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第四章-⑶ ラスボスとの直接対決
絶望の音が聞こえるよ
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気付いたら視界が反転しており、俺は背中を激しく打ち付けていた。
あれ……? どうなったんだっけか?
「昴、わかるか!? 大丈夫か!?」
「あんた、こんな時に……何で、そんな無茶してんのよ!?」
「……うおわっと!?!?」
ぼんやりとした視界と、上手いこと機能していない思考を動かそうとしている時に、目の前に見知った顔が現れ、俺は間抜けな声を出す。
それは今にも泣きそうな片割れと、珍しく焦ってるような我らが女王様の顔であった。
「急に……何を、あたしのことを庇って飛び出してんのよ!」
「え? あ、そっか……」
時間にすると数十秒か……? 意識が混濁していたらしい俺は、ゾーイの言葉にすべてを思い出した。
「心臓止まるかと思ったんだぞ!? ケガとかしてないよな!?」
「本当にバカじゃないの!? あたしの反射神経を忘れたわけ!? あんな……電撃銃ぐらい避けられんのよ!」
望は真っ青な顔で叫びながら俺の体に異常がないか必死に探り、ゾーイは見たことのない動揺を見せていた。
そうだ、俺はとっさに、マイルズが懐に手を入れた瞬間、ゾーイを庇うために飛び出したんだ。
すると、俺の予想通りに狙撃音が聞こえて、俺は次にくるであろう激痛を覚悟したはずだったのに……ゾーイに、土壇場で引っ張られて床に倒れ、俺は無傷で済んだんだ。
あー、俺は助けられたんだな、本当に情けないよな……
冷静に考えたら、俺からの助けなんて必要なかった。
俺達十五人の中で、戦闘力だけで判断をするなら、間違いなく長年無法地帯で鍛えられてきたアラン、デルタ、シンの三人は最強だ。
けど、その三人に負けず劣らずに張り合えるのは、ゾーイだ。
特に、体力は人間のものかどうかも怪しいほどだし、素早さだって並のそれではないし。
ゾーイの言う通り、さっきの狙撃も余裕で避けられたのだろう、けど……
「ごめん……けど、動かないとかの判断はなかったよ」
俺は起き上がり、目の前の片割れと女王様に告げる。
どういう顔をしていたのかは、自分ではわからないけど、おそらくひどく締まりのない顔を晒していたことだろう。
それでも、それは本心だ……俺の心に後悔なんてなかった。
ゾーイにもしものことがあったら、俺は耐えられないし、背中を押してくれた全員に申し訳が立たなくなる。
けど、それを聞いた時の望と、特にゾーイの顔は見物だった。
望は顔を真っ赤にしながら泣くのを我慢していたし、ゾーイは顔に手を当てて項垂れていたのだ。
これは珍しいなと、口角が上がりそうになるのを、俺は必死に抑える。
もし、バレたら、どんな罵倒が飛んでくるかわかったもんじゃないからな。
「フッ……ハハハ! 時には、無知ほど恐ろしいものはないな!」
しかし、少し緩んだ空気をいとも簡単に壊してしまう不気味な笑い声を上げたのは、マイルズだった。
「な、何を……笑ってやがる! クソほど気味悪いんだよ! ついに、気でも触れたか!」
「ちょっ、望! あんま煽るな!」
異様だった……目の前で腹を抱えてマイルズが笑い転げるという、異様すぎるその光景は、望が叫ぶ通りに気味が悪かった。
叫んだ望を宥めて、俺達は一歩ずつ涙を流すマイルズから距離をとる。
「昴と、君は言ったかな? 確か、日本語で星座の意味だったか……親御さんはとてもいい名前を付けられた」
そんな時にマイルズが声をかけた相手は、まさかの俺で……
今まで散々やり合ったゾーイでも、計画を失敗して舞い戻った孫娘のローレンさんでも、暴言を吐いた望でもなく、俺をまっすぐに見つめる。
その瞳に、俺は金縛りにあった感覚に陥ってしまって、動けなかった……
何だ、無知ほど何だって? 目の前の男は何が言いたい?
