝が据わってるというか、大物というか……
「あ、ああ……すまなかった。ひどく混乱していてね。シャノン? 本当に、君はシャノンなのか?」
それに対して、マイルズの不気味なほどに落ち着いた声には、確かに少しの驚きが混ざっていた。
表情も固いかと思ったが、それもすぐ持ち直したように、優しく穏やかにローレンさんに話しかける。
「あ、あの……おじい様、この度は……」
「どうした? シャノン? そんなに震えて、とても怖い目に遭ったのか? よくよく私に顔を見せておくれ」
「すみません……あの、お許しを……!!」
「すまなかったな? すぐに救助隊を出したんだが……なかなか、ナサニエルを探し出すことができなくて……」
しかし、マイルズに話しかけられた当の本人のローレンさんは、気の毒になるほど怯えていた。
全身が小刻みに震え、口も言葉が上手く回らず、さらには目には涙。
そんな態度のローレンさんに対し、マイルズはあくまで心配する祖父という体を崩さず、近付いている。
何なんだよ、この異常な状況は……
話に聞いていたから、マイルズの言動はすべてが胡散臭く見える。
それに合わせて、優しいはずなのに何を考えているのかがまるでわからないあの瞳は、無意識なのか……蛇に睨まれたように動きを封じる。
こんなに実の祖父に怯えるとか、尋常じゃないだろうよ。
こんな状態で説得とか……もう別の方法を考えた方がいいだろうと、俺が密かに考えていた時だ。
「あら、マイルズ首相ってば、そんなに堂々と嘘つくとか、針千本ですね?」
ゾーイがとてもいい笑顔で、しかし目の奥がまったく笑っていない顔で、そう吐き捨てたのだ。
すると、マイルズの意識は自然とゾーイへと向けられたのだが……
「嘘とは……何のことかな?」
「あー、ちなみに誤魔化そうとしたって無駄ですよ? あなたが、今回のナサニエル墜落を引き起こした首謀者だとか、その鮮やかな手口とか、それを利用して長年の一族の悲願であった神変動説を遂行するとか。まあ、その他諸々のことをあなたの愛しの孫娘が、洗いざらい全部話してくれましたから」
本当に一瞬だが、マイルズの雰囲気が変わったのがわかった。
ねっとりと背中を這い上がるような感覚に、俺は襲われた。
何なんだ、このプレッシャーは……
それでもゾーイは笑顔で、背中にローレンさんを守りながら淡々と話を続けるのだから、本当にただ者じゃないよ。
「……ほほう。そうですか、すべてを話してしまったのですか」
「あら、意外に認めましたね?」
けど、ゾーイの話が終わると、なぜかマイルズからの異様なプレッシャーはなくなって、元の穏やかな顔に戻る。
「自分の行いを否定することは、神への冒涜だと教わりました。さて、それでは名も知らぬ通りすがりのあなたは、私に何を望むのですか?」
「決まってるでしょ? ローレン家一族まとめて、自首一択です。もし、誤魔化そうとするなら、このボイスレコーダーの内容を、各メディアにばら撒きます」
「これは、これは……素晴らしく用意周到です。あなたのような頭の切れる存在を敵に回したのは、とても痛手で、計画外でしたね」
「褒めても何も出ませんけどね?」
それどころか、何とマイルズは暗に自分の行いを認めたのだ……え?
さらには、ゾーイがボイスレコーダーをネタばらしをしても、眉の一つだって動かすこともせず、受け入れてる……
思わず、望と顔を見合わせるが、俺達は困惑の表情を浮かべるだけだ。
は? 神を信じる連中って、こんな状況でも神至上主義なのか?
混乱の最中でも、目の前ではゾーイとマイルズの話は進むわけで……え? 本当にこんなあっさりと終わり?
当初の平和的話し合い成功か……そう思ったんだ。
「……しかし、まだまだ若いですね」
忘れちゃいけないんだ、まだ俺達はこの目の前のすべてを引き起こした首謀者の、手のひらの上だってことを。
「人間とは愚かです。それは悲しいことに、年月を重ねれば積もり積もっていくのです。そして、私はあなたより、少なくとも三十年は多く生きているので、たくさんのことを知ってるのですよ?」
またこの感覚だ……地を這うような不気味な、プレッシャーだ。
マイルズは何を考えてる? その貼り付けた笑顔の奥に何を……意識を逸らそうとして、わざと話してる?
「たとえば、人間は勝利を確信した時に隙ができるとか……」
その時、懐に手を入れたマイルズの可能性を、俺は瞬時に理解していた。
「ゾーイ、伏せろッ!!!!」
ゾーイは、俺達の光だ――誰より、絶対に失っちゃいけないんだよ。
「……は? ちょっ、昴……!!」
とにかく、いつまでも床に座り込んだままでは話にならないと、俺と望もは顔を合わせて立ち上がり、相手と目を合わせた……
背中まで伸びた青みを帯びた鮮やかな江戸紫の髪、人間味を忘れるほどの陶器のような白い肌と、青をベースにして茶色が混ざったような、ローレンさんと生き写しのごとくそっくりな瞳。
マイルズ・ローレンは、俺の記憶が正しければとうの昔に五十歳は超えていたように思うが、若くて歳を取らないとメディアはこぞって報じた。
これは納得だ……こんなの三十歳前半とかにしか見えないだろ。
人間離れしたその美しいと評価されるはずの見た目は、俺にはまるで人形だとしか思えず、ひどく不気味だった。
何より、マイルズには、どこか得体の知れない圧がある……油断をすれば、押し潰されそうな。
「まるで、幽霊でも見たような顔ですけれど、大丈夫ですか? マイルズ・ローレン首相?」
そんなマイルズに、俺、望、ローレンさんさえも気圧されてかけていたというのに、ゾーイだけは変わらない。
君は、首を傾げて、淡々と無表情でマイルズに話しかけるのだ。
本当に肝が据わってるというか、大物というか……
「あ、ああ……すまなかった。ひどく混乱していてね。シャノン? 本当に、君はシャノンなのか?」
それに対して、マイルズの不気味なほどに落ち着いた声には、確かに少しの驚きが混ざっていた。
表情も固いかと思ったが、それもすぐ持ち直したように、優しく穏やかにローレンさんに話しかける。
「あ、あの……おじい様、この度は……」
「どうした? シャノン? そんなに震えて、とても怖い目に遭ったのか? よくよく私に顔を見せておくれ」
「すみません……あの、お許しを……!!」
「すまなかったな? すぐに救助隊を出したんだが……なかなか、ナサニエルを探し出すことができなくて……」
しかし、マイルズに話しかけられた当の本人のローレンさんは、気の毒になるほど怯えていた。
全身が小刻みに震え、口も言葉が上手く回らず、さらには目には涙。
そんな態度のローレンさんに対し、マイルズはあくまで心配する祖父という体を崩さず、近付いている。
何なんだよ、この異常な状況は……
話に聞いていたから、マイルズの言動はすべてが胡散臭く見える。
それに合わせて、優しいはずなのに何を考えているのかがまるでわからないあの瞳は、無意識なのか……蛇に睨まれたように動きを封じる。
こんなに実の祖父に怯えるとか、尋常じゃないだろうよ。
こんな状態で説得とか……もう別の方法を考えた方がいいだろうと、俺が密かに考えていた時だ。
「あら、マイルズ首相ってば、そんなに堂々と嘘つくとか、針千本ですね?」
ゾーイがとてもいい笑顔で、しかし目の奥がまったく笑っていない顔で、そう吐き捨てたのだ。
すると、マイルズの意識は自然とゾーイへと向けられたのだが……
「嘘とは……何のことかな?」
「あー、ちなみに誤魔化そうとしたって無駄ですよ? あなたが、今回のナサニエル墜落を引き起こした首謀者だとか、その鮮やかな手口とか、それを利用して長年の一族の悲願であった神変動説を遂行するとか。まあ、その他諸々のことをあなたの愛しの孫娘が、洗いざらい全部話してくれましたから」
本当に一瞬だが、マイルズの雰囲気が変わったのがわかった。
ねっとりと背中を這い上がるような感覚に、俺は襲われた。
何なんだ、このプレッシャーは……
それでもゾーイは笑顔で、背中にローレンさんを守りながら淡々と話を続けるのだから、本当にただ者じゃないよ。
「……ほほう。そうですか、すべてを話してしまったのですか」
「あら、意外に認めましたね?」
けど、ゾーイの話が終わると、なぜかマイルズからの異様なプレッシャーはなくなって、元の穏やかな顔に戻る。
「自分の行いを否定することは、神への冒涜だと教わりました。さて、それでは名も知らぬ通りすがりのあなたは、私に何を望むのですか?」
「決まってるでしょ? ローレン家一族まとめて、自首一択です。もし、誤魔化そうとするなら、このボイスレコーダーの内容を、各メディアにばら撒きます」
「これは、これは……素晴らしく用意周到です。あなたのような頭の切れる存在を敵に回したのは、とても痛手で、計画外でしたね」
「褒めても何も出ませんけどね?」
それどころか、何とマイルズは暗に自分の行いを認めたのだ……え?
さらには、ゾーイがボイスレコーダーをネタばらしをしても、眉の一つだって動かすこともせず、受け入れてる……
思わず、望と顔を見合わせるが、俺達は困惑の表情を浮かべるだけだ。
は? 神を信じる連中って、こんな状況でも神至上主義なのか?
混乱の最中でも、目の前ではゾーイとマイルズの話は進むわけで……え? 本当にこんなあっさりと終わり?
当初の平和的話し合い成功か……そう思ったんだ。
「……しかし、まだまだ若いですね」
忘れちゃいけないんだ、まだ俺達はこの目の前のすべてを引き起こした首謀者の、手のひらの上だってことを。
「人間とは愚かです。それは悲しいことに、年月を重ねれば積もり積もっていくのです。そして、私はあなたより、少なくとも三十年は多く生きているので、たくさんのことを知ってるのですよ?」
またこの感覚だ……地を這うような不気味な、プレッシャーだ。
マイルズは何を考えてる? その貼り付けた笑顔の奥に何を……意識を逸らそうとして、わざと話してる?
「たとえば、人間は勝利を確信した時に隙ができるとか……」
その時、懐に手を入れたマイルズの可能性を、俺は瞬時に理解していた。
「ゾーイ、伏せろッ!!!!」
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