「およそ、十か月か……子どもの十か月というものは、私達大人よりも遥かに長く感じるものだ。その間に、君達には絆というものが生まれたのだろう。実に美しいね……しかし、昴くん? 君は、その絆に汚染され、自分がどれだけの危険を犯したか自覚していないね?」
「さっきから……ベラベラ、まどろっこしいんだよ! 何が言いてえんだ!?」
マイルズの様子を伺うように、誰もが黙る空間で、当の本人だけが堰を切ったように饒舌に話し出す。
遠回しにするような言い方に、痺れを切らした望が、すかさず噛み付く。
すると、ようやくマイルズの視線が動くが、それは俺達を見下すような、余裕をも感じさせる視線で……何を見てる?
「お、おじい様? あの、これ……」
マイルズの視線をたどり、そこに視線を移そうとした時、いち早く震える声を上げたのは、ローレンさんで……
「は? 壁に、穴って……?」
そのローレンさんの声に、嫌な予感が押し寄せた。
そして、目線を上げた先の光景に、俺は力が抜けるような声が出る。
執務室の嫌味なほど上質な壁にできた見覚えのある穴と、そこから出る煙。
嫌な汗が俺の背中を伝って、その場の空気が重くのしかかる。
「そう。これは、正真正銘の実弾入りの拳銃だよ?」
後ろから聞こえた絶望への前触れの宣告とともに、再びの発砲音。
あっという間に、執務室は火を吹いた拳銃の臭いに包まれる。
「あ……ボイスレコーダーが……!!」
ローレンさんの悲鳴に、俺は固く閉ざした目を開け、後ろを振り返った。
そこには、跡形もなくなってたすべてを録音したボイスレコーダーと……
「これで、証拠は文字通り粉々となってしまったわけだ」
俺達を嘲笑っている、マイルズの姿があった。
あれ……? どうなったんだっけか?
「昴、わかるか!? 大丈夫か!?」
「あんた、こんな時に……何で、そんな無茶してんのよ!?」
「……うおわっと!?!?」
ぼんやりとした視界と、上手いこと機能していない思考を動かそうとしている時に、目の前に見知った顔が現れ、俺は間抜けな声を出す。
それは今にも泣きそうな片割れと、珍しく焦ってるような我らが女王様の顔であった。
「急に……何を、あたしのことを庇って飛び出してんのよ!」
「え? あ、そっか……」
時間にすると数十秒か……? 意識が混濁していたらしい俺は、ゾーイの言葉にすべてを思い出した。
「心臓止まるかと思ったんだぞ!? ケガとかしてないよな!?」
「本当にバカじゃないの!? あたしの反射神経を忘れたわけ!? あんな……電撃銃ぐらい避けられんのよ!」
望は真っ青な顔で叫びながら俺の体に異常がないか必死に探り、ゾーイは見たことのない動揺を見せていた。
そうだ、俺はとっさに、マイルズが懐に手を入れた瞬間、ゾーイを庇うために飛び出したんだ。
すると、俺の予想通りに狙撃音が聞こえて、俺は次にくるであろう激痛を覚悟したはずだったのに……ゾーイに、土壇場で引っ張られて床に倒れ、俺は無傷で済んだんだ。
あー、俺は助けられたんだな、本当に情けないよな……
冷静に考えたら、俺からの助けなんて必要なかった。
俺達十五人の中で、戦闘力だけで判断をするなら、間違いなく長年無法地帯で鍛えられてきたアラン、デルタ、シンの三人は最強だ。
けど、その三人に負けず劣らずに張り合えるのは、ゾーイだ。
特に、体力は人間のものかどうかも怪しいほどだし、素早さだって並のそれではないし。
ゾーイの言う通り、さっきの狙撃も余裕で避けられたのだろう、けど……
「ごめん……けど、動かないとかの判断はなかったよ」
俺は起き上がり、目の前の片割れと女王様に告げる。
どういう顔をしていたのかは、自分ではわからないけど、おそらくひどく締まりのない顔を晒していたことだろう。
それでも、それは本心だ……俺の心に後悔なんてなかった。
ゾーイにもしものことがあったら、俺は耐えられないし、背中を押してくれた全員に申し訳が立たなくなる。
けど、それを聞いた時の望と、特にゾーイの顔は見物だった。
望は顔を真っ赤にしながら泣くのを我慢していたし、ゾーイは顔に手を当てて項垂れていたのだ。
これは珍しいなと、口角が上がりそうになるのを、俺は必死に抑える。
もし、バレたら、どんな罵倒が飛んでくるかわかったもんじゃないからな。
「フッ……ハハハ! 時には、無知ほど恐ろしいものはないな!」
しかし、少し緩んだ空気をいとも簡単に壊してしまう不気味な笑い声を上げたのは、マイルズだった。
「な、何を……笑ってやがる! クソほど気味悪いんだよ! ついに、気でも触れたか!」
「ちょっ、望! あんま煽るな!」
異様だった……目の前で腹を抱えてマイルズが笑い転げるという、異様すぎるその光景は、望が叫ぶ通りに気味が悪かった。
叫んだ望を宥めて、俺達は一歩ずつ涙を流すマイルズから距離をとる。
「昴と、君は言ったかな? 確か、日本語で星座の意味だったか……親御さんはとてもいい名前を付けられた」
そんな時にマイルズが声をかけた相手は、まさかの俺で……
今まで散々やり合ったゾーイでも、計画を失敗して舞い戻った孫娘のローレンさんでも、暴言を吐いた望でもなく、俺をまっすぐに見つめる。
その瞳に、俺は金縛りにあった感覚に陥ってしまって、動けなかった……
何だ、無知ほど何だって? 目の前の男は何が言いたい?
「およそ、十か月か……子どもの十か月というものは、私達大人よりも遥かに長く感じるものだ。その間に、君達には絆というものが生まれたのだろう。実に美しいね……しかし、昴くん? 君は、その絆に汚染され、自分がどれだけの危険を犯したか自覚していないね?」
「さっきから……ベラベラ、まどろっこしいんだよ! 何が言いてえんだ!?」
マイルズの様子を伺うように、誰もが黙る空間で、当の本人だけが堰を切ったように饒舌に話し出す。
遠回しにするような言い方に、痺れを切らした望が、すかさず噛み付く。
すると、ようやくマイルズの視線が動くが、それは俺達を見下すような、余裕をも感じさせる視線で……何を見てる?
「お、おじい様? あの、これ……」
マイルズの視線をたどり、そこに視線を移そうとした時、いち早く震える声を上げたのは、ローレンさんで……
「は? 壁に、穴って……?」
そのローレンさんの声に、嫌な予感が押し寄せた。
そして、目線を上げた先の光景に、俺は力が抜けるような声が出る。
執務室の嫌味なほど上質な壁にできた見覚えのある穴と、そこから出る煙。
嫌な汗が俺の背中を伝って、その場の空気が重くのしかかる。
「そう。これは、正真正銘の実弾入りの拳銃だよ?」
後ろから聞こえた絶望への前触れの宣告とともに、再びの発砲音。
あっという間に、執務室は火を吹いた拳銃の臭いに包まれる。
「あ……ボイスレコーダーが……!!」
ローレンさんの悲鳴に、俺は固く閉ざした目を開け、後ろを振り返った。
そこには、跡形もなくなってたすべてを録音したボイスレコーダーと……
「これで、証拠は文字通り粉々となってしまったわけだ」
俺達を嘲笑っている、マイルズの姿があった。
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